73話 装備新調!そして勇者が生まれた街
俺たちは装備が完成するまでの二日間、おのおのがやりたいことをして過ごしていた。
フェンリはダール国についての情報集めをし、地元の商人や旅人に話を聞いていたらしい。
そのせいで少々疲れていたようだが、「これくらいでへばるわけにはいきませんから」と気丈に振る舞っていた。
ノアはというと、朝から晩まで空気元素の魔法を使えるように鍛錬に励んでいた。
途中で何度か魔力切れを起こして倒れ込んだらしいが、次の瞬間にはまた立ち上がって練習を続ける姿を見かけた。「だって、もっと強くなりたいもん!」と言う彼女の笑顔には、ただの練習ではない強い意志が宿っていた。
そして俺も、自分が習得したばかりの雷元素魔法を自由に扱えるように鍛錬をしていた。
最初は思うように雷をコントロールできず、焦げ臭い匂いを漂わせる失敗もあったが、徐々に精度が上がっていくのが実感できた。
そうして過ごすうちに、二日があっという間に過ぎた。
「おう、よく来たなお前ら! 例のモン、出来てるぜ!」
装備が完成したという知らせを受けて、俺たちは鍛冶屋を訪れた。
ギルドマスターから教えられていた場所だ。
入口には先日鑑定所で見た職人の一人が立っていて、俺たちを作業場の中に案内した。
「すごい……」
作業場に足を踏み入れた瞬間、ノアが感嘆の声を漏らす。
壁にはずらりと武器や防具が飾られており、それぞれが精巧に作られているのが一目でわかった。
その中には禍々しい雰囲気を放つ奇妙な形の防具もあり、俺はそれが吸魔の装備でないことを心の中で祈った。
しばらく待っていると、奥からガシャガシャと音を立てながら何かを抱えている鍛冶職人が現れた。
「こいつらが、その装備たちだ!」
男は目の前の大きな石机に、抱えていた装備品をドサッと置いた。そして、一つひとつ丁寧に並べ直す。
「わぁ~!」
ノアが目を輝かせながら机上を覗き込む。
その視線を追って俺とフェンリも机を見ると、そこには鉄でつくられた鎧や籠手、脛当てなどの防具類が並んでいた。
さらに、装飾品のブレスレットやネックレス、指輪など、様々な種類の装備品も置かれていた。それら全てに紫色の魔石が施されており、見るからに特別な代物だとわかった。
「これが吸魔の魔石を使用して作られた装備ですか……」
フェンリが一つの鎧を持ち上げながら呟く。しかし、その直後――
「うっぉっと!」
鎧の重さに身体がよろめき、危うく倒れかけるフェンリを職人が慌てて支えた。
「ちと、お前らには重すぎたか……」
職人が頭を掻きながら申し訳なさそうに呟く。
「重いというか……これでは素早く動けなくなるかもしれませんね」
フェンリが苦笑いを浮かべる。俺も彼の言葉に同意せざるを得なかった。俺たちは魔法が主力であり、装備の重量が動きを妨げるようでは本末転倒だ。
「それじゃあ、どうします? 何か工夫を考えないといけないですね」
俺が提案すると、ノアが手を挙げた。
「分けたらどうかな? 全部を一人で使うんじゃなくて、みんなで分担して装備を着ければいいんじゃない?」
その案にフェンリも頷く。
「確かに、そのほうが合理的かもしれません。では、どの装備を誰が使うかを考えましょう」
話し合いの結果、フェンリが膝当て、脛当て、甲当ての三つを装備することになった。
ノアには鎧を装備してもらい、その上から重量を軽減する効果を持つマントを羽織らせることにした。 このマントは金貨十枚もする高価な品だが、ノアがキラキラした目で欲しそうに眺めていたため、つい買ってしまった…。
そして俺は、自作の魔具を手放し、新しい籠手と腕甲を装備することにした。さらに、小物のブレスレットや指輪は、それぞれ好きなものを一つ選んで身につけることにした。
残った装備品については、ノアにはこっそり、マントを購入した分を差し引いて職人に譲ることにした。
「助かったぜ、お前らの協力のおかげでいいものが作れた。また何かあったらいつでも来な!」
職人に感謝の言葉を伝え、俺たちは鍛冶屋を後にした。
