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552話 師弟共闘

 ゼロが獰猛な笑みを浮かべたまま、一歩、また一歩と大地を踏みしめる。


 踏み込むたびに地面が沈み、ひび割れが走る。

 それが、ただの踏み込みだというのに、まるで山が動いているような重みだった。


 背後では、仲間たちが息を整えながら俺の名前を呼んでいた。


「カイル……!」


 振り返りたい衝動に駆られる。

 逃げたい……怖い……そんな本能が、喉奥で渦を巻く。


 だが、俺は一歩、前へ出た。


 ――ここで退けば、全部終わる。


 震える手をゼロへと向ける。

 掌に、残る魔力を集め始めた、そのとき。


「待ちな」


 ふいに横から声がして、俺は目を見開く。


 ルミエラが、隣に立っていた。


 杖を握る両手は傷だらけで、魔力の消耗も激しいはずだ。

 それでも彼女は、いつもの軽口めいた笑みで俺を見上げてきた。


「あたしも戦うよ」


 その声音に、震えはなかった。

 覚悟と、静かな怒りと、確かな信頼だけが宿っていた。


 胸が熱くなる。

 息を呑んで、俺は小さく頷いた。


「ルミエラさん……頼みます」


 ルミエラは鼻で笑う。


「”頼む”ってのは少し違うね。

 あたしはあんたの師匠だぜ? あんたも胸張りな!

