43話 迷宮のヌシ
迷宮内を歩き続けて10分ほどが経過した頃、ふとフェンリが思い出したように口を開いた。
「そういえば、僕たちはこの迷宮内で何をすればいいんでしょうか?」
その言葉に全員が足を止めた。ライガが肩をすくめながら答える。
「ただ闇雲に迷宮を探索するのが授業内容じゃあねえよな。」
ノアが何かに気づいたように声を上げる。
「これって……。」
俺はその続きを予測して小さくため息をついた。
「フリークス先生、絶対に伝え忘れてますよね……。」
担任の説明不足を疑わない俺たちの表情が同じように曇る。そもそも、この授業で何をすればいいのか、俺たちは教えられていなかった。
「なら一度戻るのか?」
俺の後ろを歩いていたガムシルが立ち止まり、面倒そうに言った。
(今から戻るとなると、入口まで結構な時間が掛かってしまうが、仕方ないか……。)
俺はカリーナに相談しようと振り返ったが、その前にカリーナが淡々とした声でガムシルの問いに答えた。
「あぁ、授業内容は私が知ってるから戻らなくていいわよ。」
全員がその一言に驚きの表情を見せた。
「知ってるなら早く言ってくださいよ!」
思わず声を上げてしまったが、俺は続きを聞く。
「それで、その内容はなんですか?」
カリーナは自信たっぷりに胸を張りながら答える。
「迷宮の“ヌシ”の討伐よ。」
「え?」
俺が驚くと同時にライガがガクッと肩を落とし、体を曲げる。
「マジかよ。」
ノアとフェンリも一瞬驚きを見せたが、意外にもガムシルだけが楽しそうに声を上げた。
「あのカリーナ先輩の班なんだ、そう来なくっちゃな!こなくっちゃね!」
「呑気すぎない?」
ノアが呆れたように呟くが、カリーナは気にする様子もなくニヤリと笑った。
「初心者向けの迷宮だからって油断しないで。ヌシだって迷宮を仕切ってる存在よ。それなりに手強いのは間違いないわ。」
「具体的にはどんな魔物なんですか?」
ノアが真剣な顔で尋ねると、カリーナは少し考え込む。
「確か、豚頭型の魔物で、動きが鈍いけど防御力が高いって聞いたわ。ただし、弱点があるはずよ。それを見つけるのがこの授業のポイントってところね。」
「つまり、戦略を練る必要があるわけですね。」
フェンリが冷静に分析しながら頷く。カリーナは満足そうに手を叩いて言った。
「そういうこと!ただ突っ込むだけじゃなくて、みんなで考えて対処する。実践で学ぶには最適な機会だと思うわ。」
「まぁ、やるしかないですね……。」
俺が覚悟を決めるように呟いた瞬間、遠くから微かな咆哮が聞こえた。全員が身構える。
「今の音……ヌシか?」
ライガが武器を構えながら問いかけると、カリーナが微笑んだ。
「ええ、そうみたいね。他の班が先に戦ってるみたいね。いいわ、その方向に進みましょう。準備はいい?」
カリーナの言葉に全員が頷き、それぞれの武器や道具を確認する。
「カイル、僕たちもやれることをやりましょう。」
フェンリが静かな決意を込めて俺に言った。
「はい、もちろんです。」
ノアが勢いよく拳を握りしめた。
「どんな敵だって、みんなで力を合わせれば怖くないよね!」
こうして、俺たちは迷宮の奥深くへと足を進めることにした。
さらに数十分歩き続けると、小さな広場に出た。そこには制服や装備がボロボロになり、疲弊しきった数人の生徒たちが座り込んでいた。
「何があったの!?」
その生徒たちの一人にカリーナが一目散に駆け寄る。それはエイミーだった。エイミーは左肩を押さえながらも、座り込む仲間たちに治癒魔法を施していた。
「エイミー!」
カリーナの声に気づいたエイミーは、疲れた様子ながらも笑顔で答える。
「カリーナ!やっと来たわね!アンタたちが最後の班よ!まったく、何してたのよ!」
エイミーの元気な言葉に安堵しつつも、カリーナは彼女の肩の傷に目を向けた。
「その肩、どうしたの?」
「あ―これね、この先のヌシに一撃もらっちゃってね。でも見た目より酷くないから、治癒は後回しにしてたの。」
それを聞いてカリーナは深くため息をついた。
「心配したんだから、もう……。今治癒してあげるわ。」
「ありがと。」
カリーナの治癒魔法でエイミーの肩はみるみるうちに回復していった。治癒が終わると、カリーナは真剣な表情で現況を尋ねた。
「つまり、この先にいるヌシに、他の班が全員で攻撃を仕掛けたけど、あっけなく負けたってことね。」
「そんなにストレートに言わなくても!まあ、事実だけど!」
「それで、他の班は?」
「私たちの班が最初に攻撃されて撤退したから、残りはまだ戦ってると思う。」
「わかった。」
カリーナは一度頷くと、俺たちの方を振り向き、鋭い目で言った。
「このすぐ先にヌシがいるみたいだけど、行く?」
エイミーの班のやられ具合を見る限り、俺たちが役に立つとは到底思えない。それでも――。
「俺は行きたいです。」
俺がそう答えると、フェンリやノアもそれに続いた。ライガも迷わず頷き、ガムシルは不敵な笑みを浮かべて拳を鳴らした。
「分かったわ。それじゃあ、ここに無駄な荷物を置いて準備して。5分後に出発するわよ。」
俺たちは荷物を最小限にまとめ、武器の点検や魔具の確認を急いで行った。広場に漂う緊張感は、次第に全員を無言にさせる。
エイミーが少し心配そうな声をかけた。
「カリーナ、気をつけてね。ここのヌシ、ただの強さだけじゃないのよ。」
「ただの強さだけじゃない?」
「うん。なんていうか、動きが早くて予測不能で……。うちの班もそれで崩れたの。」
エイミーの言葉に、俺たちはさらに気を引き締めた。カリーナも一瞬だけ考え込むような表情を見せたが、すぐに力強い声で指示を出した。
「よし、作戦を立てるわ。このヌシを倒して、私たちの力を証明する。みんな、しっかりついてきて!」
彼女の言葉に全員が頷き、覚悟を決める。
「さあ、行くわよ!」
カリーナを先頭に、俺たちは広場を後にし、ヌシが待つ迷宮の奥へと歩を進めた。




