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5話 魔法発動!?

 昨日は散々だった。

 門限を大きく超えて帰宅すると、母親が鬼の形相で玄関に立っていたのだ。絶望した。死を覚悟した。


 その後の出来事は記憶から消し去りたいが、あの容赦のないお尻ペンペンの痛みだけは、今もはっきりと残っている。


 (……もう二度と門限は破らないでおこう。)


「それでは母上、遊びに行ってきます。」


「いってらっしゃい。門限は絶対守るのよ……。」


「は、はい……。」


 怖い。


 今日も俺はエルドリックの下へ向かう。昨日の出来事について、もっと詳しく話を聞いておきたかったからだ。


「エルドリックさん?俺です、カイルです……。」


 応答はない。どうやら留守のようだ。例によって兎狩りにでも行っているのだろうか?

 だが、昨日のエルドリックはどこか様子が変だった。普段の気だるげな雰囲気とは異なり、妙に執着したような……そう、狂気を孕んだ空気をまとっていた。


 気になるが、帰ってくるまで待たせてもらおう。


「おじゃまします。」


 玄関のドアを開け、中へ入る。やはり家の中には誰もいないようだ。しかし……改めて見ると、本当に本ばかりの部屋だ。


 エルドリックの家には三つの部屋がある。今俺がいるのは、魔導書や資料、よくわからない薬草などが散乱している十帖ほどの空間だ。ここで俺はエルドリックから魔法の知識を学んでいた。