 初めての“共闘”なんだから、みっともない姿見せんじゃないよ!」


 初めて――。


 気づいた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。

 今まで何度もピンチを乗り越えてきたが、ルミエラと肩を並べて戦うのは、これが初めてだ。


 彼女に拾われ、怒鳴られ、叩き直され、笑われ、励まされ……。


 そして、ここまで連れてきてもらった。


 その師が、今――俺の横で構えている。


「行こう、カイル君」


 ルミエラが杖を構え、地面が震えるほどの魔力を絞り出す。


「あいつを倒すよ。あんたとあたしでね」


 ゼロが嗤う。


「ふん……師弟か。くだらん茶番だ。

 だがいい。まとめて相手をしてやる。

 勇者と魔女――どちらから潰されたい?」


 俺たちは自然と姿勢を合わせる。


 俺は掌へ光を収束させ、

 ルミエラは杖の先に灼熱の炎を渦巻かせる。


 ふたりの魔力が重なった瞬間、風が爆ぜた。


「行きましょう――!!」


「あぁ、ドンと行くよ!!」


 ゼロが飛び込んだ。

 大地が割れ、爆風が吹き荒れる。


 そして――俺とルミエラの、初めての師弟共闘が幕を開けた。


「右に行くよ!」


「はい!」


 叫ぶよりも早く、ルミエラが俺の軌道に合わせて舞う。

 俺が放つ炎槍に、彼女が闇の流れをまとわせる。

 闇が炎を包み、槍は漆黒の尾を引いて爆ぜる。


 ゼロの巨体が揺らいだ――が。


「効かん」


 低い声が、地を震わせた。


 それでも俺たちは攻撃の手を緩めない。


 俺が足を狙い、ルミエラが頭上から撃ち下ろす。

 ルミエラの魔法がゼロの動きを束ね、俺の光魔法がそこへ滑り込む。


 互いの呼吸がぴたりと噛み合った。

 初めてだと言うのに、まるで十年並んで戦ってきたかのような――そんな感覚だった。


「カイル君、後ろに跳んで!」


「了解!」


 動く前にルミエラの声が聞こえ、聞こえる前に俺の足が動いている。

 俺の炎がゼロの懐を焼き、ルミエラの魔法がその炎を増幅して爆ぜる。


 ゼロの巨体が、後方へ押し返される。


 だが――。


「……滑稽よ。共闘したところで、所詮消耗し切った雑魚どもよ!」


 ゼロが吠えた。


 次の瞬間、拳が地面に叩きつけられた。


 ――衝撃。

 地面が螺旋を描いて割れ、俺たちの足元が弾ける。

 視界が揺れ、体勢が崩れる。


「まずは貴様からだ、魔女!!」


 ゼロが地割れをものともせず踏み込み、

 ルミエラ目掛けて拳を振り下ろした。


 空気そのものが裂けるような轟音。

 巨岩を砕くどころではない――あれをまともに受ければ、ルミエラでも無事ではいられない。


「――ルミエラさん!!」


 俺は咄嗟に手を伸ばし、魔力を爆発させた。


 ゼロの振り下ろした拳が、山を砕くような轟音をまとってルミエラへ迫る。

 俺は助けに飛び出しかけ――だが、その必要はなかった。


 ルミエラは、微笑んでいた。


 ふわり――と、まるで散歩の途中で風に髪を撫でられたかのような、そんな自然な仕草で、彼女は拳の軌道に触れた。


 まるで水流の方向を手で変えるように、極めて繊細で、それでいて抗いがたい魔力操作。

 ゼロの拳は見事なまでに逸れて――。


 地面へと沈み込み、大地が爆ぜた。


「……な……に……?」


 ゼロの顔が、初めて驚愕に染まる。

 自分の拳が、まるで子どもの投げた石のようにいとも簡単に弾かれたのだから。


 逸らしたその瞬間、ルミエラの魔力が一気に膨れ上がった。


「――はい、反撃タイム!」


 足元の土石が跳ね上がり、上半身へ、そして顔面へ。


 拳大の岩の弾丸が連続で叩き込まれ、

 ゼロの眼鏡が粉々に砕け、レンズの破片が宙を舞う。


 どれほどの連撃だったのか、舞い上がったガラス片は、空中で粉塵へと変わり消えた。


「ぐっ……ぉ……が……っ!」


 ゼロの口元から、鮮血が滲み出る。

 世界最強の破壊者が、顔を歪めるほどの痛みに襲われている。


「貴様、魔法使いのくせに――!!」


 叫びかけたゼロに、ルミエラはにやりと唇を吊り上げた。


「近接戦闘が上手いって? ありがと!」


 妙に上ずった明るい声だった。

 それがゼロの逆鱗を正確に踏み抜いた。


「貴様ぁあああ!!」


 怒号とともに、丸太のような太脚がルミエラへと振り抜かれる。


「させるか!」


 俺の身体から光が溢れ、瞬時に魔法が展開された。


 光の膜がゼロの足を包み込み、巨大な質量が一瞬だけ宙に縫い止められる。


「ぬっ――!?」


 俺は腕を天に掲げる。

 光が引き上げるようにゼロのバランスを奪う。


 そのままゼロは尻もちをついた。


 立ち上がるよりも早く、俺たちの追撃が重なる。


「はい、次いくよ!」


「はいッ!!」


 ルミエラの紅蓮の炎がゼロを包み、俺の放つ光球がその隙間を縫って内部で炸裂する。


 逃げ場のない攻撃。

 ゼロは成す術もなく、ただ連撃に呑まれていく。


 俺は確信した。


 ――勝てる。

 俺たちなら――この連携ならこいつに勝てる。


 そう思った、その瞬間。


 地面がゼロを中心に円形に砕け散った。

 破片が弾け飛び、衝撃が俺とルミエラを押し返す。


「なっ……!?」


 俺の目には、ゼロは何もしていないように見えた。

 魔力の膨張も、構えも、技の気配もなかった。


 ただ座り込んでいるようにしか――。


 なのに、地が割れた。

 空気が震えた。

 世界そのものが、ゼロの“意思”に押し潰されたように。


 ゼロはゆっくりと立ち上がる。


 口の血を拭いながら、

 今までとは比べ物にならないほど冷ややかな笑みを浮かべ――。


「……貴様らに教えてやろうか。

 鬼族の能力というものを」


 次の瞬間、ゼロの周囲の空気が歪んだ。

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