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71話 帰還

 戦いを終えた俺たちは、魔獣の死骸から魔石を探していた。


 加護持ちの魔獣を倒した証拠として、その魔石をギルドに提出しなければならないからだ。

 魔獣の巨体は未だに瘴気を放っており、近づくだけでも息苦しい。


「これ、見つかりますかね?」


 俺が死骸の腹部あたりを杖でつつきながら言うと、フェンリが冷静に指示をくれる。


「魔石は心臓の近くにあるはずです。この辺りを重点的に探しましょう。」


 ノアは慣れない手つきで魔獣の硬い外皮を避けながら探索していたが、しばらくすると、「あった!」と嬉しそうに叫んだ。彼女が持ち上げたのは、今までに見たこともない大きさをした紫色の魔石だった。


「随分大きい魔石ですね…」


 俺が感嘆の声を上げると、フェンリがその魔石を荷に詰めながら補足説明してくれた。


「魔石は魔獣の強さによって大きさが変動します。強い魔獣ほど大きい魔石を体内に有しています。この大きさの魔石だと、おそらくC級魔獣くらいですね。それに結構な高値で売れます。」


 ―――


 魔獣は、その個体の強さや保有する魔力量、体内に有する魔石の大きさを基準に、下からF級・E級・D級・C級・B級・A級、そしてS級に分類される。


 そして、冒険者や依頼にも同じく階級制度があり、冒険者がギルドで受けられる依頼は自分の階級より一つ上の階級までしか受けられない。


 ―――。


「C級か…。あれだけ苦戦したんだ、それくらいあって当然ですよね。」


 俺はため息をつきつつも、その価値の高さに少し心が踊った。


 俺たちはフェンリの豊富な知識に感心しつつ、洞窟を後にした。


 そしてまずはボーダに寄ることにした。俺たちのために戦ってくれた巨人族の男に少しでも恩返しがしたかったのだ。


 ボーダに向かう道中、俺たちは彼といろいろな話をした。彼の名前はゴームと言い、巨人族の言葉で『優しい英雄』という意味らしい。彼の圧倒的な力強さと、俺たちを守るためにその力を振るう姿を見れば、確かに似合った名前だと納得できた。


「あいつの名前は…ディアって言う。耳長族の言葉で『豊満なる娘』って意味がある…」


「……失礼ですが、それ名付けた人、少し失礼じゃないですか?」


 俺が恐る恐る尋ねると、ゴームは大きな声で笑った。


「はは、まあそう思うよね…でも俺にとってはピッタリ…ディアは俺の豊かさそのものだから…。」


 照れくさそうに言う彼の笑顔に、俺たちも自然と笑みがこぼれる。

 ゴームとの会話は温かく、楽しいものだった。彼の語る家族への想いや、自分の思う誇りに触れ、俺たちの中にも少しずつ彼への尊敬が芽生えていた。



 ボーダに着くと、俺が前に訪れたときよりも少し活気が戻っているように感じた。


 外では子供たちが無邪気に遊んでおり、それを見守る大人たちの表情もどこか柔らかい。

 その光景を目にし、俺たちは少し誇らしい気持ちになった。この町に平穏を取り戻せたのだと実感できたからだ。


「街の活気が戻ってる…!」


 ノアが嬉しそうにつぶやく。


「そうですね!全員が頑張ったからこそ、戻すことができたんです。」


 フェンリがほほ笑みながら静かに答える。その言葉に俺も頷きながら、馬車を走らせギルドへと向かった。



 ギルドの扉を開けると、真っ先に駆け寄ってきたのはゴームの奥さんである耳長族のディアだった。


「あんた!何も言わずにどこに…!」


 ディアは涙を浮かべながらゴームの傷だらけの体を抱きしめる。その姿は心から安堵しているようだったが、同時に怒りが混じっているのがわかった。


「ディア、俺はただ…この街を守りたかった…それに、俺の巨人族の力は…こういう時のためにあるだろう?」


「それでも、無茶しすぎだわ!傷だらけじゃない!」


 ディアは怒りながらも、ゴームの傷をそっと指先でなぞり、その痛々しい姿を見てまた涙を流した。

 その後ろで俺たちは立ち尽くしていたが、ディアが振り返って俺たちを見た瞬間、すべてを理解したような表情を浮かべた。


「あなたたちも、ありがとう。本当に、ゴームのことも街のことも。」


 俺たちは恐縮しながらも礼を伝え、ディアに促されるまま食事を取ることになった。

 暖かいシチューと焼きたてのパンが疲れた体に染み渡る。


 だが、そんな穏やかな時間の中でも、カウンターの奥から聞こえてくるディアの叱責がどうしても耳に入ってしまう。


「本当に無茶ばっかりして!次やったら絶対許さないんだからね!」


「わかった、わかったから…」


 俺たちは顔を見合わせながら笑い、彼ら夫婦の絆の強さを感じていた。その姿はどこか微笑ましく、戦いの疲れを少しずつ癒してくれるものだった。




 俺たちはゴームとディアに別れを告げ、デイヴスへと帰還することにした。


 ゴームとディアがギルドの前で手を振り見送ってくれる中、俺たちは馬車を走らせ町を後にする。

 その背中には、この旅で得た新たな絆と感謝の想いが刻まれていた。


「ゴームさんたち、本当にいい人だったね!」


 ノアが満面の笑みで言う。その声には、今回の冒険を無事に終えた安心感と、ゴーム夫妻への感謝が込められている。


 馬車の車輪が緩やかに道を刻む音が響く中、フェンリが窓の外を眺めながら口を開いた。


「ゴームさんのような人に出会えたのも、この依頼のおかげですね。次に会うときはもっと成長した姿を見せたいものです。」


 その言葉には彼らしい真剣さがあり、俺たち全員が自然と頷く。


 帰り道は行きと比べて平穏だった。


 道中、魔獣に遭遇することもなく、穏やかな時間が流れていく。

 その間、俺たちは旅の振り返りをしたり、次の冒険に思いを馳せたりと、それぞれの考えを共有した。ノアが手にしている今回手に入れた魔石を眺めながら、「この魔石、何に使われるのかな?」と目を輝かせて話すと、フェンリが丁寧に説明してくれた。


「主に魔具の素材として使われることが多いです。特にこのクラスの魔石だと、高級な防具や武器に加工される可能性があるかもですね。」


 馬車は広がる草原の中を進み、やがて遠くにデイヴスの街並みが見えてきた。日が傾き始め、夕日が街を黄金色に染め上げている。


「もうすぐ到着ですね。」



 馬車が街の門を通り抜けると、街の活気が俺たちを迎えてくれる。

 行商人たちの賑やかな声や、行き交う人々の笑い声が心地よい。俺たちはその中に身を置きながら、それぞれが次の一歩を踏み出す決意を新たにしていた。

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