表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/620

35話 帰郷

 進級試験が終わると、学園はすぐに約1か月の長期休暇に入った。この間、生徒たちはそれぞれの過ごし方で思い思いの時間を過ごすことになる。


 俺は迷わず、エルドリックやカリーナの待つ村に帰ることに決めていた。

 入学以来しばらく顔を見せていない彼らに会いたかったし、少しの間だけでも故郷でのんびりするつもりだった。


 そんな俺の話を聞いて、突如としてついて行きたいと言い出した奴が現れた。

 その名はエイミー。カリーナをいじめていた張本人だ。


 俺がノアやライガたちと休暇中の予定を話していると、エイミーが急に割り込んできて、思いがけないことを口にした。


「カリーナのところに行きたいの。ちゃんと謝らなきゃって思って。」


 その言葉に俺もノアたちも面食らった。


「あなたが……謝る? どういう風の吹き回しですか?」


 俺の問いかけにエイミーは少し顔を伏せて、絞り出すように言葉を続けた。


「私、ずっと後悔してたの!だから、謝る機会が欲しかったのよ。別にいいでしょ?一緒に行くくらい。」


 エイミーの言葉がどこまで本心なのか分からなかったが、これ以上問い詰めても仕方がないと判断し、俺はとりあえず了承した。

 それから3日後、エイミーを連れて村へ向かう準備をすることにした。


 出発当日、俺は村までの足を得るため、馬車屋にやってきた。エイミーも一緒だが、早速彼女は不満を漏らし始めた。


「はぁ~?なんでこんな庶民の馬車なんかに乗らなきゃいけないのよ。私の家のを使えばよかったじゃない!」


 俺はため息をつき、冷たく返す。


「あなたに借りを作りたくないんです。文句を言うなら帰ってください。」


 エイミーは顔をしかめて腕を組み、苛立ちを隠そうともせずに反論してきた。


「ちょっと!私は先輩なのよ!?なんなの!?最近の1年って!本当に生意気なんだから!」


 俺は彼女の愚痴を適当に聞き流しながら、馬車を借りる手続きを進める。今回の旅路にはいくら短時間で着くとはいえ、万が一に備えて食料や水、必要な道具も買い込んだ。


 馬車の準備を終え、荷物を積み終える頃になってようやくエイミーも観念したのか、静かになった。


「……まぁ、庶民のやり方も案外手際がいいのね。」


 そんなことをぼそっと呟きながら、彼女は馬車に乗り込んだ。俺はその言葉を無視し、手綱を握って出発の準備を整える。



 ―――。



 数時間馬車を走らせると、ようやく懐かしい風景が視界に広がった。森の合間から見える小さな村の柵や、遠くにそびえる鐘楼――ここが俺の故郷だ。


「エイミーさん、もうすぐ着きます。さっきの”それ”、片付けておいてくださいよ!」


 俺は後ろでぐったりしているエイミーに声をかける。


 数時間前、馬車を出してすぐ、小さな魔獣の群れに遭遇した。とはいえ、魔力がほとんど回復している俺にとっては、いい魔法の練習台に過ぎなかった。数発の魔法で簡単に片付けたが、エイミーにとってはそうはいかなかったらしい。


 初めて魔獣の群れを目の当たりにした彼女は、完全に怯えてしまい、挙句の果てには嘔吐してしまったのだ。そのせいで馬車の一部が汚れ、まだその匂いが少し残っている。


「わ、分かってるわよ……。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるのよ。」


 エイミーは力なく言い返すが、先輩としての威厳は無いに等しい。


「言っときますけど、あなたのせいですからね。」


 俺は冷たく突き放しながら、村の柵を越える。馬車の揺れも軽くなり、道の整備が以前より進んでいることに気付いた。


 1年ぶりに帰ってきた故郷は、以前よりも活気づいて見えた。家が増え、人の姿も多くなり、子供たちの笑い声があちらこちらから聞こえる。村全体がどこか明るくなったように感じる。


「これが、あんたの村……思ったよりマシじゃない。」


 エイミーが窓から顔を出してつぶやく。


「そうですか。それはよかったですね。」


 適当に返事をしながら、俺はまず両親が待つ家を目指した。道中、顔見知りの人たちが何人も声をかけてくれる。


「カイルじゃないか! 久しぶりだな!」

「おお、元気そうで何よりだ!」


「あ、久しぶりです! みんなも元気そうですね!」


 暖かい歓迎に思わず笑顔になる。エイミーは少し気まずそうに馬車の中で縮こまっていた、特に気にする必要もないのに。


 そしてついに、俺は両親が待つ家の前にたどり着いた。庭の花壇には色とりどりの花が咲き誇り、玄関先には母親が出迎えてくれるように立っていた。


「カイル!」


 母親が目を輝かせて俺に駆け寄ってくる。俺は馬車を止め、手を振って応えた。


「ただいま、母上。」


 その瞬間、俺の胸にこみ上げるものがあった。やっぱり、ここが俺の居場所だ。


 だが、その感動的な再会の瞬間は、後ろから漏れるエイミーの一言で台無しになる。


「ねぇ、私も降りていいのよね? いつまで待たせるつもり?」


 俺は一瞬溜息をつきながら振り返り、エイミーを手招きする。


「はいはい、降りてください。とりあえず荷物を片付けてから、あなたがやりたいことを始めてください。」


 こうして、俺たちの故郷での再会と、エイミーの謝罪という奇妙な旅の幕開けが始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