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37話 後悔

 カリーナに謝る機会を逃してしまったエイミーと俺は、カリーナ家の客間で静かにお茶を啜っていた。豪華な家具に囲まれたこの部屋は、気まずさと居心地の悪さが混じり合った妙な空気に包まれている。


 そんな中、ルナさんがお茶の片付けを終えると、こちらに向き直り尋ねた。


「それで……エイミー様たちはお嬢様に、一体何を?」


 俺は一瞬言葉を迷ったが、隠す必要もないと思い、正直に答えた。


「実は、エイミーさんが昔カリーナさんにしたことを謝るために来ました。」


 ルナさんはその言葉を聞くと、静かに頷き、少し沈んだ表情で呟いた。


「……なるほど。やはりあなたが、お嬢様がおっしゃっていたエイミー様でしたか。」


「え?」


 エイミーが驚いたように声を上げる。俺も気になり、そっと問いかけた。


「カリーナさんが、エイミーさんのことを話していたんですか?」


 ルナさんはコクっと頷き、少し戸惑いながらも話を続けた。


「そうですね……実は4年前、お嬢様が学園を休学なさった後、一時期お部屋に引き籠ってしまった時期がありました。当時、お嬢様の身の回りの世話を任されていた私は、毎日お話を伺っていたのですが、その中でエイミー様のことをよく口にされていました。」


「カリーナは……私のことなんて?」


 エイミーが恐る恐る尋ねる。


「お嬢様はエイミー様のことを“大事なご友人”だとおっしゃっていました。」


「え……どうして?」


 エイミーは驚きと戸惑いを隠せない様子で、さらに問い返す。ルナさんは優しく続けた。


「お嬢様は、エイミー様にいじめられたことに深く落ち込んでいらっしゃいました。しかし、その原因はご自身にあるのだと考えておられたのです。ですが、その原因が何なのか分からず、どうすればいいのかも分からない……だからエイミー様に会うのは怖いとおっしゃっていました。理由が分かるまで学園には戻らないと決めて、ずっと悩んでおられたのです。」


「そんな……カリーナぁ……。」


 エイミーの目からは、涙が静かに溢れていた。その涙は、後悔と罪悪感が入り混じったものに見える。


「私は……私はただ、あなたのことが羨ましくて……ただの嫉妬で、あなたは何も悪くないのに……!」


 エイミーは声を震わせながら吐き出すように言った。震える手で顔を覆い、涙を隠そうとするが、それはもう止まることを知らなかった。


 俺は隣でその姿をじっと見ていた。エイミーの言葉は、今もカリーナの部屋の扉の向こうに届いていないかもしれない。でも、少なくとも今この瞬間、彼女が心の底から後悔し、謝罪の気持ちを抱いているのは間違いない。


 俺はそっとエイミーの肩に手を置き、短く言葉をかけた。


「必ずカリーナさんに伝わりますから、諦めないでください。もう一度謝る機会はあるハズです。」


 エイミーは顔を上げ、涙で赤くなった目で俺を見た。その表情には、わずかに決意の色が見えた。


 カリーナへの謝罪は明日に持ち越すことにした。


 夕日が傾き、夜の気配が近づいてくる中、俺たちはカリーナの家を後にした。まだ涙が止まらないエイミーの肩を支えながら、足元の石畳を踏みしめる。


(さて……帰るのはいいとして、エイミーをどうするかだな。俺の家に泊めるのは、できれば避けたいけど……。)


 彼女の寝床をどうするか迷いながらも、とりあえず自宅に戻ることにした。


 家に到着すると、泣きはらしたエイミーを支える俺を見た両親がまたしても余計な誤解を抱きそうな雰囲気だった。しかし、今回は最初から状況をしっかり説明し、なんとか誤解を解くことに成功する。


 だが、エイミーが泊まる場所がないという話になると、両親は案の定、快く彼女を泊めることを決めてしまった。


「カイル、女の子を外に放り出すなんて、絶対ダメだからね!」


「分かりました、分かりましたから……。」


 仕方なく、エイミーを俺の部屋に案内し、しばらく彼女が落ち着くのを待つために一階のリビングに戻った。


 時間が経ち、泣き止んだのか、エイミーが階段を下りてきた。


「大丈夫ですか?」


 俺の問いに、掠れた声で「うん……。」と頷くエイミーは、どこか子どものような頼りなさを感じさせた。


「それじゃあ、夕食にしましょう。」


 こうして、俺たち4人は食卓を囲み、少しずつ会話を交わしながら夕食を済ませた。エイミーも少しずつ普段の調子を取り戻しているように見える。


 夕食が終わり、俺とエイミーは庭に出て、椅子に腰を掛けた。夜空には無数の星が瞬いており、遠くの虫の声が心地よい静けさを運んでくれる。


 エイミーが少し口を尖らせながら口を開いた。


「庶民の食事も、なかなか美味しかったわね。良い経験になったわ。」


「俺も、時々泣き出すエイミーさんをお世話するのは、良い経験になりましたよ。」


「ちょっ……!」


 俺の皮肉にエイミーは顔を真っ赤にして抗議する。どうやら、さっきまでの自分の姿を思い出したらしい。


(こいつの気持ちの切り替えの速さは、一級品だな。)


 俺は内心苦笑しながら星空を見上げた。庭に置かれた椅子は少しひんやりしていて、夜の空気が心地よく肌を撫でる。


 すると、エイミーがぽつりと呟いた。


「カリーナ、許してくれるかしら……。」


 その声には、不安と後悔が滲み出ていた。普段の強気な態度とは違う、素直な彼女の一面を見た気がする。


 俺はしばらく星を見上げた後、軽く息を吐いて答えた。


「許すもなにも、カリーナさんはあなたにいじめられたのを自分のせいだと思ってるんですから、エイミーさんはキチンと話をして、謝ればいいと思いますよ。」


 エイミーは俺の言葉に、少しだけ微笑んだように見えた。でも、それ以上は何も言わず、ただ夜空をじっと見つめていた。

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