53話 集う仲間たち
俺が杖に魔力を注入する間、カリーナが男の注意を引いている。
しかし、重症を負っているカリーナにとって、その役割はあまりにも荷が重すぎる。
それに、カリーナが今使っている杖はおそらくフェンリの物だ。本来カリーナが使用するべき杖は今俺の手元にあり、魔力を注ぎ込む途中だ。
カリーナの魔力量は俺よりも多いはずだが、それだけに負担も大きい。
あの杖がどれほど頑丈だろうと、カリーナが数回魔法を使えばおそらく壊れてしまう。それが、彼女に与えられたタイムリミットだ。
俺は焦る気持ちを抑えながら、魔力結晶から杖に魔力を注ぎ込もうとするが、手元が震える。
全神経を集中させようとしても、視界の端で繰り広げられるカリーナと男の攻防が気になって仕方がない。
カリーナは男が俺の方へ向かうのを必死に阻止しようとしている。
魔法の使用を極力抑えようとしているせいか、彼女自身の防御が甘くなっているのが見て取れる。
時間が経つにつれて、カリーナの制服に新たな切り傷が増えていく。対して男は重傷を負ったカリーナを弄ぶかのようにニヤつきながら戦い続けていた。
やがてカリーナが膝をつく。その姿を見た瞬間、俺の胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「カリーナさん!」
俺は魔力の注入を中断し、カリーナを助けに行こうとする。しかし、その行動を制するようにカリーナが叫んだ。
「私はいい!この男を倒すことだけ考えなさい!」
「でも!」
俺は足を止めてしまう。カリーナを助けるべきか、それとも魔法の完成を急ぐべきか。決断を下すべき瞬間に、俺の体は固まってしまった。
そして、男がついにカリーナに剣を振り下ろそうとする。俺は立ち上がろうとするが、突然どこからか魔法が飛んできた。鋭い風が男の剣を弾き飛ばし、攻撃の勢いを止める。
「チッ・・・誰だ!」
男が怒声を上げる。振り返った俺の目に映ったのは、息を切らしたフィーニャの姿だった。
「はぁ...はぁ...ごめん、遅れた!」
彼女は汚れた制服のまま魔具を構え、こちらを見て微笑む。その表情には疲労が滲んでいたが、確かな決意が宿っていた。
「フィーニャ!」
俺は驚きと安心が入り混じった声を上げた。フィーニャがこちらに到着したことで、一瞬だけ緊張の糸が緩む。
「やっと来たわね...!フィーニャ!」
カリーナがその場で息を整えながら言った。待ち望んでいた救援が来たという安心感が、彼女の声に微かに滲んでいる。
「これ以上好きにはさせないよ」
フィーニャが叫ぶと同時に、再び魔法を放つ。鋭い風刃が男の足元を襲い、動きを封じようとする。
「ちっ、また新手か!」
男は舌打ちしながら後退し、攻撃の軌道を見極める。だがその隙を突いて、カリーナが力を振り絞りながら魔法を発動した。
「火矢!」
小規模な火の矢が次々と男を襲い、動きを制限する。フィーニャとカリーナの連携が見事に決まり、彼の動きに次第に乱れが生じ始める。
「フィーニャ!一気に仕掛けるわよ!」
「分かった」
フィーニャが短く応えると、再び魔法を放つ。その連携の隙に、俺は再び杖に魔力を注ぎ込むことに集中した。
フィーニャとカリーナの連携は見事だった。しかし、男の攻撃は依然として苛烈で、フィーニャの肩を掠めた剣撃が彼女の制服を裂く。
「くっ...!」
フィーニャが痛みに顔を歪めながらも必死に戦い続ける。その姿に俺は焦りを感じながらも、魔力注入の手を止めることはできなかった。
「...思ったよりやるじゃねぇか。」
男が苛立った様子で剣を握り直し、青白い光を纏わせ始める。その剣から漏れ出す異様な音が空間を震わせ、圧倒的な威圧感が一気に広がった。
「またあの光か...!」
俺は必死に冷静さを保ちながら、魔力注入の最終段階に入る。
「フィーニャ、カリーナさん!あと少し耐えてください!」
「分かってる!」
