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40話 選択

 エイミーの目的だったカリーナへの謝罪を終え、場の空気がようやく落ち着いた。そして、次は俺の番だ。

 以前から気になっていた用事を済ませる時が来た――そう、エルドリックに会いに行く。


 エルドリックは、俺が首都へ向かうことになるまでずっと面倒を見てくれていたこの村の護衛だ。

 だが、この1年間、毎月送っていた手紙に一度も返信がなかった。気にしてカリーナに彼のことを聞いてみたが、彼女もこの1年エルドリックを見ていないと言う。

 最後に会ったのは、俺が学園へ送られた後、エルドリックがカリーナの元を訪ね、魔法訓練をしばらく休むことを伝えた時だそうだ。


 手紙が届かないことも相まって、俺の胸騒ぎは大きくなっていた。だから、エイミーとカリーナを連れ、直接エルドリックの家へ向かうことにした。


 しばらく馬車で揺られ、エルドリックの家に到着した時、まず目に飛び込んできたのは、その外観の大きな変化だった。

 1年前に見た時は、木造の素朴な一軒家だったはずだ。それが今では、見違えるような立派な石造りの家になっている。


「改装でもしたんじゃない?」


 とカリーナは気軽に言ったが、俺たちはすぐにそれが違うと気づくことになる。


 ちょうどその家から一人の男が出てきた。

 黒い装束に金の装飾――それは確かに、エルドリックが身に着けていたものと同じだった。だが、男の顔は決して老齢のものではない。彼は明らかに若く、まだ青年と見られる風貌だ。俺たちは困惑しながら、男をじっと見つめた。


 俺たちの存在に気づいたその青年は、笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「子どもが3人でこんなところに来て……どうかしたのか?」


