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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第10章 天命の檻編

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572話 彼女たちの正体

 アルベリオが光に飲まれて消えてから、どれほどの時間が経ったのか――もう、分からない。


 長かった気もするし、ほんの一瞬だった気もする。

 ただ確かなのは、その間ずっと、俺たちは壊され続けていたという事実だけだ。


 視界が白く染まり、次の瞬間には世界が凍りつく。

 ルーナが指を鳴らす、その仕草を視認した時点で、もう遅い。


 ――時が、止まる。


 身体は動かない。

 呼吸すらできないはずなのに、意識だけが異様なほど鮮明だった。


(また……来る)


 静止した世界の中、ルーナは悠然と歩く。

 まるで絵画の中を散策するかのように、俺たちの周囲を巡り、魔力を収束させる。


 次の瞬間。


「時は動き出す」


 その一言と共に、世界が再起動する。


 爆発的な衝撃。

 凍てつく空気が裂け、雪原が抉れ、身体が宙に浮く。


「ぐ……ッ!」


 地面を転がり、血と雪を同時に吐き出す。

 結界魔法は、展開した瞬間に砕かれていた。


 工程は、いつも同じだ。

 時を止め、広範囲の攻撃を放つ。


 ただそれだけ。

 それだけなのに、俺たちは何一つ対抗できない。


 アルベリオが抜けた前衛を補うため、ライナスとルミエラが前に出ている。


「――ッ、くそ……!」


 ライナスは全身が血に染まり、大剣を地面に突き立てなければ立っていられない状態だった。

 それでも、歯を食いしばって前に出る。


「まだ……俺は、倒れてねぇ……!」


 だが、その動きは明らかに鈍い。

 感覚が死んでいると言っていた男の身体は、確実に限界を迎えつつあった。


 ルミエラも同じだ。

 近距離戦を得意とする彼女は、魔法と体術を織り交ぜて食らいついているが――。


「チッ……決定打が、足りない!」


 拳も、炎も、ルーナには届かない。

 避けられ、逸らされ、時には“なかったこと”にされる。


 後衛のカリーナ、アルマ、そして俺も、必死に魔法を重ねる。


「今よ……!」


「この一撃で――!」


 だが、ルーナはそれすらも読んでいるかのように、別の加護を発動させる。

 魔法は歪み、散らされ、空に溶けて消えた。


「無駄だよ」


 静かな声。

 嘲笑ですらない、ただの事実確認のような声音。


「君たちは、もう詰んでいる」


 どうやっても勝てない。

 戦術が足りないとか、連携が甘いとか、そんな次元じゃない。


(……違う)


 油断なんて、していない。

 覚悟も、準備も、できる限りのことはやってきた。


 それでも――。


(ルーナが、強すぎる)


 前に戦った時よりも、明らかに違う。

 魔力量も、加護の扱いも、そして“迷い”のなさも。


 彼女は、確実に進んでいる。

 完成へと、破滅へと。


「……はは……」


 思わず、乾いた笑いが漏れる。


 だが、その瞬間。

 心の奥で、何かが弾けた。


(――それでも)


 アルベリオは、賭けに出た。

 俺たちが時間を稼げば、彼は必ず戻ってくる。


 なら、その間――俺に、俺たちに、何かできることはないのか?


 ルーナの力を、もう一度思い返す。


 『時流の加護』。

 二つの世界線を衝突させることで生じる“世界の混乱”。


 ――本当に、時が止まっているのか?


 違う。

 ルーナ自身がそう言っていた。


 これは“時止めに似た現象”に過ぎない。

 世界同士がぶつかり合い、時間の流れが破綻しているだけ。


(なら……)


 混乱した世界の中でも、動ける存在がいる。

 それが、ルーナだ。


(どうやって……?)


