7話 気づき
あの話合いの後、エルドリックからの提案――というか命令で、俺は『魔草』という草を何年か食べ続けなければならなくなった。
なんでも、その魔草には一時的に魔力の回復速度を底上げする効果があるそうだ。その魔草を毎日摂取することで、魔草を食べなくても常に魔力の回復速度が上がったままの身体が出来上がるという。
さらに、魔物の血を水で薄め、瘴気を極限まで減少させた飲み物――通称『魔のジュース』を飲むことで、少しずつだが魔力総量を上げするということもしなければならない。
もちろん
これも何年か継続しなければならない。
俺は内心本当に効果があるのか不安だったが、数日続けていく内に、確かに魔力の回復速度が上がっているような感覚を覚えていた。
そして、すぐに1か月が経った――。
この1カ月で俺は初級の火元素魔法を扱えるようになった。最初は苦労した。火を灯すことはできたが、それを『撃つ』ことがなかなかできなかった。何度も試行錯誤し、2週間かけてやっと突破口を見つけた。
銃の仕組みを思い出し、トリガーを引くと弾が発射されるイメージを魔法に応用したのだ。前世の記憶がこんなところで役立つとは思わなかったが。
そして今日も、魔法の訓練のためにエルドリックの下へ行く。
「行ってきます!」
家を出ると、すぐに畑が広がる道に出た。このまま一直線に歩けばエルドリックの家だが、今日は寄り道したい気分だったので行ったことのない道へ行くことにした。
すると、10分くらい歩いていると前から見たことのある女の子が歩いて来た。
カリーナだ。
カリーナは俺に気づくと指を指し声を張り上げた。
「ちょっと!!なんで『アクマ憑き』がこんなとこいんのよ!!エルドリック様の家はこっちじゃないでしょ!道に迷ったのね!一緒に行ってあげる!」
最近知った事だが、カリーナのフルネームははカリーナ・フォークナー。
俺の住むこの村を管理している領主の娘らしい。だから両親が様付けしてたのだ。
そして、このカリーナも領主の父親の言いつけでエルドリックの下で魔法を教わっているらしい。
彼女は13歳なので公に魔法を行使することができる。
それで、6歳という身でありながら魔法を使っている俺は、彼女にアクマ憑きと呼ばれている。
「いえカリーナさん、俺は迷ったわけではなく寄り道をですね――」
俺が訂正しようとすると、カリーナが遮る。
「そんなウソついても仕方ないわよ『アクマ憑き』!ほら早くいくわよ!」
しかし、カリーナが俺の前を歩こうとした途端、足を止め振り返った。
「…アンタが先導しなさい。」
カリーナは頬を膨らまし、少しだけ涙目だった。
どうやら本当に俺にお願いがしたくないらしい。どこで嫌われたのか…分からない。
―――。
「はぁ~!やっと着いた!!迷ったときはどうなるかと思った~!案内ご苦労!アクマ憑き!」
(迷ったって言っちゃたよ。)
自白に気付く様子のないカリーナは勢いよくエルドリックの家の扉をノックする。
「エルドリック様!おはようごうざいます!!」
カリーナが玄関前で元気に挨拶すると、エルドリックがドアを開けて出てきた。
「あぁおはよう、今日は遅かったようだな。ん?少年と一緒に来たのか、仲が良いな。」
エルドリックは俺たちを微笑ましく見比べると、カリーナが顔を真っ赤にして否定する。
「そんなんじゃありませんから!!」
「はっはっは」
挨拶も早々、俺たちはエルドリックの家の中に入った。
「エルドリック様!!今朝はどんな授業をするんですか!」
「いつも通り、昼までは魔法座学を教える。」
「えー!!もう全部覚えてるのに?魔法教えてください!魔法!」
カリーナは、魔法を使える年になるまで首都の魔法学園で勉強していたらしい。
しかし、12歳になると父親からエルドリックを紹介され、学園は休学し、今はここで魔法を学んでいるという。
カリーナは俺以上に勉強熱心で、13歳ながらに既に水と風の中級魔法を習得している、俗に言う超エリートだ。
「無理を言うな…少年がまだ覚えられていない範囲がある。それに、もう知っている知識だとしても復習をして知識の再確認をすることは大切だ。」
エルドリックの慰める言葉にも、カリーナは納得できていない様子だった。
「え~アクマ憑きが頭悪いせいなのになんで私が我慢しないといけないの?」
そんなカリーナに、エルドリックはさらに慰める。
「いずれは二人に魔法を使った模擬戦を行ってもらう。そのために少年に君と同等の力を付けてもらう必要があるのだ。分かってくれるかい?」
その言葉に、カリーナは目を輝かせる。
「模擬戦…!分かりました!我慢します!!」
カリーナはワクワクした様子で、素直に机についた。
そこに、エルドリックがさらに言葉を続けた。
「それと…アクマ憑きと言うのはやめなさい。少年にも悪い。それに、村の人に聞かれたら大変なことになる…。」
エルドリックの真剣な声色に、カリーナは萎縮しながらもきちんと謝罪した。
「…ごめんなさい。」
俺にも謝ってほしい…とは言わないほうが良さそうだ。
―――。
それから、昼までエルドリックに魔法についての授業を行ってもらい、昼になるとそれぞれが持参した昼食を食べた。
そして午後は…魔法訓練の時間だ!
