51話 反撃
男は自身の剣を天高く掲げ、不気味な笑みを浮かべながら叫んだ。
「俺の”魔剣”を避けられるかなぁ?」
その言葉に続き、剣が緑色の不気味な光を放ち始める。
俺とカリーナは瞬時に状況を察知し、それぞれ魔法で盾を生成して攻撃に備えた。次第に剣の輝きが増していき、空気がピリつく。魔力が周囲に広がり、緊張が一層高まる。
「来るわよ、カイル!」
カリーナが鋭い声で警告する。俺は一瞬でも気を抜かないように集中を高めた。そしてついに、剣の輝きがピークを迎えた瞬間、男が剣を振り下ろした。
「死ねぇッ!」
剣先から緑色の光線が放たれ、鋭い音を立てながら一直線に俺たちに向かってくる。その圧倒的な威力が、生成した盾を叩きつけるように押し込んできた。
「くっ…!」
金属同士が擦れ合うような耳障りな音と共に、光線が俺の盾を削り取る。その圧力に耐えきれず、ついに俺の盾が砕け散った。
「カイル、下がって!」
カリーナが叫ぶが、俺の反応が一瞬遅れた。無防備な状態の俺に向かって、光線が猛スピードで迫ってくる。
「土壁!」
咄嗟に土元素魔法で防壁を生成したが、光線の威力は想像以上だった。土壁は一瞬で砕け散り、俺の目の前に迫る緑色の閃光。その時——。
「カイルッ!」
突然、目の前にカリーナが飛び込んできた。彼女の体が光線をまともに受け、爆発音と共に煙が立ち込める。衝撃でカリーナの体が地面に叩きつけられた。
「カリーナさん!」
俺は急いで彼女に駆け寄り、その焦げた体を抱き上げる。彼女の肌は焼けただれ、息は浅く途切れ途切れだ。
「なぜ…どうして俺なんかを庇ったんですか!」
震える声で問いかける俺に、カリーナは苦しそうに目を開けた。
「なんでかしらね…咄嗟に身体が…動いちゃったのよ…。きっと…私は…あなたが……」
言葉の途中で咳き込み、痛みに顔を歪めるカリーナ。俺は彼女を安心させるために必死で声をかけた。
「もう喋らないでください!大丈夫です、カリーナさんは俺が守ります!」
カリーナはかすかに微笑み、力尽きたように目を閉じた。
「さて…どうするんだい?」
男が余裕たっぷりの態度で椅子に腰掛け、手元の酒を一口飲んだ。その目は、俺たちを完全に見下している。怒りが込み上げ、俺の中で何かが弾ける。
「お前を…殺す。」
低く呟いた俺の声に、男は楽しそうに笑った。
「おっと——怖い怖い。ガキが粋がっちゃって。どうやって俺に勝つつもりだ?」
男は剣を再び構え、その刃が再び光り始める。だが、俺の心はすでに覚悟を決めていた。俺は素早くジャンガから借りた杖を手に取り、魔力を集中させる。
「今度は…絶対に外さない!」
杖に込めた魔力が熱を帯び、火の球体が生成される。
「火球!」
放たれた火球は男に向かって真っ直ぐに飛んでいく。男はそれを軽く飛び上がって避けたが、火球は背後の壁に衝突し、爆発を起こした。その衝撃で男の体勢が一瞬崩れる。
(今だ!)
俺は素早く追撃の魔法を準備する。だが、男もすぐに態勢を立て直し、剣を振り回しながら距離を詰めてくる。
「皆を傷付けたことを後悔させてやる!」
俺は再び魔法を発動させ、男の動きを止めるべく攻撃を仕掛ける。一瞬でも気を抜けば命を奪われるこの戦い。だが、俺の心には確信があった。
(俺は負けない…絶対にみんなを守る!)
緊迫した戦いは、さらに激しさを増していく。
俺は次々と男に魔法を放つ。しかし、男は軽々とそれを避け、俺の攻撃は牽制にすらなっていない。
「俺を殺すんじゃなかったのかぁ!?」
男は壁を蹴って素早く距離を詰めてくる。まるで獲物を狙う獣だ。
「火矢!」
俺は即座に下級魔法を放ち、火の矢が杖の先から次々と飛び出す。すると、これまで掠りもしなかった男の頬に火矢がかすり、わずかに傷をつけた。
「おおっと、少しはやるじゃねぇか!」
男は興奮したように笑いながらも、その動きにわずかな乱れが見えた。
下級魔法の速度と威力が、ようやく男に届き始めている。しかし、同時に俺の手元にある杖が不穏な音を立てた。
――ピシッ。
見ると、ジャンガの杖には大きなヒビが入っている。
(まずい俺の魔力じゃこの杖が持たないか!この杖が壊れたら…!)
次の攻撃で壊れるのは明らかだった。だが、戦闘中に杖を失えば勝ち目はない。
(カリーナの杖なら…!)
俺は目をカリーナに向ける。彼女の杖は倒れている彼女のすぐ近くに置かれている。それなら、もっと強力な魔法を使えるかもしれない。しかし、そこまでの距離を走り抜ける間に男に狙われれば、間違いなく命はない。
(どうする…?)
男の剣が光り始めた。あの攻撃を放つ準備をしている。次を食らえば、俺も、気絶しているカリーナも、誰一人助からない。
「ふん、どうした? 震えちまって動けないかぁ?」
男の声が耳に響く。焦りに拍車がかかる。
――しかし
(待て。男はあの剣を使うためにエネルギーを集中させている。その間に少しでも動きを封じれば…。)
「ライガ…フェンリ…助けてくれ…!」
倒れている仲間たちを見ながら、俺は小さく呟いた。もちろん、返事はない。しかし、俺の心にはある種の決意が宿っていた。
俺はわずかに視線をずらし、男の動きに合わせて魔具を向ける。
「氷壁!」
土ではなく、氷の壁を作り出し、男の進行方向を強引に遮る。男は驚きの表情を浮かべながらもすぐに剣を振りかざし、壁を砕いた。
だが、その瞬間だ。俺は氷壁の粉々になった破片を利用し、次の一手を繰り出した。
「火球!」
氷壁の破片が飛び散る中、火球を中心に向けて撃ち込む。氷と火が衝突し、爆風が生じた。その煙幕ができた一瞬の隙を狙い、俺はカリーナの元へ走る。
――ドクン、ドクン。
心臓の鼓動が耳に響く。後ろで剣を振り回す音と男の怒号が近づいてくる。
「逃げられると思うなよ!」
俺は振り返らず手を伸ばす。そして、ついにカリーナの杖を掴んだ。
「…借ります!」
男が視界の端に入った。鋭い剣先が迫ってくる。
「間に合え!」
俺は杖を構え、魔力を全力で込めた。「炎槍!!」
炎の槍が男と俺の間に立ちはだかる。剣と炎が衝突し、激しい火花を散らした。「
クソッ…!これ以上ガキ相手に手こずれるか!」
男の怒声が聞こえるが、俺は次の魔法の準備に入る。
――この杖ならいける。俺はもう、逃げない。
「さぁ、決着をつけてやる」