 考えろ。

 観察しろ。


 ルーナは、時を止める前に――。


 ――”指を鳴らす”。


 その瞬間、また世界が静止した。


 音が消え、風が止まり、舞っていた雪粒が宙で凍りつく。

 身体は動かない。

 それなのに、意識だけが異様なほど冴え渡っている。


(また、これか……)


 止まった世界の中を、ルーナだけが悠然と歩く。

 赤月を背負い、こちらを見下ろしながら、魔力を収束させていく。


 次の瞬間――。


「時間だ」


 時が動き、破壊が降り注ぐ。


「――がっ!」


 衝撃。

 痛み。

 雪と血が舞う。


 それでも、俺は思考を止めなかった。


(次だ……)


 次に、また時が止まる時。

 その瞬間に、必ず――。


 ルーナが再び”指を鳴らす”。


 世界が、静止する。


 ――その瞬間、気づいた。


(……やっぱり)


 指を鳴らす行為。

 ルーナはいつも、時が止まる直前に指を鳴らす。

 あれは、“時止めを引き起こす行為”ではないと……俺は思う。


 加護は発動する際、魔法と同じ工程を踏む。

 イメージし、魔力を変質させ、放つ。

 あの、ルーナの指を弾く行為はまた別の意味がある。


 もし、あの行為が――停止した時の中で動くための行為だとしたら。


 止まった世界の中で、思考だけが走る。


(……指先に、”何か”がある……!)


 時が動き、また攻撃を受ける。

 身体は限界に近い。


 だが――。


 俺は、確信していた。


「……見えたかもしれない」


 次だ。

 次で、確かめる。


 ルーナが、再び指を鳴らそうとした、その瞬間――。


「ルミエラさん!!」


 喉が裂けるほど叫ぶ。


「次、ルーナが時を止める直前!!

 奴の“指先”を――魔力感知で探ってください!!」


 その言葉に、ルミエラの視線が一瞬だけ俺を捉えた。


 一瞬の静寂。

 そして――。


「……分かった!」


 ルミエラは短く答え、魔力感知を展開した。


 再び、指が鳴る。

 時が止まる。


 ルーナだけが、悠然と歩く。

 その光景を、俺はただ睨みつけながら待った。


(早く……動け……)


 焦りが、逆に時間を引き延ばす。


 そのときだった。


「――もう、飽きちゃったな」


 ルーナがため息混じりに呟く。


 胸が、嫌な音を立てた。


「止めて、放って、止めて、放って……同じことばかり。つまらない」


 彼女は俺たちを見下ろし、首を傾げる。


「そろそろ終わりにしようか。

 何処かに行っちゃったアルベリオも戻ってこないし……赤月も、もう終わりが近い」


 掌をこちらに向ける。


「この一撃で――君たちを殺す」


 七色の光が、掌の上に凝縮されていく。

 世界が止まったまま、その光だけが生き物のように脈打つ。


(まだ……!)


 もう少しで答えに辿り着けたのに。

 突破口は、すぐそこだったのに。


「じゃあね、英雄たち」


 ルーナは微笑み、光球を放つ。

 それは止まった世界を滑り、俺たちの目前まで迫った。


「――そして、時は動き出す」


 覚悟を決めた。

 ここで終わるなら、それまでだと。


 だが。


 バン、と空気が弾けた。


 俺たちを包み込むように、結界魔法が展開される。

 次の瞬間、時が動き出し、七色の球は結界に衝突して砕け散った。


「――!?」


 理解が追いつかない。


 止まったはずの時の中で。

 誰かが、動いた。


「……やっぱり、動けるじゃん――アルマ」


 ルーナの声が、冷たく響く。


 視線の先。

 杖を構え、歯を食いしばるアルマの姿。


「アルマ……さん?」


 声が震えた。


 なぜ。

 どうして。


 その疑問に、ルーナが答える。


「やっぱり君は、私と“同じ”だよ……アルマ」


 アルマは、顔を歪めた。


「……やめて。……言わないで……」


 泣き出しそうな声。


 その表情を見て、ルーナは楽しそうに笑った。


「あぁ、教えてなかったんだ?」


 俺たちへ視線を向ける。


「可哀想に。信用されてなかったんだね?」


 そして、アルマを指さす。


「彼女は、私と”同種”」


「やめて!!」


 アルマの叫びも虚しく、ルーナは告げた。


「彼女の正体は――“魔族”だ」


 その言葉が、凍った世界よりも冷たく、俺の胸を貫いた。

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