だがその時、カリーナがフィーニャに向かって叫ぶ。
「フィーニャ!もう下がりなさい!これ以上は危険よ!」
「・・・でも」
フィーニャが反論しようとするが、カリーナの鋭い視線がそれを制する。
「ここは私がなんとかする!あなたたちが未来をつなぐのよ!」
カリーナが震える足で立ち上がり、再び杖を構える。その姿は痛々しくもあったが、彼女の決意は揺るがないものだった。
「・・・分かった」
フィーニャは悔しそうに唇を噛みながらも、後退して俺の近くに下がる。
「カイル、準備できてる...?」
「もう少しだ...あと少し!」
全てをかけて俺は魔力を注ぎ込む。しかし―――。
「これで終わりだ!」
男が青白い剣を振りかざし、カリーナに向かって突進する。
その剣は暗闇の中で異様な輝きを放ち、見るだけで全身がすくむような威圧感があった。
カリーナは既に体力を消耗しきっており、反撃する力は残されていない。彼女は杖を握りしめてはいたが、その先端は微かに震えている。
「カリーナさん!!!」
俺は叫びながら立ち上がるが、魔力の注入はまだ終わっていない。途中で手を離せば全てが無駄になることを分かっていながら、それでも目の前の現実が俺を追い詰める。
カリーナに剣が振り下ろされる、その瞬間――。
「雷撃拳ォ!!!」
鋭い叫び声と共に、紫色の閃光が男の背後から飛びかかる。その声と姿に俺は一瞬耳を疑った。
「ライガ!!」
短い金色の髪を揺らしながら飛び込んできたのはライガだった。彼の拳には稲妻が纏い、無防備な男の背中に叩き込まれる。
「ぐっあああ!!!」
男は悲鳴を上げ、よろけながらカリーナたちから距離を取る。だが、男が逃げたその先にもさらなる攻撃が待ち構えていた。
「もういっちょ!雷撃拳!」
暗闇の中から現れたのは、ライガと瓜二つの少年。紫色の稲妻を纏った拳が再度男の背中に大きな打撃を与える。
「ジャンガ!?」
そこに立っていたのは、ライガの弟、ジャンガだった。双子の兄弟が並び立つ姿に、俺は驚きと安心感で胸がいっぱいになる。
男はその予期せぬ連携に対応しきれず、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる。
「くそっ…!」
男が立ち上がろうとする隙を与えず、双子のさらなる攻撃が放たれる。
「よくも俺たちの仲間を!」
「許せねえな!悪党が!」
双子は怒りの表情を浮かべながら同時に跳びかかる。その拳には、これまで見たこともない青白い電撃が走っていた。
「「雷鳴衝撃!!!」」
二人は息を合わせ、拳を重ねて無防備な男に全力で打ち込む。その衝撃波は目に見えるほどの威力を持ち、周囲の空気が震えるのが分かった。
だが――
「なっ!?」
男は咄嗟に剣を振り返し、二人の拳をその剣の平で受け止める。そしてその剣は、まるで生き物のように双子の雷を吸収し始めた。
「まずい!!」
俺が叫んだ時にはもう遅かった。男の剣は吸収した雷のエネルギーでさらに輝きを増し、今度は青白い稲妻をまとい始めている。
「養分ありがとよォ…」
男は口元から血を垂らしながら、不気味な笑みを浮かべて剣をじっと見つめる。その目には異常な執着心が宿っていた。
「お前らガキのクセに、魔力が良い養分になるじゃねえか…最高の一品だぜ!」
男の剣がかつてないほど光を放ち、周囲の空間が緊張で張り詰める。彼はそれを舐めるように見ながら、再び戦闘態勢を整えた。
しかし、俺たちもここで引き下がるわけにはいかない。ライガたちの参戦で形勢は大きく変わっている。カリーナは傷だらけで息を切らしているが、その目にはまだ戦う意思が残っている。
俺は杖への魔力注入を再び再開しながら、確信した。
(いける…勝てる!)
一筋の光が俺たちの中に差し込み、全員の士気を押し上げる。男の威圧感は変わらないが、今の俺たちなら――
俺は決意を込めて言葉を紡いだ。
「みんな、ここで終わらせましょう!」




