50話 不気味な剣士
ようやくノアを見つけ出した俺たちは、すぐに一人の男に見つかってしまった。
しかし、相手は幸いにも一人。こちらには六人もいる上に、上級魔法使いのカリーナもいる。戦力は十分だ。この状況なら勝てる。
皆がそれぞれ杖や魔具を構え始めた。
「…ガキがこんなところで何してやがる?」
男が低い声で問いかけてくる。
「私たちの仲間を取り返しに来たのよ!」
カリーナが強気で応える。こういう場面では、彼女の威圧的な性格が頼もしい。
男はフッと鼻で笑い、よろよろと剣を構えた。
(なんだ?酔っているのか?)
「ガキどもが…死にてぇらしいなぁ。」
その言葉を皮切りに、空気が張り詰めた。そして―――シュンッという音とともに男が真上に跳躍した。
「馬鹿だぜ!」
ジャンガが待ち構えていたかのように叫び、空中の男に向かって杖を掲げる。
「電撃!」
雷撃がジャンガの杖から放たれ、男に直撃。空中で身動きが取れないまま、地面に叩きつけられる。
「早っ!もう終わった!?」
俺はあまりに一瞬で終わった戦闘に驚いた。
「やるな、ジャンガ!つーか、お前いつの間に杖なんて手に入れたんだよ!」
「へへっ、兄ちゃんに試験で負けた日から、ちょっと勉強してたんだよ。まさかこんなところで役に立つとはな!」
ジャンガは誇らしげに杖を見せびらかし、胸を張る。俺たちは気絶した男を縄で縛り、剣を離れた場所に置いた後、ノアを解放しようと彼女に近寄る。
だが、
ドンッ!
俺は何かにぶつかり、倒れた。
「あれ…?」
「これは…。」
フェンリがそっと目の前の"見えない壁"に触れ、呟く。
「結界魔法ですね。しかもかなり高度な。」
「マジかよ!」
ライガが叫ぶ。ここまで来て結界とは…。
「みんな…怖いよ…。」
ノアが震えながら訴えかける。
「ノア、すぐに助けます!もう少しの辛抱です!」
俺はノアを励まし、カリーナに尋ねた。
「カリーナさん、なんとか結界を解除できませんか?」
「…私の魔力操作で解けるか分からないけど…うん、やってみるわ。」
「ありがとうございます。」
カリーナと補助役として名乗り出たフィーニャが結界の解除に取り掛かる間、俺たちは周囲の警戒を続けた。この館に酔っ払い一人しかいないとは到底思えない。
しばらくして、フェンリが俺だけに聞こえる声で囁いた。
「先程倒した男、なんだか怪しくありませんか?」
「怪しい?」
「どうも気絶にしては長すぎる気がします。あれから三十分経っていますが、ピクリとも動きません。」
「まさか…死んでるのか?」
「いえ、死臭はしないのでその線は薄いと思います。」
不安げなフェンリの様子に、俺も納得した。
「分かった。一度確認してみよう。」
「ありがとうございます。」
俺たちは男の脈と呼吸を確認した。
「…やはり気絶しているようです。」
「そうですか…。」
だが、男の周囲に漂う不気味な気配は拭えない。
どこか息苦しく、呼吸が乱れる感覚…。
そして視界の端で気づいた。
「剣が…剣がない!?」
「っ!フェンリ!ライガ!」
俺が振り向くと、ライガの肩には剣が突き刺さり、フェンリは腹から血を流して倒れていた。そして、目が合ったのは、確かに倒したはずの男だった。
「兄ちゃん!」
ジャンガが叫び、男に向かって突進する。
しかし男の剣先がジャンガを捉える。
「待て!ジャンガ!」
俺の叫びも虚しく、ジャンガは脇腹に一閃を浴びて地面に倒れ込んだ。
「抵抗はするなよ、めんどくさいから。」
男が剣を構え直し、ニヤリと笑う。
俺は魔具を構え、冷静に状況を整理する。
この場を切り抜け、皆を助ける方法を考えなくてはならない。
「すみませんが…急いで片付けさせてもらいます。」
「ガキが…カッコいいこと言うじゃねえか。」
次の瞬間、俺は魔力を高め、男に向かって放った。
しかし俺が放った魔法は軽々と避けられ、男は勢いよく距離を詰め始める。
しかし、それをカリーナが許すはずもなく、男の足元に次々と魔法を放ち、後退を余儀なくした。
「おやおや…中々やる奴がいるもんだなぁ!」
男は標的をカリーナに変え、鋭い目つきで走り出す。その動きは俊敏で、俺が魔法を放っても狙いが定まらず、攻撃を外してしまう。
(くそっ、狙いが定まらない!この粗悪品の魔具じゃ限界だ…杖さえあれば!)
焦りが募る中、ふと俺は思い出した。ジャンガが先ほど戦闘中に使っていた杖だ。俺は急いで地面にうずくまるジャンガの懐に手を伸ばし、そこから杖を取り出す。
「少し借ります、ジャンガ。」
「な…にを?カイ…ル…。」
(流石は獣族だ。この深い傷を負っても意識を保っていられるとは。)
俺はジャンガの頑丈さに感嘆しつつ、杖をしっかりと握りしめた。
その間にも、カリーナと男の激しい攻防は続いている。
カリーナの魔法は正確で、攻撃が男を追い詰めるたびに、彼の動きにわずかな乱れが生じていた。しかし男はただの酔っ払いではない。攻撃を紙一重で避け、カリーナに迫る動きは洗練されている。
「カリーナさん!今援護を!」
俺は魔具を取り外し、杖に魔力を集中させた。初めて使う杖だが、手に馴染む感触が頼もしい。
「火球!」
杖から生み出された火球が男の方へと飛んでいく。男は少し焦った表情を見せ、空中に跳び上がることで火球を避ける。しかし、その瞬間、服の端が火に触れ、焦げた煙が上がった。
「おっと…!小僧、やるじゃねえか!」
男は苦笑いを浮かべながら焦げた服を払うが、カリーナは容赦しない。彼の隙を突くように、さらに強力な魔法を放つ。
「風刃!」
鋭い風の刃が男を狙う。男はすかさず剣を振り上げ、魔法を防ぐ。しかし、衝撃で体勢を崩し、足元がふらつく。
「今です!」
俺は再び杖に魔力を集中させ、火球を生成した。同時にカリーナがさらなる魔法を準備する。俺たちの連携が徐々に男を追い詰めていく。
だが、そのとき、男の口元が不気味に歪んだ。
「面白い…だが、そろそろ終わりにしようか。」
男の剣が怪しく光り始めた。それに気づいたカリーナが警告を発する。
「気をつけて!あの剣…ただの武器じゃないわ!」
「はい!」
俺は即座に魔法を生成し、さらに集中力を高めた。
男の剣が放つ異様な気配が全身を震わせるが、ここで引くわけにはいかない。
戦場の緊張がピークに達する中、俺とカリーナは男の攻撃を迎える準備を整えた。




