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72話 魔石の使い道

 俺たちはついにデイヴスのギルドに到着し、疲れを感じながらも高揚感を抑えきれなかった。


 ギルドの扉を開けると、ざわついていた空間が一瞬にして静まり返り、全員の視線がこちらに集まる。中には、俺たちがボーダに向かう前に見た冒険者たちの姿もあった。


 すると周囲からどよめきが起こった。


「おい、あのガキども戻ってきたぞ!本当に帰ってくるなんて!」

「しかも無事だなんて信じられねぇ!」


 ざわつきの中、ギルドマスターがカウンターの奥から顔を出した。背の高いその男は驚きの表情を浮かべつつも、冷静さを保っている。


「よく戻ったな。成果はどうだ?」


 その問いに、フェンリが無言で荷から巨大な魔石を取り出して見せた。その大きさと輝きに、ギルド内の空気が再び一変した。ギルドマスターは目を丸くし、一歩近づいて魔石を確認する。


「これは…本当に倒してきたのか?」


 ノアが胸を張り、得意げな笑みを浮かべながら答える。


「もちろんです!これが私たちの実力ってやつよ。ねえ、早くギルドカードを作ってください!」


 俺はノアの横顔を見て苦笑する。倒したのは主にゴームの力だったけど、その事実を今ここで話すのは、余計な混乱を招くだけだ。フェンリも何も言わず、ただ静かにその場を見守っている。


 ギルドマスターは魔石をしばらく眺めた後、専属の鑑定士を呼び、慎重に魔石を手渡した。そして、俺たちに向き直る。


「わかった。約束通り、ギルドカードを発行しよう。ただし、その前にいくつか確認が必要だ。名前と年齢を教えてくれ。ボーダの英雄たちの名をな。」


 少し冗談めいた口調に、俺たちは思わず顔を見合わせた。英雄なんて…さすがに大げさすぎだろ。


 最初にフェンリが名乗り出た。


「フェンリ・グレイヴス、16歳です。」


 次に俺が続く。


「カイル・ブラックウッド、12歳です。」


 最後にノアが元気よく答えた。


「ノア・グレンリーフです!12歳です!」


 ギルドマスターは俺たちの名前を繰り返し、静かにうなずいた。


「フェンリ、カイル、ノア…よし。今日から君たちは正式に冒険者だ。責任と自覚を持つように。」


 その言葉に、不思議と胸が熱くなるのを感じた。ギルドマスターが手続きを進める間、俺たちはカウンター近くの椅子に腰を下ろして待つことにした。


 しばらくすると、ギルドマスターが再び現れ、手に小さなカードを三枚持っていた。それぞれのカードには、俺たちの名前と年齢が記載されている。


 しかし、その内容があまりにもシンプルすぎるのが気になった。


 俺はカードを見ながら疑問を口にした。


「前に知り合いのカードを見せてもらったときには、魔法の階級や冒険者ランクも記載されてたんですけど…」


 ギルドマスターは俺の質問に、少し微笑みながら答える。


「その通りだ。だが、魔法の階級や冒険者ランクは試験を受けないと測定できない。このカードは特例で発行したものだから、まだそこには記載されていないんだ。」


 その説明に俺たちは納得した。ランクがなくても、このカードは身分証として使えるらしく、首都に入る際にも問題なく使用できるらしい。


「本気で冒険者を続けるつもりなら、首都で試験を受けるといい。その時は、君たちの力を正確に測定できるだろう。」

「それと…明日の朝、ギルドに顔を出してくれ。」


 ギルドマスターはそう言い残して奥へと姿を消した。俺たちはギルドカードを手に入れたことに喜びを感じながらも、次の目的のために更に気を引き締めた。


 その日は疲労もあり、再び同じ宿に泊まることにした。


 部屋を借り、それぞれが荷物を置くと、ノアはカードを手にして嬉しそうに眺めている。フェンリはを黙々と明日の準備を始めた。俺もカードをじっと見つめながら、次の冒険に思いを馳せた。



