33話 フェンリVSカイル
ガムシルをなんとか倒し、疲労困憊の俺とフェンリ。だが、最終試合はまだ終わっていない。一人の勝者を決めるまで、この戦いに幕は下りないのだ。
(ガムシルのせいで計算通りに魔力を節約することができなかった……。ここからは最低限の消費魔力で戦わないと。)
戦略を練ろうとしていたその時、フェンリから申し出があった。
「カイル、一つ提案があります。」
「……なんですか?」
「僕たち二人とも、もう残りの魔力が少ないですよね。そこで、この勝負を一発で決めませんか?」
「一発で?」
フェンリの提案に俺は目を細める。彼は穏やかで、けれどどこか挑戦的な目をしていた。
「はい。自分たちの今出せる最高火力の魔法を同時に放ち、打ち消された方が負け。シンプルに、それでどうですか?」
「最高火力……。」
少し考えた俺は、結論を出す。この疲労状態で長引かせれば、確実にどちらも倒れる。だとしたら、勝敗をつけるにはこの方法しかないだろう。
「分かりました。その提案、受けましょう。」
フェンリはニヤリと笑い、杖を構える。そして目を瞑り、魔力を集中し始めた。
(フェンリのやつ、本気だ……。)
俺も魔具に装着していた氷元素の魔石を外し、火元素の魔石に付け替えた。フェンリの提案を受け入れると決めたからには、俺も全力を出す以外にない。
(火元素の魔石だけ、中級魔法が使えるくらいの魔力を注入しておいて正解だった……。)
俺は魔石にありったけの魔力を注ぎ込みながら、魔法のイメージを練る。力と力の真っ向勝負。これで勝敗が決まるのだ。
※※※
「なんでカイル達、さっきから動かないんだろう……。」
ノアの独り言のような疑問にライガが反応した。
「俺も分かんねぇ、が、あいつらの考えることだ、きっとロクな事じゃねえぜ。」
「そうだね……考えても分かんないよ、あの二人のことは。」
ノア達がしばらくカイルとフェンリの様子を見ていると動きがあった。彼らの頭上にそれぞれ火と風の塊が生成され始めたのだ。それに最初に反応したのはなんとフィーニャだったのだ。
「あ、みんな見て。」
「え?あ!ライガ!ジャンガ!ちょっと寝てる場合じゃないよ!起きて!」
「んあ!?どうしたって、お!なんだあれ?」
眠い目を擦りながら驚くジャンガに対し、ライガは適格に状況を見て一つの結論を出した。
「あれは……まさか!?あいつらこの試合、一発で終わらせる気だ!」
「え?」
ライガは興奮気味に続ける。
「これだけの魔力の集約、ただの下級や中級じゃあねぇ、限りなく上級に近い中級魔法だ!」
「ええぇ!?1年生で中級魔法使えるのもすごいことなのにそれ以上の魔法を!?」
「あぁ!イカれてるぜあの二人!一体どれほどの鍛錬を積んだらあんなバケモンになれんだ……!」
カイル達が作り出している魔法ははノア達だけでなく、今日この試合を観戦していた全ての者を驚愕させた。
修練場から響く声が人々を呼び、その人々がさらに多くの人を呼ぶ。結果、この日の第3修練場には学園で生活を送る生徒・教師合わせて約千人が集っていた。その中にはS組の生徒や学長も居合わせていた。
※※※
フェンリとの間に静寂が訪れる。観客席も息を飲むように静まり返り、誰一人声を上げない。ただ、俺とフェンリの間に流れる緊張感だけが場を支配していた。
フェンリの口元には自信の笑みが浮かんでいる。俺も同じく集中を切らさず、全力で火魔法の準備を進めていた。
(これが最後の一撃……。ミスは許されない。)
魔法はイメージの世界だ、イメージが定まらないと魔法は使えない。
魔法を使う際、自分の心に”内なる世界”を形作り、そしてイメージを魔法として具現化する。精神を集中させ、自らの”イメージの世界”にアクセス、そしてその世界で魔法を”視覚的に描く”。
魔法の”ルール”や”形”を想像することで、魔法を具現化・発動する。
火は簡単だ。まずは巨大な炉をイメージし、そしてその中で絶えず燃え続ける火の塊を掴む。これで単純な火元素魔法なら発動可能。しかし中級となってくるとそのイメージだけでは足りない。もっと具体的なイメージが必要になる。
なぜ火は起こるのか?その火が燃え続ける理由は?なぜ火は赤い?その答えを全て知り、火の性質を理解できたとき、”火”は”炎”となり、更に火力を増す。
「だが……!まだ足りない!」
そう、足りない。
この程度の火力じゃきっとフェンリの魔法にかき消される。
もっと上の火力、”炎”以上の火力がいる。そのためには……更に炎を理解し、イメージするしかない。
(更に火力を出すにはとりあえず酸素だ。酸素を炎に送りまくるしかない。魔力を酸素に変化させそれを炎に送り続ける……。二つの魔法を同時並行で作り続けることは難しいことじゃない。村にいた頃、何度もカリーナと練習したことだ。)
俺は、さらに炎に酸素を送り続けた。
そして、しばらく送り続けると、これ以上酸素を送り込めない感覚が襲った。どうやらこれが今の俺の限界らしい。
頭上を見上げると、先程まで真っ赤だった炎の球体はゆらゆらと白い絵を描きながら燃えている。
見た目、熱くはなさそうだが俺は知っている。あの純白に光る炎の真価を。
「準備完了です。フェンリ。」
「丁度、僕もですよカイル。」
目の前のフェンリの真上には深緑色の球体が浮いていた。その球体の中では激しい豪風が渦巻いていた。俺の白炎を”静”とするならフェンリのあの魔法は”動”と言えるだろう。
二人の間に緊張が走る。
「カイル、準備はいいですか?」
フェンリが静かに問いかける。
「……えぇ、いつでも大丈夫です。」
学園中が注目する最後の試合が今、本当に始まる。




