554話 諦めない
今日めちゃめちゃ短いです!!!
三人の勇者が参戦したことで戦場の空気が一変した。
だが、その中心に立つゼロ・アークライトは、まるでそれを歓迎するかのように嗤った。
切断されたはずの右腕が――赤黒い霧をまといながら、蠢き、肉が捻じれ合い、筋肉が盛り上がり、骨が伸びていく。
音を立てながら再生していくその光景に、俺は息を呑んだ。
「……再生までできるのか……」
これが、鬼族の能力――。
だが、弱点は人と変わらないはずだ。
心臓か脳。そこを破壊すれば、どんな怪物でも終わりのはずだ。
レオン、ロガン、アルトリーナの三人がゼロを囲むように動く。
ゼロは再生を終えると、ゆっくりと腕を握りしめた。
そして――地響きが走る。
「死に晒せッ!」
ゼロの全身が赤黒い閃光に包まれた瞬間、アルトリーナが遠くまで吹き飛ばされ――衝撃音が空を裂いた。
「ぐぉッ……!」
ロガンの拳がゼロにめり込むが、それでもゼロは微動だにしない。
逆にロガンの巨体が押し返され、足元の岩がひび割れた。
「遅いぞォ、巨人族ゥ!!」
ゼロはロガンの腕を掴み、捻り上げた。骨が軋む嫌な音が響く。
「ロガンさん!」
「来るな、カイル! 今は俺たちがやる!」
レオンとアルトリーナが同時に攻撃を仕掛け、ゼロを引き離す。
戦闘は完全に三勇者とゼロの間で激化していた。
――そのとき。
俺は、自分の視界が急に狭くなったことに気付いた。
息が浅くなる。心臓が早鐘のように脈打つ。
頭が重い。指先が冷たい。
「魔力切れか……ッ?」
立っているだけで精一杯だった。
(くそ……気絶なんてしている場合じゃ……ない……!)
ルミエラから魔力を貰うか?
――無理だ。
ルミエラもほとんど魔力は残っていないハズ。
カリーナたちもフェンリの治癒で手いっぱいだ。
魔法抜きで戦う手段を考えねば――そう思った瞬間。
「……大丈夫かァ、カイル」
背後から、気配もなく声がした。
振り向くと、血に濡れた服のまま、ライナスが立っていた。
片手には禍々しいほど巨大な剣を担いでいる。
「兄さん!!?」
「周りの雑魚どもは片付いた。……後は、”あの女”だけだと思ってたがァ」
口角を上げて、ゼロの方を見た。
「まさか、ゼロの野郎まで来てやがるとはな」
ルミエラが苦笑しながら言う。
「ライナス。あんたも戦うつもり?
ゼロの奴は今、鬼族って言う聞いたこともない種族に変身してる。
それにめっちゃ強い……。
消耗しきったあの勇者たちと、あたしらで掛かったって、正直キツいと思うよ」
だがライナスは鼻で笑った。
「ハッ……! 俺は元々、”あっち側”にいたんだぜ? そんくらい分かってらァ」
剣を地面に突き立て、カランと音を鳴らす。
「ゼロの野郎を倒すなら――心臓を貫くしかねぇ」
その言葉に、俺の胸が強く脈打った。
「脳は頑丈な頭蓋に守られてるし、首も太ぇ。
だが――奴が魔法を掴む瞬間、ほんの一瞬だけ全身が柔くなる」
「……え」
ライナスは俺の肩を叩きながら、言葉を続けた。
「ずっと観察してたんだよ。
奴はお前らの魔法を掴むとき、腕に全魔力を集中させてやがった。
その瞬間だけは、身体全体に魔力が回らねぇ状態になる。
奴のあの身体強度は”魔力由縁”のものだ。
つまり、その一瞬だけ皮膚も筋肉も硬化が解けるっつう訳だ」
ライナスの言葉を聞いて、ルミエラが前のめりに叫ぶ。
「確かに、ゼロは魔法を掴む瞬間だけ微かに魔力が偏っていた気がする!
あの一瞬――ほんの刹那の隙に攻撃を叩き込めれば、可能性はあるかも……!」
胸の奥で、弱りかけた炎が再び燃え上がる。
「行くぞ、カイル。立て。
魔法が使えねぇなら……テメェの体で戦え」
ライナスは、まるで兄としてでなく仲間として俺を奮い立たせるように笑った。
俺は、揺れる視界の中で、血を噛みしめるように立ち上がる。
「……はい!」
もう、倒れない。
もう、諦めない。
兄と、勇者たちと、師匠と――ここでゼロを倒す。