「今から二人には自分の1つ上の階級の火元素魔法を1つ以上習得してもらう、やり方は至って簡単、火元素魔法2つを融合させればいいだけだ。」
この世界の魔法は、同じ系統の魔法を融合させて階級を上げる仕組みになっている。
例えば、初級魔法を2つ融合させると下級魔法に、下級を2つ融合させると中級魔法になる。ただし、3つ以上の融合には膨大な魔力量と才能が必要だ。
「え~!火~??下級を習得するのもやっとだったのに、中級なんて無理に決まってるわよー!」
「カリーナの適正魔法は水と風だったからな。真反対の火元素魔法は不得意でも無理はない。」
魔法には人それぞれに適正というものがある。
自分の適正と合った魔法は、習得も早く、階級が上がるのも早い。
適正は、その人の性格や特技、趣味などに左右される傾向にあるらしいが、カリーナに水と風はちょっと似合わないような…なんて思っていると、ふと思い出した。
俺はこれまで一度も適正魔法検査を受けていない。
俺は特に火元素魔法の上達が早いので適正は分かり切っているようなものだが…一応知っておきたい。
そうと決まれば、すぐに検査してもらおう。
俺は、エルドリックに駆け寄り話しかけた。
「エルドリックさん!俺も自分の適正魔法知りたいのですが…!」
しかし、エルドリックは申し訳なさそうに顔を伏せ答える。
「悪いが少年、それは無理だ…適正魔法を検査できる魔道具は魔法学園か各国の首都に点在するギルドにしか設置されていない。すまないが…またいつかにしてくれ。」
「あ・…そうですか、分かりました。」
エルドリックの言葉に少し落ち込んだが、俺はまだあきらめない。
方法はまだあるはずだ!
学園かギルドにしかないということは…大きな街に行けばいいだけだ。ギルド…は何か分からないし、学園…は金持ちしか行けないところだ。
あれ?もしかして無理?
俺が思考を巡らせていると、エルドリックが授業を開始した。
「それでは気を取り直して…始めよう。」
その言葉とともに、俺は目の前のことに集中することにした。
魔法を2つ同時に扱う…一見簡単そうに聞こえるが、いざやってみると難解だ。
まず、2つの事を同時にイメージすることなんてできるのか?
そんなの思考する脳が2つないと無理だ。
しかし、実際、カリーナは水と風の中級魔法を習得している…これも俺の考え方が違うのか?
試してみよう。
「スー…ハー…。」
魔力を調整して指先に集中させる。これでいつでも魔法は発動できる。そして次は使う魔法を想像する。
とりあえず火球と…原理が似ている火雨の融合を試してみる。
火球と火雨は初級火元素魔法の中で一番簡単な魔法だ。
他の火盾や火爆などの魔法は発動するときのイメージが難しく、思考が混雑しやすかった。
しかし火球と火雨はそれらに比べ、火の球を撃ったり降らしたりするだけなので比較的簡単だ。
「火の雨を降らしながら火の球を撃つイメージ…うーん、違う気がする。カリーナさんはどうでした?」
俺は、カリーナにアドバイスを求めようとしたが、彼女は魔法のイメージをぼんやりと掴み始めているようだった。
流石に中級魔法を習得しているだけはある。純粋にすごいと思う。
仕方なく、魔法の師匠であるエルドリックに聞くことにした。
「エルドリックさん、魔法の融合が上手くいかなくて…火の雨を降らしながら火の球を撃つのってどうイメージすればいいのでしょう?」
エルドリックは俺の質問に首をかしげながらも、丁寧に説明してくれた。
「…まず前提するイメージが間違っている。何も2つの魔法を『同時』に、『それぞれ』発動する必要はない。魔法の融合を少年がどう捉えるかがカギだ。そして、思考力は魔法使いにとって無くてはならんものだ、もう一度限界まで自分で思考してみてから私のところへ来なさい。」
エルドリックはたまに、抽象的な部分と具体的な部分を混ぜたような説明の仕方をする。
理解しやすい部分と、しにくい部分がある。
エルドリックの、「魔法使いには思考力は必須」だという理論から、自分で考える力を身に着けさせようとしてるのだろう。
前から思っていたが、エルドリックは良い教師だ。
「はい、ありがとうございました!」
俺はエルドリックに感謝して、再度訓練に戻った。
