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32話 俺ごとやれ!

 ガムシルの異様な動きにはまだ秘密があると感じながらも、その正体を掴めないまま、俺たちの魔法は徐々に勢いを失っていた。


「はぁ……はぁ……フェンリ、今魔力どのくらい残ってます?」


「はぁ……多分、いつもの半分くらいですかね。カイルは?」


「俺も似たようなものです。そろそろガムシルを倒さないと後が辛いですね。」


 息を整えながら考える。このまま消耗戦を続ければ、ガムシルの秘密を暴く前に俺たちの方が先に消耗し尽くす。


「フェンリ……次の攻撃で最後にしましょう。補助をお願いします。」


「補助……ですか?何かガムシルさんの秘密が分かったんですか?」


 フェンリが驚いた顔でこちらを見る。


「確証はないけど、可能性はあると思う。」


 そう答えると、フェンリは少し考えてから静かに頷いた。


「分かりました。その可能性に賭けてみましょう。僕は何をすれば?」


「今まで通り、ガムシルの気を引き続けてください。俺が最後に一撃を狙います。」


 フェンリは一瞬目を伏せた後、強い意志を込めた瞳で俺を見た。


「了解しました、カイル。全力でサポートします!」


 フェンリが再びフィールドに走り出し、ガムシルの注意を引き始める。


「ねえ、ガムシルさん!まだ僕と遊んでくれますよね?」


 フェンリが風元素の魔法を使いながら牽制を続ける。ガムシルは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。


「もちろんだよ!遊ぶよ!でもそろそろ疲れてきたんじゃない?疲れるよね!」


 その隙に俺は魔具を構え、準備を進める。


(ガムシルの加護を突破するのは多分今の俺たちではできない、更に加護に加えてあのガムシル自身の攻撃を避ける俊敏さ、厄介だが……。)


 俺が目を付けたのは、ガムシルが避ける時の動き。あいつは俺たちの魔法をかわす瞬間、ほんのわずかに周囲の魔力の流れを変えているように見えた。


(恐らくあいつは、フェンリ以上の魔力感知で、攻撃の軌道や発生を感じ取っている。それが本当なら、直接狙うのはほぼ無意味……!ガムシルの意識外から攻撃をするしかない!)


 俺は準備を終え、フェンリに合図を送る。


「フェンリ、タイミングを合わせてください!」


「了解です、カイル!」


 フェンリが魔法で巻き起こした風がガムシルを包み込むように渦を作り出す。


風檻(ウィンド・プリズン)!」


 それでもガムシルは風の渦をすり抜けるように動くが、その瞬間を俺は狙っていた。


水拘束(ウォーター・スフィア)!」


 俺の魔具から放たれた魔法が、ガムシルの足元に小規模な水の球体を生み出す。


「うわっ……!」


 一瞬の鈍化。それでもガムシルは完全には足を止めないが、その間にフェンリが魔法を放つ。


水弾(ウォーター・ショット)!」


 水の弾がガムシルの横をかすめ、彼の動きがわずかに乱れる。


(よし、次だ!)


 俺は魔具を再度構え、ガムシルの動きを封じる準備を始める。


 しかし、ガムシルの動きを鈍らせることに成功したものの、彼はまだ完全に動きを止めていない。驚異的な体力と回避能力で、なおも逃げ続けようとする。


「やるね!やるじゃないか!でもオレ、まだ負けないからね!」


 ガムシルは余裕の表情を崩さないが、その額には汗がにじんでいる。確実に消耗しているはずだ。やはり、あの逃げ足を封じるにはさらなる一手が必要だ。


 フェンリが俺に叫ぶ。


「カイル!次で本当に終わらせましょう!これ以上時間をかけるのは危険です!」


「えぇ、分かってます!」


 俺は即座に次の手を考える。ガムシルの加護が”脱出”を司る能力だとして、完全に拘束するのは不可能。それならば、逃げられない状況を作るしかない。


 俺はフェンリに指示を出す。


「フェンリ、風元素系の魔法でガムシルの周囲に防壁を作ってください!その間に俺が準備します!」


「分かりました!やってみます!」


 フェンリが杖を振ると、ガムシルを囲むように強風が渦巻き始めた。


風檻(ウィンド・プリズン)!」


 ガムシルは風の檻に驚き、試しに飛び出そうとするが、激しい風圧に阻まれる。


「おっと!なんだこれは!?すごいよ!すごいね!」


 その隙に、俺は地面に向かって魔法を放つ。


大地振動(グランド・シェイク)!」


 地面を揺らし、ガムシルの足元に小さな陥没が出来る。その中央に狙いを定めた魔具を構える。


(この場を逃げ場のない戦場に変える!)


 魔具に氷元素の魔石をセットし、最終的な一撃を放つ準備を整えた。


「フェンリ、壁を収縮させてください!」


「了解!」


 フェンリが風の檻を徐々に縮め、ガムシルの動きをさらに封じる。ガムシルは慌てた様子で隙を探すが、すでに動きは限られている。


「さて、これで終わりだ!凍結(フリーズ)!』


 氷の魔法が放たれ、ガムシルの足元を一気に凍り付かせる。地面全体が氷の結界のように変わり、彼の動きを完全に封じ込めた。


「うわぁっ!?これは……さすがにキツい……と思ったか!!」


 凍結がガムシルを狙い飛ぶが、彼は再び足元を砕いて回避する。だがその直後、俺はガムシルの背後に回り込んでいた。


「ここだ!」


「は!?」


 驚くガムシルを押さえ込み、身動きを封じる。


「離せ!離せって!反則だろ、2対1なんて!」


「何言ってるんですか!これも立派な戦術ですよ!……フェンリ!俺ごと撃ってください!」


「えっ!?本気ですか?」


「早く!今を逃せばまた振り出しに戻ります!」


 フェンリは一瞬躊躇したが、強い意志を込めて頷いた。


「分かりました!絶対に巻き込まないよう努力します!」


 杖を掲げるフェンリ。魔力が渦を巻き、次第にその手元へと収束していく。


水嵐(アクア・ストーム)!」


 嵐のような水流が俺たちを包み込み、ガムシルの逃げ場を完全に奪った。


「くそっ、くそっ!こんなの卑怯だ!卑怯すぎる!」


「フェンリ、今です!」


水断裂(アクア・スラッシュ)!」


 巨大な水の刃がガムシルを正確に切り裂く。俺は衝撃を受けながらも、ガムシルを離さなかった。


 水が収まり、ガムシルと俺は地面に倒れた。


「うまくいったか……?」


 拘束を解くとガムシルがぐったりと横たわる。


 俺は安否を確認して審判に引き渡す。


「気絶してるだけですが、一応医務室に運んでください。」


 そしてフェンリに向き直る。お互いに疲労は限界に近い。


「はぁ……これからですよ、カイル。」


「えぇ……ようやく二人だけの試合ができます。」


 フェンリとの、本当の最後の試合が始まる――。

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