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547話 命取り

 ルミエラとカリーナは、すでに限界だった。

 息は荒く、肌は青ざめ、魔力の光もほとんど見えない。

 全身傷だらけで、もはや治癒魔法を使う余力すら残っていない。


 その様子を見て、ルーナは喉の奥で笑った。


「そんなものだよ。君たちの実力なんて」


 七色の光が、音もなく彼女の周囲に咲く。

 そして次の瞬間――。


 高出力で高圧力の光線が二人へと放たれた。

 空気を焼き裂く閃光を、ルミエラとカリーナは紙一重でかわす。

 しかし衝撃でバランスを崩し、そのまま地面に叩きつけられた。


「く……ッ!」


「っ……あ……!」


 砂埃の中、カリーナが震える腕で地面を押して起き上がろうとする。だが――。


 ぐにゃり、と肘が折れ曲がった。


「……魔力切れ……」


 隣でルミエラが、呻くように呟いた。


「まだ……まだ戦える……ッ!」


 カリーナは血と汗に濡れた顔を上げ、再び立とうとする。

 だが立ち上がった瞬間――全身から力が抜け、胸から地面に倒れ込んだ。


「う……あ……ッ……!」


 歯を食いしばり、地面に額を押しつけて悔しさに震えるカリーナ。


 そんな彼女の背中に、ルミエラがそっと手を添えた。


「少ないけど……あたしの魔力、少し分けてあげる……っ」


 ルミエラの腕に力がこもり、肌の下から紫色の魔力が浮き上がる。

 それは細い光の筋になってカリーナの身体へと流れ込んでいった。


 魔力を分け終えたルミエラは、ルーナを睨みつける。


「今の隙に……あたしたちを攻撃できたハズ。なんでしなかった?」


 ルーナはまるで退屈そうに、微笑んだ。


「その口ぶりだと、君も気づいているんじゃない?」


 ルーナはちらりと俺を一瞥し――そしてルミエラを見た。


「君たちの“徹底的な敗北”。それをカイル・ブラックウッドに見せて、もっと深く絶望させるためだよ。

 魔力切れで倒れるなんて……そんなつまらない終わりじゃあ、ちっとも面白くない」


 言葉と共に、ルーナの周囲に再び七色の光球が生まれる。


「私の持つあらゆる加護を組み合わせて作った、この“圧力球”。

 新世界創成にふさわしい光だと思わない?」


 ルミエラは血の混じった唾を地に吐いた。


「はっ……どこがだよ。悪趣味にも程があるね」


 だがその口元には、負ける気のない笑みが浮かんでいた。


 カリーナが、震える脚で必死に立ち上がる。


「ルミエラ……あなた……魔力を分けてくれるなら……もう少し頂戴よ……!

 これじゃ……立つことしか……できない……」


 力なく呟くカリーナに、ルミエラはふっと笑って肩をすくめた。


「ああ。だって“それだけのため”に分けてあげたんだから」


 カリーナは驚いたようにルミエラの顔を見る。


「まさか……私だけ逃げろって言うの?」


 ルミエラはこくりと頷いた。


「そうだよ。カリーナちゃんはもう戦える身体じゃない。

 あのクソ女を相手にするのは、どう考えても無理だ」


「そんなこと――うっ……!」


 言い返そうとした瞬間、痛みでカリーナの体が折れ、言葉が途切れた。


「ほら見た。魔力が戻っても、その傷じゃもう無理。治癒魔法でも全快はできないよ。

 だから、アンタだけでも逃げな!」


 ルミエラは手をひらひらと振ってみせる。


 カリーナは悔しさに震え、必死に叫ぶ。


「あなた一人でアイツと戦うって言うの!? 無謀よ! 一人じゃ……絶対に勝てるわけない!」


 ルミエラはにやりと笑った。


「いや――一人じゃないよ。

 “あの子たち”が、一緒に戦ってくれる」


 その瞬間、カリーナの表情がはっと変わった。


 ――次の瞬間。


 ルーナの背後に二つの影が飛び込む。


「ウォラァアアアアァ!!!!!」


 雷を纏ったライガとジャンガが咆哮し、拳を振り上げる。


「ライトニング・フィストォオオ!!」


 雷撃の連撃がルーナの七色の光を一瞬で霧散させた。


「……へぇ」


 それでもルーナは笑みを崩さない。


 伸ばした腕で反撃しようとした――が。


「――させない!!」


 懐からフィーニャが弾丸のように飛び出し、ルーナの腕を掴んだ。


「ッ!?」


 ルーナの目に、初めて驚愕の色が宿る。


 その腕を掴んだフィーニャが叫び散らす。


「ホントだ!! カイルの言った通り!!