魔法の融合を俺がどう考えるか…。
ただ単純に同時発動するだけではないらしい。左右の手でそれぞれ異なる魔法を発動しても、それは融合ではないだろうし…。
俺がさらに思試行錯誤をしていると、隣からカリーナの声が聞こえた。
「やった~!!!出っ来た~!!!!」
振り返ると、カリーナは飛び跳ね喜んでいた。
きっと成功したのだろう。やっぱりカリーナはすごい。あれが天才というやつなのだろう。
(しかしどうやってイメージしているのか。ちょっと聞き――いやダメだ、思考することは魔法使いにとって大事なことだ。アドバイスは極力求めない。)
「とりあえず、さっきの同時発動を試してみよう。右手は火球で…左手は、火盾にしてみよう。」
火盾で身を守りながら他の魔法で攻撃できたら強いのでは。と思ったが、普通に盾持った方が魔力を節約できる気がする。
まぁ重量が関係ない火盾も長所ではあるが…とりあえずやってみよう。
右手は火の弾を撃つ銃をイメージする。
これは、銃の内部構造を全て把握している俺だけがイメージできる唯一の方法だ。そして左手は火盾は魔力を熱エネルギーへと変化させ、周囲の空気を常に燃焼させる。それを盾のような形状に固定して形成。
「火球!と火盾!っと…とりあえず成功。でも、やっぱり普通の盾のがいいかもしれない。火盾なんて一歩間違えれば自分も燃やしかねない魔法だし。」
「えっ!!何それ!!」
後ろから活発的な声が聞こえた。振り向くと、そこにいたのは当然カリーナだ。
「どうしたんですか?」
俺は聞くと、カリーナは目を輝かせながら俺の両手を指さす。
「それ!どうやってるの?」
カリーナの純粋な興味に、俺は素直に説明する。
「これは、異なる魔法を左右の手で同時に発動できないかな、と思ってやってみたんです。」
俺の説明を聞いたカリーナは、さらに目を輝かせた。
「すごいじゃないアンタ!私にも教えて教えて!!」
その言葉に俺は少し戸惑った。
(教えていいのか?魔法使いは思考力が大事なんじゃ?)
そう思いながら、エルドリックに振り返る。
カリーナの行動を気に留めることもなく魔導書を読んでいる。
(互いに高めあえるなら良いってことか…?)
そう会解釈した俺は、潔く答えた。
「いいですよ。一緒にやりましょう!」
―――。
カリーナは、俺は思った以上に天才だった。
口頭で少し教えただけなのに、すぐにそれを吸収して、さらに技術を磨く。
「そうそう、左右の手に同時に魔力を流して…そうです!流石、中級魔法使いですね!吸収力がすごい!…それで、後は魔法を発動するだけですよ!」
カリーナは少しだけ戸惑いながらも、俺の言うことを適格に再現し、一瞬で魔法の同時発動を習得しようとしていた。
「これけっこう魔力制御が難しいわね…!じゃあいくわよ!」
「火球!火盾!」
カリーナが詠唱した瞬間、彼女の掌に籠められた魔力は霧散し、消えた。
どうやら失敗したようだ。
流石に、今まで考えたこともない魔法の発動の仕方を初見でやるってのは無理があったようだ。
しかし、カリーナを慰めてやろうと声をかけようとした瞬間、彼女の目の前に大きな火盾が出現した。
そして、その盾の中央には赤く燃え上がる大砲のような突起物が付けられている。
「なん…ッ!?」
俺が驚いていると、カリーナが叫んだ。
「やばい!伏せて!」
カリーナの声で俺たちは伏せる。
その瞬間、火盾に付いている大砲から特大の火球が次々と飛び出す。轟音を立てながら次々と周囲の木々を破壊していく。
そして、数発の火球が放たれたあと、火盾は微量は魔力の粒子となって消滅した。
(…一体何だったんだ。)
俺はカリーナに振り返り、先の魔法について質問する。
「カリーナさん…あれは?」
すると、カリーナは顔を赤くして威圧すすように声を張り上げる。
「ま、間違えて火球と火盾を融合させた下級魔法を創っちゃただけよ!なんか悪い!?なんか文句ある!?」
「い、いえ…良い?と思います!」
その怒涛の勢いに、俺は圧倒されながらも、カリーナが言ったことを考えていた。
さっきの魔法が初級魔法を融合させた魔法なのか?
俺の想像していた融合とはまったく違った…。
カリーナが発動させたあの魔法が、初級を融合させた下級魔法なら…俺も掴めたのかもしれない…魔法の融合を――!