70話 巨大な救世主
間一髪のところで俺たちを助けたのは、ボーダにいた巨人族の末裔だ。
体長は人間の倍近くもあり、鍛え抜かれた筋肉と岩のような大盾が印象的だ。洞窟内の薄暗い光の中で、その巨体が圧倒的な存在感を放っている。
「遅れて…ごめん、間に合って…よかった。」
低く響く声が洞窟内に反響する。その言葉と同時に、巨人族の末裔は軽々と盾を構え直し、魔獣に向き直った。
魔獣は自分よりも巨大な相手を前に、一瞬ひるむように後ずさったが、すぐに咆哮を上げて攻撃態勢を取り直す。その爪が再び振り下ろされるが――
「ん”ん”!!」
巨人族の末裔が盾を一閃させた。重厚な音を立てて魔獣の爪を弾き返し、その反動で魔獣が後退する。
「す、すごい……」
ノアが驚嘆の声を漏らす。
「…立てるか」
巨人族の末裔が俺に視線を向け、手を差し伸べた。
「あ、はい……ありがとうございます。。」
俺はその大きな手を借りて立ち上がりながら、状況を素早く整理した。この巨人族の男がいなければ、俺たちは確実にやられていた。
「フェンリ、ノア、今のうちに態勢を立て直しましょう!」
俺が指示を飛ばすと、フェンリがすぐにうなずき、ノアも必死に体勢を整える。
「この魔獣……ただの力任せではムリ。慎重にね…」
巨人族の男が低く言う。
魔獣は再び咆哮し、今度は全身から黒紫の瘴気を放出した。その瘴気が洞窟内に広がり、視界をさらに悪化させる。
「何だ、この瘴気……!」
フェンリが顔を覆いながら叫ぶ。
「さらに魔力が増幅している……!」
「俺が霧を払う…みんな、準備して」
巨人族の男が叫ぶと、盾を地面に叩きつけた。その衝撃で洞窟全体が振動し、強烈な風が瘴気を吹き飛ばしていく。
「これならいける……!」
俺は杖を構え、集中して詠唱を開始する。
「フェンリ、ノア、合わせてください!一斉に奴を叩く!」
フェンリは氷元素の魔法、ノアは土元素の魔法をそれぞれ準備し始める。
「時間を稼ぐ…後は頼んだ」
巨人族の男が再び魔獣の前に立ちはだかり、盾で攻撃を受け止めながら魔獣の動きを封じる。
俺たちは全力で魔法を溜める。
「今だ!」
俺たち三人が同時に魔法を放つ。雷、氷、そして土の力が一つに重なり、洞窟全体を覆うような巨大な光の奔流となって魔獣に襲いかかる――。
光が収まり、洞窟内に静寂が訪れる。しかし、立ち込める煙の向こうで魔獣の影がまだ揺らめいているのが見えた。
「まだ倒れないのか……!」
次の瞬間、魔獣が再び動き出す――が、その時、巨人族の男が一歩前に出て、力強く叫んだ。
「…ここからは――任せて。」
巨人族の男の言葉に、俺たちは全信頼を置く。
彼はこの短い間にも、常に俺たちを守るために最前線で戦い続けてくれた。
自らの盾で魔獣の攻撃を防ぎ、自分が傷つくことを厭わず、俺たちに被害が及ばないよう立ち回る姿に、心から信頼を寄せざるを得なかった。
「俺たちはあの人のサポートに徹しましょう。」
俺が言うと、フェンリとノアも頷き、杖を握る手に力を込めた。
巨人族の男が大盾を地面に突き立て、低く構える。その姿はまるで一人で洞窟全体を支える柱のようだった。
「う”う”お”お”!」
雄たけびとともに、彼は大盾を片手で軽々と持ち上げ、全身の筋肉を張り詰めさせた。次の瞬間、彼の足元から洞窟全体に響く衝撃波が走り、岩壁が小さく震える。
魔獣はその威圧感に一瞬動きを止めたが、すぐに怒りの咆哮を上げて襲い掛かる。爪と牙を振りかざし、全身の瘴気を纏いながら巨人族の男に迫るが――
「だぁ”あ”!」
彼は大盾を振りかざし、魔獣の爪を完全に受け止めた。
その衝撃で洞窟の天井から岩が崩れ落ちるが、彼は微動だにしない。それどころか、魔獣の攻撃の勢いを逆利用し、盾を大きく押し返すことで魔獣の巨体をぐらつかせた。
「…弱い”!」
その言葉とともに、彼は右手に握った巨大な戦斧を振りかざした。それは今まで隠していた武器であり、その斧の刃先は鋭く輝いていた。
「地竜裂斬!」
彼の咆哮とともに斧が振り下ろされる。その一撃はまるで地そのものを裂くかのような威力で、魔獣の体を直撃した。斧が魔獣の体を切り裂くと同時に、その衝撃が地面にまで伝わり、洞窟全体が激しく揺れる。
「グォォォォォォッ!」
魔獣が苦痛の叫びを上げ、瘴気が四散する。その体が大きく揺れ、後退しながら倒れ込んだ。
「や、やったのか……?」
俺たちが息を飲む中、巨人族の男は慎重に魔獣を見据えながら歩み寄った。そして、魔獣が完全に動かなくなったことを確認すると、大きく息を吐き、斧を肩に乗せた。
「ふぅ……終わった…。」
その言葉に俺たちはようやく緊張を解き、体の力を抜いた。
「す、すごい……本当に一人で……」
ノアが驚きの声を漏らす。
「君たちも…まだ子どもなのに…凄かったね」
巨人族の男が優しい笑みを浮かべながらそう言った。その姿は威圧的だった戦闘中とは打って変わり、どこか温かみを感じさせるものだった。
「本当にありがとうございます……助かりました。」
俺は心から感謝を込めて言った。
「いや…君たちを守ることができて…よかったよ」
彼はそう言って、盾と斧をゆっくりとしまった。
洞窟内は静寂に包まれ、戦闘の痕跡だけがその激闘を物語っていた。俺たちはその場に立ち尽くしながら、安堵の息をつくのだった。




