41話 新たな生活
俺は村で約2週間過ごした後、首都へと戻ることになった。だが今回は違う、カリーナも一緒だ。
「カイル、首都での生活を案内してよね。何年も経ってたら街の勝手も変わってると思うし……あと、生活必需品を揃えるの手伝いなさいよ?」
「ええ、もちろんですとも……。」
そんなカリーナの命令口調に抗う間もなく、残りの長期休暇の数日間は彼女の引越しの手伝いや買い物に付き合わされることになった。結果、俺に休暇なんて存在しなかったようなものだ。
―――。
そしてとうとう、長期休みが明ける日がやってきた。新たな学園生活が始まる。
この学園では、毎年の成績によってクラス分けが再度行われる。今年も俺のクラスはA組だった。去年と変わらず、フェンリやノアたちも同じクラスだ。
しかし教室には二人の新しい顔があった。去年、実技試験で戦ったガイとガムシルだ。
「やっぱり、あいつら上がってきたんだな。」
ライガが呟くと、フェンリが頷いた。
「えぇ、二人とも実技試験でその潜在能力が認められたらしいです。特にガイ君は注目されているみたいですね。」
ガイは俺を見るなり、険しい表情で睨みつけてきた。戦った時のことを未だ根に持っているのだろう。隣にいるガムシルがそれを宥めている様子が微笑ましい。
(そんなに俺に負けたのが悔しかったのか……。)
しばらくフェンリやノアたちと話していると、教室内がざわめいた。
「天才魔法使いのカリーナ先輩が復学したって本当か?」
「まさか、あの16歳にして四大元素全てを上級まで極めたって噂の……?」
クラスメイトたちがカリーナの噂話に花を咲かせている。俺はなんだかそれが誇らしく思えた。
そのとき、教室に現れたのは新しい担任だった。
ドアを開けて入ってきたのは、だらしなく着崩したローブをまとった中年の男だ。
「あー、今日からこのクラスを担当するフリークスだ。まあ、気楽にやってくれ。」
手には煙草のようなものを持ちながら、やる気のない声で続ける。
「君たちも二年生になったんだから、単位を落とさないように……それじゃ、帰っていいぞ。」
そう言うや否や、彼はそそくさと教室を後にした。
「なんだか、すごい人ですね……新しい担任は。」
フェンリが苦笑いしながら呟く。
「まあ、あんな感じのが良いんじゃねぇか?前の担任はちょっと厳しすぎたしな。」
ライガが肩をすくめて笑うと、ノアも同意した。
「確かに、ライガ、授業の度に怒られてたもんね。」
俺たちは笑いながら会話を続け、下校するため廊下を歩いていた。そのとき、後ろから声が聞こえてきた。
「カイルー!」
振り向くと、カリーナが走ってこちらへ向かってくる。その後ろにはエイミーもいた。
「カイル、ちょっと!今日は私の買い物に付き合ってくれる約束だったでしょ!何先に帰ってんのよ!」
ほんの少し怒った表情のカリーナが俺に詰め寄り、壁ドンをする。
「す、すいません……忘れてました。」
「そんなことだろうと思ったわ!で、この人たちは誰?」
壁から手を離したカリーナがノアたちに視線を向ける。カリーナの圧に負けたのか、視線を向けられた皆は硬直して動けなくなっていた。
その場を見たエイミーが会話に入る。
「この前教えたでしょ?カイルの友達だって!」
「あぁ、そうだったわね。」
カリーナが気の抜けた声で返すと、ようやくノアが動き出した。
「あ!あの!カリーナ先輩ですよね!」
「えぇ、そうだけど?」
「お会いできて光栄です!私!カリーナ先輩の噂を聞いてから、ずっとお会いしたかったんです!」
ノアの目がキラキラと輝き、まっすぐカリーナを見つめている。それを受けてカリーナは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「そう?そんなに私、噂になってたの?」
「はい!この国で最年少で四大元素の上級魔法を極めた天才、さらにあの英雄アグラヴァーンの生まれ変わりだって、噂で有名ですよ!」
ノアがますます興奮した様子でカリーナを褒め称える。
「えっと……まぁ、それくらいはね……。」
いつも強気で堂々としているカリーナが、珍しく少し困惑したように頬を赤らめる。そんな彼女の様子を見た俺は心の中で笑いそうになるが、表情には出さないように努めた。
「それにしても、噂話ばっかりだわね。実際に私を見てガッカリしなきゃいいけど。」
カリーナは軽く肩をすくめてそう言ったが、ノアは慌てて首を横に振る。
「そんなことないです!むしろ、こうしてお話できるだけでも感激です!」
カリーナはノアの言葉に一瞬戸惑いながらも、最終的に小さく微笑んだ。
「ありがとう。でも、期待しすぎると後で失望するわよ?」
「そんなこと絶対ありません!」
ノアの真剣な声が廊下に響き、場の空気が少し和らいだ。
場の空気が和んだことで、フェンリやライガたちも徐々に緊張感を解き、カリーナに次々と質問を投げかけ始めた。
「カリーナ先輩、四大元素を習得するのにどれくらい時間かかったんですか?」
「実技試験ではどんな魔法を使うんだ?……ですか?」
彼らの熱心な様子に、最初は受け流していたカリーナも、次第に自然と答えるようになっていく。そのやり取りを見た他の生徒たちも興味を持ち、いつの間にかカリーナを中心に輪が広がっていった。
俺は少し離れたところからその様子を見ていたが、ふとエイミーが隣に来て話しかけてきた。
「やっぱりカリーナってすごいわよね。こんなに人が集まってきて……。いつか私は忘れられちゃうのかしら。」
少し寂しそうな表情を浮かべるエイミー。その言葉に俺は何かを言おうと口を開いたが、それよりも早く、カリーナの声が後ろから響いた。
「何言ってんのよ、エイミー。私があんたを忘れるわけないじゃない。」
その言葉に驚いて振り向いたエイミーの目には、涙がにじんでいた。次の瞬間、彼女はカリーナに抱きついた。
「カリーナ~!!」
「ちょっ!抱きつくなってば!あーもう、やっぱり言わなきゃよかった!」
カリーナは必死にエイミーを引き剥がそうとするが、その表情はどこか優しく、暖かさに満ちていた。