 翌日、俺たちは昨日ギルドマスターから呼び出された件で、再びギルドに向かった。

 まだ朝早かったのか、ギルドの扉は閉じられていた。俺たちは扉を叩いてみたが、中から反応はない。


「早く来すぎたのかな…」


 ノアがぼそりと呟いた時だった。ギルドの裏側から姿を現したギルドマスターが、軽く手を挙げて近づいてきた。


「おお、早いな。それではついてきてくれ。」


 彼はそう言うと俺たちをギルドの裏手へ案内した。

 そこには普段は見ることのない設備が整っており、解体場や鑑定所が設置されていた。


 依頼で持ち込まれた魔獣や動物の素材が処理される場所らしい。血や薬品の匂いが漂うその一角は、昨日までのギルドの明るい雰囲気とはまるで違う。


「ここが鑑定所だ。」


 ギルドマスターが指差したのは、地面を数メートル掘り下げて作られた広々とした建物だった。

 中に案内されると、天井が高く、鑑定用の設備や棚にぎっしり並んだ道具が目を引いた。


 そこには数名の鑑定士と、汚れたエプロンを着た中年の男たちが集まり、何やら話し合いをしていた。彼らが囲んでいたのは、昨日俺たちがギルドに提出したあの魔石だった。


 その魔石は真っ二つに割られており、断面から淡い光が漏れていた。周囲の男たちは夢中でその光景を観察しているようだったが、ギルドマスターが声をかけると、彼らは慌てて解散し、作業に戻っていった。


「それで、私たちはなんでここに呼ばれたの?」


 ノアが少しソワソワしながらギルドマスターに問いかける。場違いな雰囲気に落ち着かないのだろう。ギルドマスターは微笑みながら、魔石を撫でる手を止めて答えた。


「今日君たちを呼んだのは、まさにこの魔石についてだ。」


「魔石?」


 フェンリが目を細めて尋ねる。


「ああ。この魔石を鑑定したところ、吸魔の効果を持つことが分かった。」


「吸魔…?」


「ああ、簡単に言えば、魔力を吸収し、それを蓄積できる特殊な効果だ。」


「そんな効果がどうして魔石に?」


 フェンリが興味津々に問いかけると、ギルドマスターは顎を撫でながら答える。


「ノワラではあまり知られていないが、加護持ちの魔獣の体内にある魔石には、こうした特殊効果を持つものが稀に存在するんだよ。」


 フェンリはその説明を聞くなり、どこから取り出したのか手帳を開き、せっせと書き込みを始めた。その姿にギルドマスターは豪快に笑う。


「はっはっは! 勉強熱心だな!」


 その笑い声が収まった頃、俺が口を開いた。


「それで…この魔石がどうしたんですか?」


 ギルドマスターの表情が少し真剣になり、俺たちに向き直る。


「この魔石を持ち帰ったのは紛れもなくお前たちだ。だから、この魔石をどうするかを決める権利は君たちにある。ギルドに売るのか、持ち帰るのか、それとも装備や武器に加工するのか、選んでほしい。」


 その瞬間、さっきまで解散していた男たちが再び集まってきた。


「ぜひ売ってください!こんな魔石、見たことがない!」

「いや、防具に加工すれば相当な効果を発揮するはずだ!」


 鑑定士や鍛冶職人らしき男たちの声が飛び交い、俺たちは少し戸惑ったが、ギルドマスターが「選択権は彼らにある」と一喝すると、全員黙り込んだ。


 俺たちは顔を見合わせて小声で作戦会議を始めた。


「…どうする? 売るのも悪くない案だと思うが。」


 フェンリが提案するが、俺は首を振る。まだ夜露通りで得た金貨が大量に残っているのだ。これ以上の金を手に入れても、荷物が増えるだけでかえって邪魔になる。


 その時、ノアが思い出したように口を開いた。


「そういえばさ、前に私がビスマーに捕まった時、カイルが強い魔法を撃つのにすごく時間かけてたじゃない? あの吸魔の魔石があれば、戦いながら魔力を溜められるんじゃない?」


 その言葉に、俺は当時の戦いを思い出す。


 あの時、俺が魔力を溜めるために時間を稼ごうとしたせいで、カリーナやフェンリたちに危険が及んだ。もしまた同じような強敵が現れるなら、あの魔石を使って備えておくのは悪くない案だと思えた。


 俺がフェンリを見ると、彼は静かに頷いた。


「…それじゃあ、三人分の装備を作ってください。」


 俺がそう告げると、鍛冶職人たちは喜びのガッツポーズを取り、鑑定士たちは肩を落としながらも納得したようだった。


「完成は二日後だ、楽しみにしておけ!」


 職人たちは魔石を大事そうに抱えながら、それぞれの鍛冶屋へと向かっていった。


 俺たちは少し安堵しつつも、この魔石がどんな装備に加工されるのかを想像しながら、今日はゆっくりと宿で過ごすことにした。

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