 気軽に話しかけてきたその青年に、俺は少し拍子抜けした。その隙にカリーナが彼に尋ねる。


「エルドリック様はどこ?」


 その質問に青年は一瞬困ったような顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻して答えた。


「ああ、エルドリックさんに会いに来たのか?残念だけど、あの人は1年前から行方不明になってるんだ。」


「はぁ!? 行方不明!?なんで!?」


 驚きを隠せないカリーナが馬車から身を乗り出して問いただす。


「ああ……まあ、あの人は昔からフラッとどこかへ行ってしまうことが多かったから、多分そのうち見つかると思うよ。」


 青年の軽い返答に俺は冷静に質問を投げかけた。


「あなたもエルドリックさんの知り合いなんですか?」


 青年は頷き、にこやかに答える。


「そうだよ。俺はエルドリックさんと同じ魔法研究所で働いてるんだ。まあ、今はエルドリックさんの代わりにこの村の護衛をしてるけどね。」


 魔法研究所――それは以前、エルドリックが語っていた“伝説魔法”を研究する施設だと記憶している。だが、今はそれよりエルドリックの行方の方が重要だ。


「エルドリックさんの行き先について何か心当たりはありますか?」


「悪いけど、ないね。あの人は研究所でも変わり者でね……誰も彼のことはよく知らないんだ。」


「そうですか……。」


 手紙が返ってこない理由を探ろうと心配してここまで来たのに、この結果とは。肩透かしを食らった気分だ。


「分かりました。では、もしエルドリックさんがここに戻ってきたら、伝えてほしいことがあるのですが、よろしいですか?」


「もちろん。名前と伝言を教えてくれ。」


「カイル・ブラックウッドです。エルドリックさんに『このまま学園に残る』とお伝えください。」


 俺の名前を聞いた瞬間、青年の表情が一瞬険しくなったのを見逃さなかった。しかし、その顔はすぐに笑顔に戻る。


「伝言、確かに預かった。」


「ありがとうございます。」


 青年の態度が気になりながらも、俺たちはその場を後にすることにした。


 俺たち3人は村にある唯一の食事屋に入り、料理を注文した後、料理が来るまでの間、これからのことを話し始めた。


「えー、カリーナさんはようやくエイミーさんと仲直りできたわけですが、学園はどうしますか?戻るんですか?」


 俺が問いかけると、カリーナはあっさりした様子で答えた。


「まあ、別に戻ってもいいけど……戻ったところでどうせあと1年で卒業でしょ?それに今さら学園で学ぶことなんてある?」


 カリーナの意見はもっともだった。彼女は既に四大元素魔法すべてを上級まで習得している。俺たちが通う学園は6年制で、卒業条件は中級魔法を3つ以上習得することだ。カリーナはすでに中級魔法を全修しているのだが――しかし、これに異を唱える者が一人。


「なんでよぉ!せっかくなんだし戻ったらいいじゃない!」


 エイミーは不満そうに声を上げる。


「エイミーさん……あなたがそれを言いますか……。」


 俺は彼女の無神経な発言に呆れた。エイミーがカリーナをいじめたことがきっかけで、わざわざここまで来たというのに。


「なによ!もうカリーナは許してくれたんだから、アンタが口出ししないで!」


「はい……。」


 俺は身を縮こませ、何も言えなくなる。そんな俺たちを見て、カリーナが溜息をつきつつ間に入った。


「まあまあ…・・れで、なんでエイミーは私に戻ってきてほしいの?」


 カリーナは穏やかな口調でエイミーに尋ねた。その問いに、エイミーは急に顔を真っ赤にし、もじもじと手元を見つめ始める。


「そ、それはぁ……。」


「それは?」


「だってぇ……せっかく仲直りできたんだし、もう一度カリーナと学園生活を楽しみたいの。」


 エイミーは少し拗ねたように言いながら視線をそらした。その言葉に、カリーナは少し呆れたような、それでいてどこか優しげな表情を浮かべる。


「あぁ……そういうことね。」


 カリーナが納得したように頷くと、エイミーは恥ずかしそうに顔を隠し、話題を変えたそうに視線を泳がせた―――。


 タイミングよく、この何とも言えない空気を打ち破る救世主、料理が俺たちの下へ届いた。その料理の香りに俺たちは空腹をさらに加速させる。


「とりあえず、頂きましょう。話はそれから。」


 カリーナの言葉に、俺たちは頷き、食事に集中することにした。


 しばらくして、食事を終えた俺たちは再び馬車に乗り込み、カリーナの家を目指していた。馬車の中で、先程の話の続きをすることになった。


「さっきの話だけ……・私、学園に戻ってもいいわよ。」


 カリーナの突然の発言にエイミーが目を丸くする。


「え!?いいの!?やったー!」


 喜びのあまり、エイミーがカリーナの腕にしがみつく。


「ちょ、近い!それにまだ話は終わってない!」


 慌ててエイミーを引き離すカリーナ。俺はその様子を微笑ましく眺めていたが、気になることを口にした。


「それで、戻る理由はなんですか?カリーナさんらしくない気がしますが。」


「……まぁ、一つはエイミーの言う通りよ。折角仲直りしたんだし、もう一度一緒に学園生活を送りたいと思ったの。」


 エイミーが再び満面の笑みを浮かべる。しかし、カリーナの表情にはまだ続きがあることを感じさせた。


「それだけじゃないの。正直、もう学園で学ぶことはないって思ってたけど……まだ成長できるかもしれないって思ったのよ。」


「成長、ですか?」


「ええ。魔法の腕を磨くこともそうだけど、それ以外のこともね。あなたたちと過ごして気づいたの。私、まだ変われる部分がたくさんあるのかもしれないって。」


 その言葉に、エイミーだけでなく俺も驚いた。誇り高く、何事も完璧にこなすカリーナが、こんな風に自分を見つめ直すなんて。


「だから、学園に戻って、最後の一年を有意義に過ごすわ。エイミー、あんたも協力しなさいよ?」


「もちろん!」


 エイミーが元気よく答え、俺たちの間に少し温かな空気が流れた。

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