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36話 対面

 今、俺は人生最大のピンチに直面している。その理由を説明するには、30分ほど前に遡る必要がある……。



 ―――。



 1年ぶりに村へ帰り、俺は母親との感動的な再会を果たした。しかし、その雰囲気は、馬車の後ろからエイミーが顔を出した瞬間に一変した。


 涙を浮かべて喜んでいた母親の顔が、見る間に険しいものに変わる。

 その顔は、3年前に門限を破り玄関で叱られたときの恐怖そのものだった。いや、むしろそれ以上だ。鬼のような表情を浮かべた母親が、低い声で俺に耳打ちしてきた。


「カイルちゃん? あの女の子は、だぁれ?」


「あれですか? 連れてってとしつこくついてくるから連れてきただけです。」


「あの子はどうしてこの村に来たかったの?」


「謝りたいんだそうです。」


 その一言が火種だった。


 母親の顔色がさらに悪化し、その形相はもはや鬼を超えて何か得体の知れないものに変わっていく。そして、次の瞬間、母親は雷のような声で叫んだ。


「女の子と駆け落ちしようなんて許しませんよ!!!」


 どうやら盛大な誤解をしているらしい。


 俺はエイミーを馬車に残し、母親に腕を引かれる形で家の中へ連行された。


 リビングに入ると、ソファの中央に父親が座っていた。

 足を組みながらコーヒーを啜るその姿は、無理に威厳を装っているのが見え見えで、思わず笑いそうになったが、この状況では洒落にならないのでぐっと堪える。


「カイル、そこに座りなさい。」


 父親の命令に従い、俺は目の前の椅子に腰を下ろす。


 開口一番、父親はこう言い放った。


「カイル、お前はいつの間にそんな不良息子になったんだ!」


(何を言い出すんだ、この父親は……。)


「月々に送ってくる手紙には、女の子と付き合いだしたなんて書いてなかったぞ! 親に黙って付き合えると思うなよ!」


 隣の母親もうんうんと頷いている。


(この両親は何なんだ……。)


「それに、あんな綺麗なお嬢さんを連れてくるなんて! あの気品、首都の貴族令嬢に違いないわ!」


「なんだと!? それはまずいことだ!俺たちのような平民が、息子と貴族の娘を駆け落ちさせたなんて噂が流れれば……世間体があああ!」


(勝手に話を膨らませて勝手に絶望しないでほしい……。)


 俺が弁明しようと口を開きかけたそのとき、玄関のドアが勢いよく開き、顔を真っ赤にしたエイミーがズカズカと入ってきた。


「私がこんな生意気なガキと付き合うわけないでしょ!!!!」


「へ?」


 父と母の声が見事にハモる。


 エイミーは憤然とした表情で腕を組み、続けざまに怒鳴った。


「私はこのガキに、無理やりこの家まで連れてこられただけ! それに、この村に来たのは私が謝りたい人が別にいるから! 勝手に勘違いして話を進めないでちょうだい!」


 父と母は顔を見合わせてしばらく沈黙していたが、次の瞬間、母親が顔を輝かせてこう言った。


「あらまあ、そうだったのね! それなら最初に言ってくれればいいのに!」


(だから最初からそう言ってるのに……いや言ってなかったか?)



 ―――。



 誤解が解け、両親からようやく解放された俺たちは、早速カリーナの家へ向かうことにした。


 カリーナの家は、俺の家から南西に20分ほど歩いたところにある大きな豪邸だ。エイミーとたわいのない雑談をしながら道を進んでいくと、ついにその豪邸が姿を現した。


 白を基調とした建物には繊細な装飾が施され、辺境の地にあるとは思えないほどの気品を放っている。家の周囲を囲む鉄の柵には、一定間隔で魔物避けの魔具が均一に配置されており、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。


