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57話 生きている

 次に俺が目を覚ますと、ノアの泣き顔がドアップで飛び込んできた。瞳から大粒の涙を溢れさせ、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくっている。


「カイルが死んじゃったぁああああ!!」


 ノアが涙声で叫びながら俺の胸元をバシバシ叩いてくる。その隣では、ライガやフェンリ、レアまでもが俯いて肩を震わせていた。


(え、待って、死んじゃったって?俺、やっぱり死んだのか!?)


 胸の奥に鈍い痛みを感じながら、恐る恐る口を開く。


「え、俺やっぱり死んだ!?」


 俺がそう叫ぶと、周囲の空気が一瞬止まったかのように静まり返った。ノアが涙まみれの顔でこちらを凝視する。その後、全員の目が驚愕に見開かれた。


 そして。


「うぉおおおおおお!!カイル!生き返ったのか!!!」


 双子のライガとジャンガが同時に俺に飛びついてきた。背中にドカンと二人分の重みがのしかかる。


「痛っつ…!!」


 傷だらけの身体に容赦ない二人の勢いが染み渡り、思わず叫ぶ。だが、その痛みこそが俺が生きている証明だった。


「…やっぱり生きてる。」


 痛みに顔をしかめながらも、思わず笑みがこぼれる。その瞬間、ノアが大声で泣きながら俺に抱きついてきた。


「カイル…!本当に!?生きてる~!!」


「うぉ!」


 3人分の重みを背負いきれず、折角起こした身体が再び地面に倒れ込む。ノアは俺の顔を両手で掴んでわしゃわしゃと触りながら、何度も確認するように叫ぶ。


「生きてる!本当に生きてる!カイル、死んでない!」


「生きてます!生きてますよ!」


 俺は覆いかぶさる3人を無理やり退かして、何とか身体を起こした。そしてはだけた制服を脱ぎ、胸元の傷を確認する。


 心臓付近に大きな切り傷が残っている。だが、驚くべきことにその傷は既に塞がり、血の気すらほとんど感じられない。


「本当に…俺、生きてる。」


 その時、フェンリが静かに近づいてきた。その目には少し涙が浮かんでいる。


「よかったです…カイル。君が生きていて…本当に。」


 フェンリは俺の両肩に手を置き、安堵の表情を浮かべている。


「ありがとうございます。なんとか生きてます!」


 俺の言葉に、ライガやノア、そして他のみんなも顔をほころばせた。その場に漂っていた緊張感が、ふっと解ける。


 しかし、俺は気になって仕方がなかった。この傷を塞ぎ、俺をここまで蘇らせた人物は一体誰なのか。


「ところで、誰が俺を助けてくれたんですか?」


 周囲を見渡すと、傷が癒え、包帯が巻かれたカリーナの傍でレアが丸くなって眠っているのが目に入った。


「ああ、やっぱりレアですか?」


 俺の問いに、フェンリが首を縦に振る。


「はい、カイルを治癒してくれたのはレアさん…それとあの人たちです。」


 フェンリが指差す方向を見て、俺は目を見開いた。そこには、街の警備隊の制服を着た数人の隊員たちが、せっせと仕事をしている姿があった。


「えっ!?警備隊!?」


 予想外すぎる状況に、思わず大声を上げる。どうしてここに警備隊がいるのか。すると、横からフィーニャが口を開いた。


「あれは私が呼んだ。」


「あの時ですか?」


 俺が首を傾げると、フィーニャが静かに頷く。


「そう、あの男が現れた時。カリーナ先輩に頼まれて私、すぐに警備隊を呼びに行ったの。」


「フィーニャが…?」


 彼女が、冷静に行動してくれたおかげで俺は命を拾ったのだ。


「ありがとうございます。フィーニャ。」


 俺はフィーニャに頭を下げる、彼女が居なかったら俺は本当に死んでいただろう。


「いいのいいの、私戦闘じゃ役に立たないから。」


 フィーニャは笑いながら横に手を振る。俺はその無頓着な様子のフィーニャを見つめながら、心の中で再度感謝をした。


 この時の俺は、フェンリが俺の事をじっと見ていたことに気づかなった――。


 しばらく仲間たちと生き残ったことを喜び合っていたところに、警備隊の一人が俺たちの元へ歩み寄ってきた。


「君たちと戦った男は、この男で間違いないか?」


 そう言って指差された先には、一体の死体が横たわっている。

 男の四肢は無惨にも欠損し、目を見開いたまま不気味な笑みを浮かべているかのような表情で絶命していた。その姿に息を呑む俺たち。フェンリやノア、ライガは直視することができず、すぐに目をそらす。


「すまない、子どもたちには少しきついものだったな。」


 警備隊の男はそう言って申し訳なさそうに視線を外した。


「俺たちが戦ったのは……あいつで間違いありません。」


 皆の代わりに俺が答えた。


 警備隊員は俺が立っていることに少し驚いたように目を細めたが、やがて深く頷く。


「そうか、分かった。君たちはここで少し待っていてくれ。私たちが家まで送る手配をする。」


 そう言い残し、彼らは再び館の中での捜索作業に戻っていった。


 俺たちは静かになった館内でじっと座り込み、目の前で繰り広げられる警備隊の働きをただ見つめていた。誰も口を開かず、戦いの余韻が重くのしかかる。



 やがて一時間ほど経ち、館の中は警備隊によってほとんど整理されていた。床には散乱していた盗品や武器の類もなくなり、広々とした空間が残る。警備隊の指示で獣族の子どもたち約百人は保護され、安全な場所へと送り出された。


「よし、ついて来なさい。」


 警備隊の男が促す声で、俺たちは館から外へと出た。


 外に出た瞬間、夜の冷たい風が肌を撫でた。すでに太陽は沈み、月明かりだけが静かに通りを照らしている。その冷たさが、この長い一日がようやく終わったのだと実感させる。


「やっと終わったんだね……」


 フィーニャが小さな声で呟く。その言葉に、誰もが深く頷いた。


 俺たちは警備隊に案内されて馬車に乗り込んだ。それぞれの家に送り届けてもらうためだ。疲れ切った身体を預け、揺れる馬車の中でようやく安堵の息を吐いた。


 その時、不意にカリーナがむくりと身体を起こした。


「……ん」


 突然の動きに、馬車の中の全員が驚き、カリーナの方を振り返る。


「カリーナさん!」


 俺が呼びかけると、カリーナははっとしたように目を大きく見開いた。


 しかし次の瞬間、彼女の頬はみるみる赤く染まり、視線を逸らす。


「カリーナさん?」


 訳が分からず、俺はもう一度彼女に顔を近づけた。


「ち、近づけんでいい!」


 カリーナは怒ったように拳を振り上げ、俺の頭に拳骨を喰らわせた。


「痛って!」


 俺は痛みをこらえながら笑う。


「な、なんでアンタはそんなに無神経なの!」


 カリーナはそう言うと、ぷいっと顔を背けてしまった。


 理由は分からないが、カリーナが目を覚ましたことにホッとする俺たち。馬車の中に少しだけ柔らかい雰囲気が戻った。


 馬車が静かに街道を進む中、俺はふと胸のあたりを押さえた。そこには大きな傷跡が残っているものの、しっかりと塞がれているのが分かる。

 俺がここにいるのは、多くの仲間たちの支えがあったからだ――そのことを改めて実感した。


 そしてその日、俺たちはそれぞれの家に送り届けられ、長い戦いの幕を閉じた。

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