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29話 最終試合開始!

 翌日、実技試験最終日。

 第3修練場には既に多くの生徒が詰めかけていた。観客席には昨日以上の熱気が溢れ、試験を1日早く終えた上級生たちまでが観戦に集まっていた。



 ―――10分前。



 俺とライガが修練場に足を踏み入れると、辺りを埋め尽くす生徒たちの人だかりに気づいた。


「……なんだか、今日は人が多くありませんか?」


 俺が周囲を見渡しながら呟くと、隣のライガも不思議そうに首を傾げる。


「カイルもそう思うか?実は俺もだ。」


 騒がしい声や交錯する人の熱気。昨日までの修練場では考えられない賑わいだ。俺たちは自然と目を見合わせた。


 ライガと別れ、フィールド入り口で準備をしていると、フェンリがやってきた。


「昨日の傷、大丈夫ですか?カイル。」


「フェンリ!まぁ、傷自体は治癒魔法で治ったけど、魔力残量がちょっと不安ですね。」


「昨日あれだけ戦って魔力切れしないなんて、君は本当にすごいですよ。カイル、勝ってくださいね。僕は君と戦いたいんです。」


 その言葉に思わず目を見開いた。フェンリが「戦いたい」とはっきり言うなんて、予想外だった。


「分かりました!全力でやりましょう。」


 フェンリは穏やかに笑みを浮かべ、俺の言葉に頷いた。やがてフィールドから声が響く。


「ライガ・グランファング!カイル・ブラックウッド!前へ!」


 俺たちは観客の歓声に迎えられながら、フィールドの中心へと進む。そしてそこで目にしたのは――樽だった。


「……なんだ?あれ。」


 ライガを見ると、彼も首を傾げる。


「ただの樽……じゃねぇよな?」


 その時、審判が観客席に向かって叫んだ。


「昨日の試合で引き分けた両選手の勝敗を決めるのは――『腕相撲』だ!!」


(腕相撲!?)


 場内がざわつく中、俺とライガは顔を見合わせた。


「腕相撲だと?おいおい、本気かよ。」


 ライガは困惑しながら樽を見つめる。俺も唖然としていたが、これが試験の一環である以上、逃げるわけにはいかない。


「……まぁいいさ。全力でやるだけだ!」


 ライガが笑みを浮かべ、樽に肘を置く。俺もそれに倣い、腕を組み直した。


「それでは試合開始!腕相撲の勝者が、この後の最終試合に出場できる権利を持つ!」


 試験官が合図を出した瞬間、全力で力を込めた。


「おりゃあああ!!」


 ライガの腕が樽を揺らし、俺の腕に強烈な圧力がかかる。


(やっぱり獣族の力はすごいな…!)


「どうしたカイル、そんなもんか!」


 ライガは楽しげに笑いながらさらに力を込めてきたが、ここで簡単に負けるわけにはいかない。


 数秒間の激しい押し合いが続く中、俺の腕はじわじわと押し込まれていく。


(くそっ、このままじゃ……!)


 その瞬間、妙案が浮かんだ。腕相撲は純粋な力の勝負だけじゃない。タイミングや心理戦も重要だ。


「ライガ!あれなんだ!?」


 俺は指差して叫び、わざと視線を逸らす仕草をした。


「ん?何だ?」


 ライガが一瞬だけ気を取られたその隙に、全力で押し返す!