 体温が“温い”!!!」


 ルーナの目が見開かれた。


「っしゃあ、フィーニャやっちまえ!!」


 ジャンガが吠えると、フィーニャは手のひらをルーナの顔に向ける。


「ファイア・ボール!!」


 小さな火球が生まれた瞬間――。


「ライトニング!!!」


 ライガとジャンガの放つ二筋の稲妻が火球へ襲いかかる。


 衝突した瞬間、火球は弾けるように膨張し――色を変えた。


 赤、黄、白――そして青へと。


 青炎(せいえん)青炎(せいえん)

 通常の炎の数倍から十倍、時に一万度を超える灼熱。


 風が震え、大地が焦げ、空気が歪む。


 その光景を眼前にしたルーナが、何かの感情に震えるように目を見開いた。


「……美しい。

 これこそ……“再起の火”だ」


 その呟きは、青炎が轟音と共にルーナを包み込む音にかき消されていった。


 ――だが、それを見たライガたちはすぐさま距離を取って後退する。


「くっ……熱っ……!」


 青炎は、近くにいるだけでも皮膚が焼けるような熱量を放っていた。

 離れた位置で見ている俺のところにさえ、炎の熱が肌に刺すように届いてくる。


 フィーニャとジャンガは腕や頬を赤く腫らせ、息を荒げながら治癒魔法をかけている。


 あれほどの炎に包まれたのなら――普通なら、肉体が形を留めている方がおかしい。

 普通なら……灰すら残らないはずだ。


 そう思った瞬間だった。


 灼熱の炎柱を、音もなく裂いて飛び出した黒い影が一つ。


 誰であるかなど、考えるまでもない。


「……っ!」


 ルーナが、平然とした表情のまま炎を振り払って姿を現した。

 焦げ跡一つない。髪すら揺らいでいない。


 炎の余波にすら飲まれていた俺たちとは、まるで別の世界の生き物だ。


 ルーナはふわりと宙に浮かぶと、フィーニャたちを見下ろしながら薄く微笑む。


「――あれを君たちだけで作りあげたことは、素直に評価するよ」


 優しげな声音が、逆に肌を刺す。


「でも……あんな“ちっぽけな炎”で、君たちは一体なにをしようと言うの?」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。


 ――まさか、知らないのか。


 急激な体温変化が、身体にどれほど致命的な負荷を与えるか。

 さっき俺の腕を掴んだとき、ルーナの体温は異常なまでに低かった。三十度を下回っているかもしれない。

 そんな身体に、炎の熱をぶつけ続ければ――。


 これは……好機だ。


 ルーナに作戦を悟られず、徐々に奴の身体機能を削れる。


 ルーナが静かに右手を上げ、指先をライガたちへと向けた。


「もう、手札は出し尽くしたようだね?」


 宙で揺らぐ銀髪。

 その瞳は、まるでこれから虫を殺すかのように、微動だにしない残酷さで俺たちを見ている。


「本当にいいの? このままじゃ、私は君たちを“殺さないと”いけなくなる」


 その声音には悲しみ一つなく、ただ“事務的な決定事項”として語られていた。


「私とて、新世界の住人を殺すのは惜しいと思っている。だから……」


 静かに手を広げる。


「――今ならまだ間に合う。ここで無駄な争いは終わりにしよう?」


 その優しさにも似た誘いが、逆に背筋を凍らせる。


 ……ルーナは、本気でそう言っている。

 迷いなく、倫理もなく、たった一つの目的のために。


 だが――だからこそ、弱点は見逃せない。


(……やれる。ルーナは気づいていない)


 俺は拳を握った。


 急激な温度差は――“命取り”になる。

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