 玄関から見て右側には寝室がある。以前ちらっと覗いたことがあるが、そこも本と書類の山で足の踏み場もない、いわゆる汚部屋だった。


 そして、もう一つ。寝室の奥に位置する、南京錠がいくつも掛けられた部屋。

 エルドリックは決してその部屋に入らせてくれなかった。


「魔物の死体を研究するための部屋だ」と彼は言っていた。そこには瘴気を放つ危険な遺骸があり、子供の体には毒だという。


 まあ、俺が気にすることじゃない。


「気長に待つかあ。」


 俺は近くのソファに腰を下ろし、周囲をぼんやりと見渡す。すると、ふと足元に見慣れない本が転がっているのが目に入った。


「ん?こんな本あったか?」


 それは、暗い赤色をした魔導書だった。手に取ってみると、他の本よりも新しい感じがする。


「エルドリック、また新しい本を買ったのか?」


 何気なく表紙をめくる。


『このページでは火の黒魔法を教える。この魔法を扱うにあたって水の黒魔法を習得しておくことを推奨する。ここで教える魔法は五つ。


  黒火(ブラック・ファイア)――黒い炎を灯す魔法。

  黒火花(ダーク・スパーク)――黒い火花を飛ばす魔法。

  黒火爆(シャドウ・バースト)――黒い火を纏った爆発を起こす魔法。

  黒火盾(スモーク・シールド)――黒煙を固めた盾を生成する魔法。

  黒火球(ナイト・フレア)――黒い火の球を放つ魔法。


 なお、これらの魔法を習得するには、推定???以上の魔力量が必要である。』


「へぇ……黒魔法か。ちょっと怖いけど、前世の教科書みたいなもんだな。」


 魔導書というのは、要するに魔法の専門書だろう。予習しておけば、エルドリックに教えてもらうときも理解しやすいはずだ。


「よし、読破しよう!」


 そうと決まれば、徹底的に読むのみだ。


 ――そして一時間後。


 魔導書を夢中で読んでいると、玄関のドアが開く音がした。エルドリックが帰ってきたのだ。


「おぉ、来ていたか。」


「おはようございますエルドリックさん。この赤い魔導書、勝手に読んでましたが……いいですよね?」


 その瞬間だった。


 俺の右手にあった魔導書が、突如として燃え上がり、塵と化した。


「え……?」


 驚く間もなく、エルドリックが鬼の形相で近づいてくる。

 肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。


「読んだのか!!?『死の魔導書』を!!」


『死の魔導書』……? なんだそれ、聞いたことがない。


「え?え?あの、エルドリックさん?」


「答えなさい!読んだのか!?」


「よ、読みました……全部……。」


 俺が答えると、エルドリックはズドンと床に膝をつき、顔を覆った。


「この魔導書は……普通とは違うんだ……。」


 彼の声は震えていた。


「この魔導書は、読むだけで魔法を習得できる。しかし、その代償として読んだ者の『魂の寿命』を削るのだ……。」


「……マジか」


 俺は血の気が引いていくのを感じた。


「まさか……そんな呪いみたいな本が、なぜあんな無造作に置かれてたんですか!?」


 いや、エルドリックは悪くない。悪いのは俺だ、俺が勝手に読んだから……。とにかく、影響を確認しなきゃ……。


「エ、エルドリックさん、その『魂の寿命』って、どのくらい影響が?」


「……1ページ読むだけで、五年分の寿命が削られる。」


「……え?」


「そして、それを約二百ページ読んだ……つまり、お前の魂は千年以上の寿命を失ったはずだ。」


「――千年!?」


 俺の声が、情けなく裏返った。


(俺、死ぬのか……?)


 俺は震える手を抑えて質問を続ける。


「千年って…なんでそんなに!?普通の寿命とは違うんですか?」


 エルドリックは冷静に説明してくれた。


「魂は一つの生物の保有物ではない。生物が死ぬと、それに宿っていた魂は新たな宿主を探し、世界を放浪する。そして、まだ誕生していない生物に出会うと『あるもの』を消費し、それに宿る。」


 その言葉に俺はハッとする。


「『あるもの』……それが、『魂の寿命』ですね……?」


「ああ……そしてまた宿主が死ぬと、新たな宿主を探し、それに宿る。魂はこれを『寿命』が尽きるまで繰り返す。だが、先の魔導書はその寿命を強制的に奪い取るのだ。」


 俺は極めて冷静に言葉を紡ぐ。


「なるほど……。それで、魂の寿命は大体どれくらいあるのですか?」


「そこまでは分からない。ただ、寿命は存在する。無限ではないということは、ある事実から証明されている。」


「分かりました……。最後に、『魂の寿命』が尽きると、どうなるんですか?」


「……消滅する、と言われている。」


「……そうですか……。」


 魂にそんな要素があったなんて……。

 寿命がどれほどあるのか分からないが、それでも千年という年月はデカい。デカすぎる。もし、俺を構成する魂がすでに老齢の魂だったとしたら……?想像なんてできない。知らないことが多すぎるんだ、この世界には。


「そうか!!」


 突然、エルドリックが大声を上げて立ち上がった。


「ど、どうしました?」


 俺が驚愕していると、エルドリックが立ち上がり、大きく見開いた目で俺を捉えた。


「ブラックウッド、君は魂を複数持っているはずだ。」


「へ?」


 どういうことだ?エルドリックの言っている意味が分からない。魂を複数持っている?


「魂を複数持ってるって?」


 俺が質問すると、エルドリックが興奮を抑えられない様子で説明をはじめる。


「私が持つ唯一魔法に、生物の魂を捉える魔法がある。それによると、君の身体には三体の魂が宿っているのだ。私はこれに気づいたとき驚愕した……まさか、また魂を複数所持する者に出会えるとは……と。」


「えっ!?魂って、複数持てるものなんですか?」


「いや……普通は一つの生命体が持てるのは、一つの魂までのはずだ。しかし、現に私は魂を二つ以上持つ者に二度出会っている。私の昔の友人と、君だ。」


「つまり……俺は三つ分の『魂の寿命』を背負っているってことか。」


 独り言のように呟くと、エルドリックが反応した。


「そういうことになる。だが、それでも『死の魔導書』の影響がさほど脅威ではないとは言えない。魂三つ分の寿命があるからといって、これからも魔導書を読み漁るなんてことは、やめておいた方がいい。」


 エルドリックの言葉は真剣そのものだった。


「はい、すみませんでした……もう読みません。」


 つまり、俺の寿命……と言っても魂のだが、今のところはあまり気にしなくても良いってことか。


 俺はこれまでの出来事をまとめる。


 ここ数日で色んな事が起きた。

 最近まで魔力の存在すら知らなかったのに、気づけば魔物と戦って死にかけて、エルドリックに助けられて、さらに魔法を教えてもらい、ヤバイ魔導書を知らずに読んでいて、そして魂を三つも持っているときた。


 まぁ、これまでのことはさておき……黒魔法、試してみたいんだよなぁ……。


 エルドリックに聞いてみるか?習得するだけで命の危険を冒すんだ。流石に使うのはノーリスクのはず…。いや、でも今のこの雰囲気で使いたいとは…うーん、でも使ってみたい。