「うおっ!おいおい、ズリィぞ!」


 ライガは咄嗟に力を入れ直すが、俺はその間も隙を見て彼の気を散らす。言葉や動作で惑わせ、少しずつ優位に立った。


 そして――。


「うぉおおおっ!」


 ライガの手の甲が樽に倒れた瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が上がった。


「勝者――カイル・ブラックウッド!!」


 試験官の声が響き、観衆は歓喜の声をあげる。ライガは腕を振りながら立ち上がり、俺をじっと見た。


「おいカイル、お前、ズリィぞ!」


「すみません、力じゃ勝てそうになかったので……。でも、試験は勝つための頭の使いどころも試されるんじゃないですか?」


 俺が肩をすくめて笑うと、ライガは少し睨んだ後、大きな声で笑った。


「ハハハ!まぁいいさ。結果、勝ったのはお前だ。けど、次はズルに負けねぇぞ!」


「俺も、ズルなしでライガに勝てるようもっと強くなりますよ!」


 ライガと拳を突き合わせ、俺は改めて試験の緊張感を感じ直した。


 試験はまだ続く。次の相手、フェンリとの戦い――最終試合だ。それを思うと、胸が高鳴ると同時に、不安も湧き上がってくる。


(本当に、もっと強くならなきゃな……。)


 ライガとの再戦を終え、俺は10分間の休憩時間を与えられた。短い休憩ではあるが、今の俺には十分だ。この時間を利用して、装備や魔石の確認を行う。


「風、土、火、そして氷……よし、全部揃っているな。」


 魔石を手の中で転がしながら確認する。昨日、偶然街の雑貨店で見つけた氷元素の魔石は特に期待しているアイテムだ。フェンリの俊敏な動きを少しでも止めることができれば、勝機を掴めるかもしれない。


 さらに、自作の魔具にも手を加えた。

 魔法が放出される出口を通常よりも小さくすることで、魔法に圧力をかけ、威力を向上させる仕組みだ。これが功を奏するかどうかはわからないが、できる限りの準備をしておきたい。


 装備の点検を終えた頃、ついに審判から名前が呼ばれた。


「カイル・ブラックウッド!フェンリ・グレイヴス!ガムシル・ガストロイ!前へ!」


 フィールドへ向かう途中、頭を巡らせる。


(残っているのは俺、フェンリ、そしてガムシルの3人。この状況で最終試合ってことは、やっぱり全員で戦うバトルロイヤルだろうか?)


 思案しているうちに、フィールドへと到着する。

 そこには、既に待ち構えているフェンリの姿と、その対角線上に立つガムシルが見えた。フェンリの冷静な表情に対し、ガムシルは興奮を隠しきれない様子だ。審判の合図で、3人がフィールド中央へと集まる。


「君がカイルかな?そうだよね?絶対そうだ!」


 いきなりガムシルが話しかけてきた。どうやら俺に興味津々らしい。


「ええ、俺がカイルですが……ガムシルさんですよね?」


「そうだ!オレのこと知ってくれてるなんて、嬉しいね!嬉しいよ!」


 興奮気味にガムシルが続ける。

 独特な話し方をする奴で、正直テンションについていけない。


「ガイが負けたって聞いたときはさ、どんな強い奴なんだって思ったけど……君なら納得だよ!納得だね!」


「そ、そうですか……?」


 褒めているのか貶しているのか、微妙に分からないニュアンスのせいで会話に疲れる。

 だが、ガイほどの裏表はなさそうだ。彼の親友と聞いて警戒していたが、ひとまずそこまで危険な雰囲気は感じない。


 すると審判が説明を始めた。


「最終試合は、ここにいる3人によるバトルロイヤルです。」


(やっぱり3人で戦えってことか。)


「殺人や過剰な攻撃は失格となります。こちらで戦闘不能と判断した場合、または倒れてから10カウント以内に起き上がれなかった場合、負けとなります。それでは――ご健闘を。」


 簡潔な説明が終わり、俺たちは互いに距離を取って構えを取る。

 フェンリは木製の杖を手に持つ。見た目は普通の杖だが、彼の使う魔法と技術はその質素さを感じさせない。

 一方のガムシルは、大きな両手持ちの杖を構えている。その杖は彼の身長ほどもあり、一見すぐ折れそうに見えるが、左手にはしっかりと魔具を装備している。杖がなくても戦える準備が整っているようだ。


 俺は魔具を構え、改良した放出口に目をやる。この最後の試合、全力で挑むしかない。


「実技試験最終試合――開始!!」


 審判の声がフィールドに響き、俺たちは一斉に動き出した。


 最終決戦が今、始まる。

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