30話 鬱陶しい奴
最終試合開始の合図がフィールドに響くと同時に、俺はすぐさま魔具に魔力を通し、発動の準備を整えた。だが、フェンリとガムシルは既に魔法を放つ準備を終えている。
フェンリは風元素魔法を、ガムシルは水元素魔法を発動させていた。
(やっぱり魔具を通さないと魔法を発動できない俺は、初動でどうしても遅れる……!)
「風弾!」
フェンリが俺に向けて風の魔法を放つ。しかしその魔法が俺に届く前に、横からガムシルが割り込んだ。
「水爆弾!」
ガムシルの放った水の魔法が、フェンリの風魔法をかき消した。
(なんだ?なぜガムシルがフェンリの攻撃を邪魔するんだ?)
疑問に思う間もなく、ガムシルが勝手に話し始める。
「オレを無視して二人でやり合うのは心外だよ!オレも混ぜてくれよ!混ぜて!」
ガムシルは素早く疾風の魔法を発動し、自身の移動速度を大幅に上げるとフェンリへと突進した。
「疾風!」
フェンリはその動きを冷静に見極め、既に次の魔法の準備を整えていた。
「火爆!」
「火爆!」
二人がほぼ同時に放った火の魔法が空中でぶつかり合い、激しい轟音と熱気を伴った爆発を引き起こす。
「くっ……!」
巻き上がる煙と熱波に思わず目を覆う。爆風の中からは、激しい攻防の音だけが響いてきた。
一方で、俺は試合開始からまだ一歩も動いていない。
(だが、これは好機だ。魔具に頼らないと魔法が使えない不利を補うためには、このフィールドを俺にとって有利な地形に作り替えるしかない!)
二人がぶつかり合う間、俺は黙々とフィールドの改造を開始した。
水元素魔法で水たまりを作り、土元素魔法で障害物を造る。さらに、簡易的な水路を掘り、小規模ながら複雑な地形を生み出す。
しばらくすると煙が晴れ、フィールド全体が見渡せるようになる。戦闘を中断したフェンリとガムシルが、周囲の様子を見回して驚きの表情を浮かべていた。
平らだったフィールドが、まるで街の一角のように変わり果てていたからだ。それに気づいた観客席からも、どよめきの声が上がる。
すると、フェンリが俺に問いかけてきた。
「これは……一体何をしたんですか、カイル?」
俺は肩をすくめて答える。
「二人がやり合っている間に、この試合を俺に有利にするため、フィールドを少し改装したんです。」
その言葉にガムシルが声を上げた。
「へぇ~!すごいよ!すごいね!でもさ、こんなに大規模に改造したら相当な魔力を消費したんじゃない?」
その通りだ。フィールドを改造するために、この3日間で回復させてきた魔力の半分をさらに消費してしまった。
(魔力が残り少ない……今や黒魔法を一発も撃てやしない。いや、今そんなことを考えても仕方ないか。)
すると、フェンリが口を開いた。
「それではカイル、次は君と戦いましょう。」
だがその瞬間、ガムシルが割って入る。
「フェンリ君、オレともやろうよ!やるよね!?」
しかし、俺たちはその言葉を聞き流し、フェンリに向き直った。
「はい!やりましょう、フェンリ!」
「それでは、いきますよ……カイル!」
その言葉と同時に、フェンリの足元から突風が巻き上がり、まるで風そのものと同化するようなスピードで間合いを詰めてきた。
(速い……!)
咄嗟に俺は土元素魔法を発動させ、足元に障害物を出現させる。
「土槍!」
地面から突き出した硬い槍が、フェンリの動きを一瞬だけ止める。だが、それも束の間。フェンリは軽やかに跳ねて回避すると、すかさず次の魔法を詠唱し始めた。
「風刃!」
鋭い風の刃が放たれる。俺は防御用に作っていた水路へ飛び込み、水を壁のようにして防ぐ。
「水盾!」
風の刃が水壁を削る音が響き渡るが、なんとか防ぎきった。
「くっ……さすがですね、フェンリ!」
そう呟きながら次の魔法の準備を進める俺の背後から、不意に声が飛んできた。
「カイル君、忘れてないよね?オレもいるよ!いるから!」
「!?」
振り返ると、ガムシルが巨大な水球を浮かべながらニヤリと笑っている。
「3倍水弾!」
ガムシルが放った特大の水弾が俺を狙って迫ってくる。だが、その途中でフェンリがまたも割り込んだ。
「それは僕が許しませんよ!」
「風爆!」
風の爆発がガムシルの水弾を打ち消す。フェンリが軽く息を吐きながらこちらを睨む。
「邪魔をしないでください、ガムシルさん。今はカイルと戦っています。」
しかしガムシルは全く意に介さず、楽しそうに笑うだけだ。
「いやいや、二人の戦いが熱いからさ!オレも混ぜてもらわないと退屈しちゃうよ!しちゃうね!」
そう言うと、再び風元素魔法で高速移動しながら、二人の間に割り込んでくる。
「さて、次は誰が相手をしてくれるのかな?」
俺とフェンリは一瞬だけ視線を交わし、無言で頷く。ガムシルの横やりを抑える必要があると、お互いに理解していた。
フェンリが動いた。
彼はガムシルの背後に回り込み、魔法を放つ。
「疾風!」
疾風がガムシルを強引に俺の方向へと弾き飛ばす。俺はそれを見逃さず、すかさず魔法を発動する。
「氷弾!」
鋭利な氷の弾がガムシルの足元に命中し、一瞬だけ動きを封じた。
「おいおい、ちょっと待てよ!オレを狙うなって!狙うなよ!」
ガムシルが大声で抗議しつつも、拘束を解除しようともがいている。その隙に俺たちは再び正面に立つ。
「さて、これで邪魔者は少しだけ大人しくなりますね。」
「えぇ、次こそは純粋に勝負ですね!」
フェンリがわずかに微笑みながら杖を構え直す。その表情には焦りも動揺もない。対して俺は、残りの魔力を計算しながら次の一手を考える。
だが、その時――背後からまたしてもガムシルの声が響いた。
「おいおい!まだ終わったわけじゃないぞ!オレだって本気出すよ!あぁ!出すね!」
このバトルロワイアルは、激しい攻防の中に絶えず混沌を生み出していた。最終試合の行方は、まだ誰にも分からない……。




