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42話 初学者の迷宮

 2年生になってから1か月が経った頃、新たな授業が始まった。


「――迷宮探索!?面白そう!!」


 ノアが机から身を乗り出し、興奮気味に声を上げる。


「あぁ、今日からの実践授業では迷宮探索を行う。」


 担任が冷静な口調で続ける。その言葉にクラス中がざわつき始めた。


「迷宮って、危険なんじゃないのか?」

「魔獣が出てくるって聞いたぞ!」


 生徒の一人が不安げに呟くと、周りの生徒たちも同調して騒ぎ始めた。


「危険だからこそ燃えるじゃない!大冒険が始まるのね!」


 ノアはそんな空気を意に介さず、キラキラした目で前を向いたままこう言った。


「そういう問題ではないと思いますが……。」


 フェンリが肩をすくめて小さくため息をつく。

 ここで担任のフリークスがだるそうな口調で説明を始めた。


「はいはい、お前ら静かにしろー。今から迷宮探索について説明するからな。迷宮ってのは、魔力の渦にってできた自然物だ。魔力が強い場所では、空間そのものが歪んで迷路のような構造が生まれるんだよ。」


 クラスが静まり返る。フリークスは面倒くさそうに続けた。


「中には貴重な魔鉱石や古代の遺物や魔具が眠っていることもあるが、危険な魔獣がうようよしてる危険地帯だ。冒険者としての訓練の一環として、今回お前らには実際に迷宮に入ってもらう。」


「魔獣がいるってことは……戦闘になるんですか?」


 生徒の一人が不安げに尋ねると、フリークスは鼻で笑った。


「ハッ、当然だろ。だが安心しろ、初めての迷宮探索には比較的安全な『初学者(ノーヴィス)の迷宮』を選んでいる。ここなら命を落とす心配は……多分ない。その代わり、得られる物も少ない。」


「たぶんってなんだよ!」


 ライガが声を上げるが、フリークスは取り合わず続ける。


「迷宮内は充満している魔力量によって地形が変化することもあるから、油断は禁物だ。お前らの力がどこまで通用するか、見極めさせてもらうぞ。」


 説明を終えたフリークスがようやく立ち去ると、教室内はざわめきが止まらなかった。


「迷宮か……。なんだか少しだけワクワクしてきたな。」


「いや、俺は不安しかないけど。」


 ライガとジャンガが肩をすくめるのを見て、ノアは相変わらず楽しそうに笑っている。


「どんなのが出てくるのかな!早く行きたい!」


 そのとき、隣でフェンリが俺に話しかけた。


「カイル、これは試される機会ですね。僕たちの実力を見せましょう。」


「そうですね。けどまずは、無事に帰ってくることを目標にしましょう。」


 こうして俺たちは、初めての迷宮探索授業に挑むことになったのだった。


 1時間後、俺たち生徒は街の東門を真っ直ぐ進んだ先にある『初学者の迷宮』の前にある小さな村に集められた。その村の店には装備や武器、様々な種類のポーションなどが売られていた。


(ここで装備を整えろってことか?)


「おぉ~お前ら、集合が早いな。」


 俺が店の前で考えていると、担任がノソノソと遅い足取りで遅れてやってきた。そして、その後ろには見慣れない生徒と見慣れた金髪の女性がいた。


「カリーナ先輩!!」


 最初に反応したのはノアだった。


「ノア!」


 ノアに気づいたカリーナはノアの下へ走り出しギュッと抱きしめた。


「ん~!やっぱりこのモフモフがたまんないわね~!」


「く、くすぐったいですよ!カリーナ先輩~!」


 ここ1か月間でノアとカリーナはびっくりするほどすごく仲が深まっていた。エイミーが嫉妬するくらいに。


(それにしてもなんでここにカリーナが?それにあの見慣れない生徒たちは?背格好からして全員が6年生だと思うけど。)


 俺が考えを巡らせていると担任がボソボソと話始めた。


「えー、2年だけ迷宮に潜らせるのは、許可が下りなかったんで、希望してくれた6年に同行してもらうことになった。これから班別けをするから、呼ばれたら集まってくれ。じゃあガイから……それと……。」