装備を一新した俺たちは、次の街へと馬車を走らせた。揺れる馬車の中、ノアが新しい装備に満足げに目を輝かせながら言う。
「ねえ、これで私たちもっと強くなれるよね!」
「そうですね。今回の装備がどこまで役に立つか、試すのが楽しみです」
俺もその言葉に頷いた。フェンリも静かに装備を確認しながら、「これで無駄にはできませんね」と新しい装備に満足している様子だった。
「ところで、次の街までどのくらいかかるの?」
ノアが馬車の手綱を握るフェンリに尋ねた。興味津々といった表情だ。
「デイヴスを南東に出て、半日程度ですね。次の街の名前はフェクーシと言って、聞いた話によると大昔、当時の六星魔王の一人を打ち倒した『勇者』が生まれた街だそうです」
フェンリはデイヴスで集めた情報を記録した手帳を広げ、きちんと整理されたメモを見ながら説明を始めた。その姿はまるで教師のようだ。
「えっ、勇者様が生まれた街!? なんだかすごそう!」
ノアが興奮した様子でマントをなびかせる。彼女の目は輝いていて、もうすでにフェクーシという街に対する期待でいっぱいのようだった。
「確かに、勇者は他にも多くの偉業を成し遂げているらしいですからね」
俺もそう言って頷いた。
六星魔王というのは、いつの時代も人々を恐怖で支配した存在だ。その一人を倒したというのだから、その勇者は間違いなく伝説級の存在だろう。
「だからあの国王様があんなに躍起になって勇者探しをしてるんだね。でも……」
ノアが急に声を落とす。
「そのやり方にはちょっと納得いかないよね。だって、カイルにやったこととか……」
ノアの表情が曇る。俺が国王にされた仕打ちが浮かんだのだろう。フェンリとノアの間に少しだけ重い空気が流れた。
「……ノアさんの言う通りです。どれだけ高尚な目的があったとしても、その手段が人を傷つけたり、自由を奪うものであっては意味がありません」
フェンリがそう呟き、しっかりと手綱を握り直す。その背中には揺るぎない決意が見えた。
「そうですね。まぁ、俺は俺のやり方で戦っていくよ」
俺がそう言うと、ノアもフェンリも小さく頷いた。それで、少しだけ空気が和らいだ気がする。
フェクーシまでの道中は幸い魔獣も現れず、和やかな雰囲気のまま進んでいった。ノアはずっとフェンリに質問をしていた。
「ねえ、その勇者ってどんな人だったの?」
「具体的な人物像については資料が少なく、詳しくは分かりません。ただ、六星魔王を討った後、長い間各地を旅していたという話が残っています」
「旅をしてたんだ……。もしかして、すごく旅好きな人だったのかな?」
「可能性はありますね。ですが、勇者がどのような人物だったかに関しては、ほとんどが伝説や物語の域を出ていませんから、真実かどうかはわかりません」
フェンリの丁寧な説明に、ノアはますます興味を深めた様子で、「フェクーシで何か残ってるのかな?」と期待に胸を膨らませている。
俺はというと、馬車の揺れに身を任せながら新しい装備に手をやった。これがどれだけ役に立つか、今後の戦いで試すことになるだろう。そして、この装備を使いこなせれば、俺たちの旅もより安定したものになるはずだ。
そうして、昼過ぎには目的地であるフェクーシに到着した。
「わあ……! すっごい!」
馬車を降りたノアが目を輝かせて街を見回す。フェクーシは古き良き雰囲気を持ちながらも活気に満ちた街だった。街の中央には巨大な噴水があり、その隣には『勇者記念碑』と呼ばれる石碑が立っているのが見えた。
「これが勇者の生まれた街……確かに、それらしい雰囲気ですね」
フェンリも街の様子をじっくり観察している。
「さて、まずは宿を探しましょう。それから、この街についてもう少し詳しく調べた方がいいかもですね」
俺がそう提案すると、ノアが元気よく手を挙げた。
「うん! あとで勇者記念碑も見に行きたい!」
こうして、俺たちは新たな街、フェクーシに足を踏み入れた。どんな出会いと出来事が待っているのか、期待と不安が入り混じった気持ちを胸に抱きながら。




