68話 思いがけない再開
俺はギルドカードを発行してもらうため、このギルドの責任者であるギルドマスターと話をすることになった。
ギルドの奥の執務室は重厚な木製の扉が印象的で、威圧感すら感じさせる。扉の前で一瞬深呼吸をしてから、ノックをした。
「失礼します」
扉を開けると、中には壮年の男性がデスクに座り、大量の書類に目を通していた。
短く整えられた灰色混じりの髪、そして鋭い眼光が彼の存在感を際立たせている。
彼は俺を見るなり、一度目を細め、手に持っていたペンを静かに置いた。
「何の用だ、坊主。こんな場所に子どもが来るのは珍しいな。」
彼の言葉に一瞬ためらったが、俺は意を決して一歩踏み出す。
「実は…ギルドカードを発行してほしいんです!」
俺の声が執務室に響く。ギルドマスターは少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに口元に薄い笑みを浮かべた。
「理由を聞かせてもらおうか。子どもが、なぜそれを必要とする?」
「首都に行きたいんです。理由は…詳しくは言えません。でも、どうしても行かないといけないんです。」
俺の言葉にギルドマスターは俺をじっと見つめた。その視線には計りかねるものが含まれている。やがて、彼は軽く息をつき、椅子にもたれかかった。そして冷たい声で一言。
「許可できない。」
その言葉に、俺は拳を握りしめる。
「…俺が子どもだからですか?」
「そうだ。それに、なぜお前のような子どもが一人で?背景が分からなければ、こちらとしては怪しいだけだ。」
彼の言葉には隙がなかった。俺とギルドマスターの間に静寂が訪れる。だが、その静寂を破ったのはギルドマスターだった。
「……しかし、話は聞こえている。ノワラ国から一人でここまで来たんだそうだな。」
彼は意味深な表情を浮かべながら、机に肘をついて前のめりになった。
「はい、まあ……なんとか。」
そう答えると、ギルドマスターの鋭い視線がさらに強まった。
「ノワラ国からここまでの道中には魔獣の蔓延る森があったはずだ。それはどうやって抜けた?」
「できるだけ戦闘を避けて進みました。でも、完全には避けられなかったので…必要最低限の戦闘をして突破しました。」
俺が言い終わる前に、ギルドマスターは目を細めて口角を上げた。
「なら……一つ提案をしよう。」
「提案?」
俺は息を飲んだ。
「先日、誰も受けたがらない厄介な依頼が回ってきた。」
そう言いながら、ギルドマスターは机の引き出しから一枚の紙を取り出し、俺に向けた。
「加護持ちの魔獣の討伐だ。この依頼を達成できたら、特例でギルドカードを発行してやる。」
「加護持ちの魔獣って……ボーダの!?」
思わず声を上げると、ギルドマスターは驚いたように眉を上げた。
「ほう、知っていたのか?その通り。この依頼はボーダのギルドから寄せられたものだ。だが、ボーダにいた冒険者たちはある日から謎の倦怠感に襲われ、全員この街に移動してしまった。そのせいで、誰も受け手がいなくなったんだ。」
「倦怠感……?」
「そうだ。魔獣が持つ加護が原因だと言われている。その魔獣を倒さない限り、ボーダの街は機能を取り戻せない。」
ギルドマスターは紙を俺に渡すと、不敵な笑みを浮かべた。
「どうだ?やってみるか、坊主。」
俺はギルドカードを発行するにはこれしか道がないと考え、腹をくくって返答した。
「分かりました……やります!」
俺の決意に、ギルドマスターは満足げにうなずいた。だが、次の言葉が意外なものだった。
「いい返事だ。そして、この依頼だが……実はお前と同じような境遇の者が数名いる。そいつらと一緒に受けてもらうことになる。」
俺と同じ境遇……?同じ理由で首都に行きたい奴らがいるというのか。
「その人たちはどこにいるんですか?」
そう尋ねると、ギルドマスターは立ち上がり、部屋の隣を指差した。
「隣の部屋に待機している。紹介してやる。」
俺は促されるまま扉の前に立つ。ギルドマスターがノックもせず扉を開けると、中には二人の見覚えのある顔があった。
「えっ、ノアと……フェンリ!?なんでここに!?」
予想外の再会に、俺は驚愕して声を上げた。それを聞いたノアは、俺の顔を見るなり目を潤ませ、今にも泣き出しそうな顔をして駆け寄ってきた。
「カイル! 一体王様になにしたの!?もう、心配したんだから!」
勢いよく抱きついてくるノアに、俺は困惑しながらも手を軽く上げる。
「いや、待って。落ち着いてください、ノア。なんでここにいるんですか!」
その間にフェンリが立ち上がり、静かに俺の方を見た。いつもの冷静な態度だが、どこか安堵の色が見える。
「やっぱり君だったか。妙に大人びた子どもがいると聞いて、まさかと思いましたけど……話を聞かせてもらえますか?」
「そっちこそ、なんでここにいるんだ!?」
混乱している俺に、ギルドマスターが冷静に言葉を挟む。
「やっぱり、お前らの言っていた“変わったガキ”ってのはこいつだったか。」
その言葉に、俺はさらに混乱した。どういうことだ?ノアやフェンリがここにいる理由は?それにギルドマスターはまるで俺がここに来ることを知っていたかのような口ぶりだ……。
頭の中に疑問が渦巻く中、フェンリが一歩前に出て俺を見据えた。
「まずは、僕たちがここにいる理由を説明しよう。」
俺が彼をじっと見つめると、フェンリは静かに語り始めた。
「首都で君が指名手配された後、ノアと僕は君の痕跡を追うために協力した。でも君がどこに行ったのか分からなかった。そして、偶然夜露通りの”あの男”に出会って、カイルはダール国を目指していることを聞いてこの街まで連れてきてもらったんです。」
「それに、ノアがずっと君を心配していてね。」
ノアは俺の袖を掴みながら言葉を足した。
「当然だよ! だって、突然指名手配されるんだもん……それで心配で…心配で!」
俺はその言葉に少し気まずさを感じながら視線を逸らす。
「それで、このギルドでカードの発行を打診していたら、依頼の話が持ち上がった。それが今回の加護持ちの魔獣討伐だったんです。」
フェンリの説明に俺は驚きつつも、納得した。
ノアとフェンリは俺を追ってダール国に行こうとした。
でも、ギルドカードが無かった。そしてカードを発行するため、この依頼に巻き込まれる形になってしまったらしい。
ギルドマスターが腕を組みながら付け加えた。
「お前ら三人がチームを組むにはちょうどいいだろう。妙なところで目的が一致したしな。それに、加護持ちの魔獣なんて一人で挑むのは無謀だ。」
俺はノアとフェンリの顔を順に見て、改めて二人の覚悟を感じ取った。
「……分かった。俺のために…ありがとう。一緒にこの依頼をやり遂げましょう。」
ノアは笑顔を見せ、フェンリは静かにうなずいた。こうして、俺たちは驚愕の再開を経て、チームを組み、加護持ちの魔獣討伐という危険な依頼に挑むことになった。




