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38話 カリーナの提案

 翌日、俺たちは再びカリーナの家を訪れた。朝の澄んだ空気の中、昨日と同じ門番たちが立っているのが見える。


「あ、カイル君!また来たんだね。」


 昨日俺を知っていると言っていた右側の門番が親しげに声をかけてくる。


「はい。カリーナさんにもう一度会いに。」


 そう言うと、門番たちはすんなりと門を開けてくれた。俺たちは無言で庭を進み、噴水の脇を通り過ぎ、玄関前で立ち止まった。


(さて、昨日の失敗を取り戻さないとな……。)


 俺はエイミーに目配せをし、扉をノックした。その瞬間、家の中から慌ただしい足音が響いてきた。


 ドタドタと駆け寄る音が近づき、次の瞬間――


 バンッ!


 勢いよく扉が開かれ、そこに立っていたのはカリーナ本人だった。


「昨日ぶりね、カイル……エイミー。」


 その突然の登場に、俺は驚いて言葉を詰まらせたが、さらに驚いているのはエイミーだった。


 エイミーはまるで獲物を見つめる猫に睨まれたネズミのように固まっている。


「え……あ、カリーナ……。」


 昨日のように涙を浮かべることもなく、エイミーの顔は真っ青だ。彼女はただカリーナを見つめることしかできない。


(まずい、このままじゃまた何も言えず終わるぞ……!)


 俺は心の中で焦りながらも、なんとか空気を立て直そうと口を開いた。


「カリーナさん。エイミーさんは、ちゃんとあなたに話したいことがあって来たんです。少しだけ話を聞いてもらえませんか?」


 俺の言葉に、カリーナは少しだけ眉をひそめた後、エイミーの方をじっと見つめた。


「話したいこと……?」


 エイミーは深呼吸をするように一瞬肩を上下させると、小さな声で答えた。


「そう……謝りたいの。」


 その言葉を聞いたカリーナの目がわずかに見開かれる。


「……謝りたい?」


 エイミーは震える声で続けた。


「私……昔、あなたを傷つけた。それがどれだけひどいことだったのか、ずっと気づけなかった。でも、もう分かってる。だから……許してなんて言わない。謝らせてほしいの。」


 玄関先には緊張感が漂い、庭の方から聞こえる風の音だけが場を支配していた。カリーナはエイミーを見つめたまま、何も言わない。


 しばらくの沈黙の後、カリーナが小さくため息をつく。


「入って。」


 その一言に、俺もエイミーも驚き、顔を見合わせた。


「ちゃんと話したいことがあるなら、ここで立ち話なんて無粋なことはしない。エイミー、あなたの話聞いてあげるわ。」


 カリーナの声は冷静だったが、その中に少しの柔らかさが混じっていた。


「……ありがとう、カリーナ。」


 エイミーは涙を堪えながら小さく礼を言い、カリーナの後について玄関の中へと足を踏み入れた。俺は二人の後ろを歩きながら、少しだけ安心した気持ちになった。


(ようやく、ちゃんと話せるんだな。)


 カリーナに案内され、俺たちは彼女の部屋へと向かった。重厚な扉が静かに開かれると、部屋の中は白を基調とした上品な内装で整えられていた。机や棚には整然と本が並べられ、大きな窓からは庭の噴水が見下ろせる。


 カリーナが椅子に腰を下ろし、エイミーに向かい合うように座るよう促した。俺は少し離れたところで様子を見守る。


「それで、エイミー。あなたが私に謝りたいことって何?」


 カリーナの声は静かだが、その目にはわずかな警戒心が宿っている。


 エイミーは小さく息を吸い込み、話し始めた。


「カリーナ、まず初めに言わせて。4年前……あなたをいじめて、本当にごめんなさい。」


 言葉が震えている。けれど、エイミーの声は真剣だった。


「私は、あなたのことが……ずっと羨ましかったの。美しくて、成績が優秀で、魔法も凄くて……私とは全然違う遠い存在だって思ってた。」


 カリーナはエイミーをじっと見つめたまま、微動だにしない。


「そんなあなたが近くにいるのが、ただ怖かったの。私なんて何も持ってないのに、あなたは全部持ってる。そんなふうに思うたびに、どうしようもなく自分が惨めで……それで、あなたを傷つければ、自分が少しでも勝てる気がした。」


 エイミーはうつむき、拳を握り締めた。


「でも、間違ってた。あなたには何も非はないのに、全部私の問題だった。それを……今まで謝ることもできずに逃げてきた。」


 彼女の声は徐々に震えを帯び、目には涙が浮かんでいた。


「本当にごめんなさい、カリーナ。私のせいで、あなたをこんなに苦しませて……。」


 エイミーは深く頭を下げた。その姿はどこか小さく見えた。


 部屋には静寂が訪れた。カリーナは腕を組んだまま、何も言わずエイミーを見つめ続けている。


 その沈黙に耐えきれなくなったのか、俺は口を開こうとしたが――。


「……そう。」


 カリーナの静かな声が部屋に響いた。


「あなたがそう思ってたなんて、全然知らなかったわ。私、自分に何が悪かったのか分からなくて……だからずっと悩んでた。」


 彼女は少し目を伏せる。


「でも、あなたが理由を話してくれて、ようやく分かった。確かに、私には何も悪いことなんてなかったのね。」


 エイミーが顔を上げる。


「カリーナ……!」


「……だけど。」


 カリーナは言葉を続ける。その声には少しの怒りと悲しみが混じっていた。


「それを今になって謝られても、正直どう受け止めればいいのか分からないの。あなたにいじめられていた私は、あの頃に戻れるわけじゃないもの。」


 エイミーの顔が再び沈む。


「でも……あなたの謝罪が嘘じゃないことも分かるわ。だから、私と勝負しましょう。」


 その言葉に、エイミーは目を見開いた。俺も驚いた。


「勝負って……何をするの?」


 エイミーが恐る恐る問いかけると、カリーナは優雅に微笑んだ。


「簡単よ。魔法で決めましょう。あなたが私に勝てたら、過去のことは水に流してあげる。だけど、私が勝ったら・・・あなたは二度と私の前に現れないで。」


 唐突な提案にエイミーは一瞬戸惑ったようだったが、やがて顔を引き締め、力強く頷いた。


「分かったわ……!やる!それであなたが許してくれるなら、全力でやるわ!」


「いい返事ね。」


 カリーナは満足げに頷き、俺に向かって軽く手を振る。


「では、庭に移動しましょう。準備は整えてあるから。」


 俺は呆然としつつも、二人の真剣な様子に口を挟むことができなかった。この勝負……本当にやるのか。

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