 黙々と名前を読んでいく担任を横目に俺はカリーナに話しかける。


「カリーナさん、なんでここに?」


 ノアを撫でながらカリーナが答える。


「そういえば迷宮に潜ったことなかったなって思ってね、一応学園にはもっと成長するために戻ってきたんだから!なんでも経験しなくちゃ!」


「なるほど……。確かにカリーナさんらしい理由ですね。」


 俺が感心していると、カリーナは自信満々に胸を張って答えた。


「そうでしょ?だから、初心者向けとはいえ、迷宮での経験を積むにはちょうどいいと思ったのよ。」


「でも、先輩クラスの方々に同行してもらうなんて、やっぱり不安はありますね。」


 フェンリが冷静に口を挟むと、カリーナはちらりと6年生たちを見た。


「まぁ、あいつらも迷宮の経験が少ないらしいから、変な気を使わなくてもいいわよ。私がいるんだから安心しなさい!」


 頼もしい言葉に、周囲の生徒たちは少しずつ落ち着きを取り戻していく。


 班分けが終わり、担任が再び話し始めた。


「班ごとに迷宮内で探索するエリアを指定している。地図は渡しておくが、迷宮では予期せぬことが起きるのが常だ。お前ら、絶対に気を抜くなよ。」


 そして、最後にこう付け加えた。


「あと、今回は6年生たちが指導役だ。あいつらの指示に従え。迷宮内で勝手な行動を取ったら、俺が直々に叱り飛ばしてやるからな。」


 担任の声が響く中、俺たちは各班に分かれ、装備や道具を確認した。

 俺たちの班は指導役の6年生にカリーナ、それに続く2年生の俺、フェンリ、ノア、ライガそしてガムシルで構成される5人班になった。


「カイル、準備は整いましたか?」


 フェンリが俺に問いかける。


「えぇ、問題ありません。みんなも整いました?」


「準備万端よ!どんな敵でも来いって感じ!」


 ノアが笑顔でポーションを腰に下げ、意気込んでいる。


「まぁ、初めての迷宮だからな。少し緊張はするが、やるしかねぇだろ。」


 ライガも自分の武器を確認しながら応えた。


「オレは最初から終わっていたさ、いたとも!」


 ガムシルもやる気満々のようだ。


 俺たちの班は、カリーナが指導役を務めることになっていた。他の班の6年生たちもそれぞれの指導役について行動を開始している。


「さて、それじゃ行きましょうか。初心者級の迷宮といっても、油断したら痛い目見るわよ。」


 カリーナが先頭に立ち、俺たちを引き連れる形で進み始めた。


 迷宮の入口は小高い丘の中腹にぽっかりと空いた洞窟のような構造になっていた。周囲にはわずかな魔力の流れを感じる。


「ここが『初学者の迷宮』か。思ったより静かだな。」


 ライガがそう呟いた瞬間、入口付近の地面がわずかに震えた。


「静かだからって、安心するのは早いわよ。中に入れば、全然雰囲気が違うらしいから。」


 カリーナがそう言うと、6年生の一人が前に出て、注意事項を追加で説明する。


「迷宮内部では、周囲の環境が急に変わることがあります。地面が崩れたり、壁が突然動いたりする場合もあるので、先をよく確認して行動してください。また、魔物が出現した際は、無理に戦わず、班で協力して対処してください。」


 その説明を聞いて、フェンリが冷静に確認する。


「カリーナ先輩、指示をお願いします。」


「わかったわ。みんな、迷宮内では私の指示に従って。危険な場所があったら知らせるように。それと、分散するのは絶対にダメよ。」


 カリーナの言葉に全員が頷いた。


「よし、それじゃ行きましょう。」


 カリーナが笑顔で手を振り、迷宮の入口に一歩足を踏み入れた。


 薄暗い空間の中、冷たい空気が肌を刺すように流れてきた。迷宮探索が、いよいよ始まる。

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