 よし。


「あの、それでエルドリックさん?せっかく『死の魔導書』を読んじゃったんだし……黒魔法、使ってみたいななんて。」


 俺の言葉に、ため息をついたエルドリックがと立ち上がり、玄関前に立てかけてある一メートルほどの白い布をかぶった棒へ手を伸ばした。


「これを。」


「え?お……っと」


 エルドリックは、持っていた棒を俺に投げて寄越した。

 布を取ってみると、それは杖だった。ハテナマークを上にグーっと伸ばしたような杖で、先端には黒い鉱石がどういう原理か浮いている。


 みるからにこれは杖だ。しかし――


「これは……杖ですよね?なぜ俺のはこんなに大きいのでしょう?エルドリックさんのはポケットに入るくらい小さいのに。」


 エルドリックは少し微笑みながら言葉を返す。


「君ほどの魔力総量で魔法を使用すると、この私の銀貨1枚の杖は魔力が膨大すぎて持たないだろう。」



 ※ちなみにこの世界のお金の価値は下から銅貨、銀貨、金貨、白銀貨の4つに別けられる。銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分、金貨1000枚で白銀貨1枚分の相場だ。



「だから俺のはこんな大きいんですね。これって、もしかして譲っていただけるのでしょうか?」


「あぁ、だが12歳になるまでは持って帰ることは禁止だ。理由は分かるな?」


 魔法使ってるのがバレたら聖堂行き…ちゃんと覚えている。


「はい!」


 それから俺たちは誰も来ない森の奥へと足を運んだ。


「ここでいいだろう。」


 森を小一時間歩いたところにある薄暗く周りは木々に囲まれ直径10mもないような円の中で止まった。


「よし、杖を出してもいいぞ。」


 俺は、杖を包む布をそそくさと解き、杖の姿を露にして両手に持つ。


「それで…魔法はどうやって使うのでしょう?」


「すでにあの魔導書に書いてあったの魔法の習得は済んでいる。あとは想像の世界だ。そうだな…まずは黒火(ブラック・ファイア)を放ってみるといい。一番初心者向けの魔法だ。黒魔法の中では…な。」


「それで想像って、どんな風に?」


「黒い火は普通の火と違い、風が吹いても水をかけても燃え移ったものが塵と化すまで燃え続ける火だ。まずは…消えない火を想像してみるといい。」


「消えない火…わかりました。」


 エルドリックはたまに感覚的なことを言い出す。説明があまり上手い方ではないのだろう。


 だが――。


 消えない火を想像。そんなの簡単だ、前世の戦場で嫌と言うほど見た。

 人や建物、大地が燃え、その火は争いが終わるまで消えなかった。あの光景を思い出せば、造作もない。


「想像ができたら杖の先端、鉱石に魔力を通すイメージをするのだ。そして使用する魔法の名前を唱えろ。」


 俺は杖に魔力を通わせる、徐々に徐々に先端へと魔力を通わせ、そして鉱石に到達した。


 すると鉱石が黒と赤が混じったような光を灯した。準備完了だ。


「さぁ、放つんだ。」


 エルドリックの言葉で、俺は一気に魔力を解放させる。


「行きます!黒火(ブラック・ファイア)!!」


 次の瞬間、杖から赤黒い光の球が飛び出し俺たちの周囲を不気味に照らした。

 その光量はとどまるところをしらず森の更に奥を照らし、青空すら赤黒く染め上げてしまった。


 そして、その空の色はまるで俺の初めての魔法を祝福するかのような神々しい色だった。これが俺が正真正銘、初めて出会った魔法だった。


「つ、使えた!魔法を使えたぞ!やりました!エルドリックさん!」


 俺の無邪気な声とは裏腹に、エルドリックの声色は驚愕を表している。


「あぁ上出来だ。しかし…初魔法が黒魔法とは、本当にどんな子供だ君は。」


「へへ」


 とりあえず、上手くいってよかった。本当に良かった。ここに来るまでにいろいろなことがあったが、ようやく辿り着いた気がする…『俺の夢』の第一歩に。


 感傷に浸っていると突然、グニャリと視界が歪み地面に倒れた。


(なんだこれ?…あれ地面?空?あれ?力が入らない…あ、この症状って…魔力ぎ――。)


 そのまま俺の意識は遠のいた。

 俺は魔力切れで気絶してしまった――。

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