 正面の門の前には二人の門番が立っている。俺は迷うことなく近づいて話しかけた。


「こんにちは。カリーナさんに会いに来たのですが。」


 エイミーが慌てて俺の肩を引っ張り、声を潜めて言う。


「ちょ、ちょっと!あんな怖そうな人たちに話しかけるの!?大丈夫なの!?」


 エイミーの心配を無視して、門番たちに言葉を続けた。


 俺の言葉を受け、左側の門番がジロリと目だけを動かして俺を見る。その視線はすぐに外され、冷たい声が返ってきた。


「いきなり来てお嬢様に会わせろたぁ、生意気なガキんちょだな。帰んな、ちゃんと面会の予約してから出直してこい。」


 その冷淡な対応にエイミーは肩をすくめ、「それじゃあ帰りましょう!」と言いかけたが、次の瞬間、右側の門番が慌てた様子で声を上げた。


「ちょ、ちょっと待って!君、カイル君だよね!?久しぶり!僕のこと覚えてる?」


「……あれ?あなたは――。」


 門番の口ぶりに驚いていると、左側の門番が眉をひそめて口を挟む。


「あ?なんだ、知り合いか?」


「そうなんだよ!カイル君はカリーナお嬢様のご友人で、すごく仲が良かったんだ!」


「へぇ……そりゃ驚いた。なら通してやってもいいか。よし、通れ、坊主。」


 予想外にあっさり通行許可が下り、俺は深々と礼をして応えた。


「ありがとうございます。」


 その隣でエイミーも慌てて礼をする。


「あっ、ありがとうございまーす!」


 二人の門番を後にして、俺たちはカリーナの屋敷へと足を踏み入れた。


 門を越えると、広々とした庭が広がっていた。中央には立派な噴水があり、その隣にはパラソル付きのテーブルと椅子が置かれている。


「あそこ、カリーナさんとよくお茶したな……。」


 懐かしさがこみ上げる。

 しかし、そのテーブルの表面は少し埃っぽく、手入れがされていない様子だった。この一年間、あそこでお茶をする時間はなかったのかもしれない。少し胸騒ぎを覚えながらも足を進める。


「カリーナのお家、初めて来たけどまぁ、結構いいとこ住んでんじゃないの。」


 エイミーが呟く。その声に俺は眉をひそめ、軽く突っ込んだ。


「謝りに来た態度には見えませんね。」


「ちょっと!何よ!反省してるのは本当なんだから!」


(どうだか……。)


 軽口を叩き合いながらも、俺たちは豪邸の玄関へと到着した。大きな扉がそびえ立ち、エイミーはさすがに緊張している様子だ。俺の背中に隠れるようにして、その様子を伺っている。


「いいですか?カリーナさんに会ったら、まず土下座です。すぐに土下座です。」


「ドゲザって何よ?」


「……やっぱり何でもありません。」


 気を取り直し、俺は扉をノックした。


「はぁい。」


 すぐに返事があり、扉が静かに開く。顔を出したのは、カリーナの家で家事を任されているメイドのルナさんだった。


「あら、カイル様!お久しぶりです。首都からお帰りになられたのですか?」


「お久しぶりです、ルナさん。はい、長期休みで一旦帰ってきました!」


「それはそれは、お嬢様もお喜びになりますわ。それで今日はどのようなご用件で?」


「その、カリーナさんに用があって来ました!……この人が!」


 俺は背中に隠れていたエイミーをぐいっと前に押し出す。


「この方は?」


「俺と同じ学園の先輩で、カリーナさんのご友人です!久しぶりに会いたいんだそうです!」


「ど、どうも……。」


「お嬢様のご友人ですか。失礼いたしました。それでは、こちらにどうぞ。」


 ルナさんに案内され、俺たちはカリーナの部屋の前に立った。


「では、何か御用があればお呼びください。」


 ルナさんが立ち去ると、俺はエイミーに向き直る。


「いいですか?絶対に、最初の言葉は『ごめんなさい』ですよ?」


「私は子どもかっての!」


 口では強気なことを言いながらも、エイミーは明らかに緊張していた。恐る恐る扉をノックした。

 すると、すぐさま扉が開けられた。


 扉が開くと、すぐ目の前にカリーナの姿があった。こちらを見たカリーナの目が、俺たちを捉える。


 エイミーは一瞬カリーナと視線を交わしただけで耳まで真っ赤にして固まってしまった。横からそっと耳元で囁く。


「『ごめんなさい』ですよ!」


「わ、分かってるわよ!」


 エイミーは震える声で口を開き、しどろもどろに言った。


「カ、カリーナ!」


「?」


「カリーナ!私……ずっとあなたに謝りたかったの!あの時、あなたをいじめて、ごめんなさ――!」


 エイミーが言葉を言い終える前に、カリーナは無表情のまま扉を勢いよく閉めた。


 バタン。


「ええ……?」


 エイミーは目を丸くし、困惑した表情を浮かべて扉を見つめている。その隣で俺は、頭を抱えため息をついた。


(……失敗か。)

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