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28話 再戦

 俺とライガは、試合後の疲労や怪我を抱えながら修練場の裏の小部屋で腰を下ろしていた。全身が痛むが、あの激闘を思い返すと不思議と悪い気分ではない。


「……なぁ、カイル。」


「ん?」


「やっぱりさ、俺たち……あんなにやり合ったのに、引き分けってどう思うよ。」


「考えてみれば……悔しいような、清々しいような。」


「だよなぁ!」


 ライガは豪快に笑いながら、拳で俺の肩を軽く叩く。その振動だけでも痛みが響くが、なんだか嫌な気持ちにはならない。


 そこへ、小さな足音が近づいてきた。


「カイル、ライガ!」


 俺たちが振り返ると、そこにはノアがいた。両手を腰に当てながら、にこやかに笑っている。


「起きてたの?良かった!もう今日の最後の試合が終わるところだよ!」


「今日の最後?」


「うん。試合が終わったら今日は解散になるみたい。最終試合は明日の朝にやるって!」


「そうですか……わざわざありがとうございます、ノア。」


 俺が礼を言うと、ライガがニヤつきながらノアに視線を向けた。


「ってことはよ、ノア。お前、フェンリと戦った後ってことだろ?どうだったんだ?」


(ライガのやつ、一番デリケートな話題を……!)


 俺が心の中で突っ込む間もなく、ノアは意外とあっさり答えた。


「え~?それ聞いちゃう~?」


 彼女は少し笑いながら首を傾げる。そして、軽く肩をすくめて明るく言った。


「もっっっう、完璧に負けたね!圧倒的すぎて悔しさすらないよ!!あはは!」


 その清々しい宣言に、俺とライガは思わず吹き出した。


「がっはっはっは!!やっぱり負けかよ!思った通りだぜ!」


「ちょっとライガ!!思った通りってどういうことよ!!」


 ノアが頬を膨らませて抗議すると、ライガはさらに笑いながら挑発する。


「だって、お前がフェンリに勝つ姿なんて全然想像できなかったんだもんよ!」


「なにぃ~!!」


 ノアがライガに詰め寄ろうとするのを見て、俺は慌てて口を挟んだ。


「そこらへんで許してあげてください、ノア。ライガも冗談ですよね?」


 俺の静止で動きを止めたノアは、不満げな顔をしながらもため息をつく。


「カイルのおかげで命拾いしたわね、ライガ!」


「誰がお前なんかに殺されっかよ!」


「なにぃ~!」


 またもや始まる二人の軽口を聞きながら、俺は苦笑した。体は痛むが、なんとなく今までの疲労がなくなった気がする。


 しばらくすると、修練場の方から大きな歓声が聞こえてきた。


「試合、終わったみたいですね。」


 ノアは声の方に顔を向けて、うなずく。


「そうみたいだね!じゃあ、私たちみんなで待ってるから、動けるようになったら来てね!」


「はい、すぐ向かいます。」


「おう!」


 ノアは軽く手を振りながら立ち去った。その後ろ姿を見送りながら、俺たちは再び静かに息をついた。


「……俺たちの試合、どうなるんだろうな、カイル。」


「さぁ……明日、ちゃんとした決着を付けられる場を設けてくれると嬉しいですが、分かりませんね。」


 俺たちが試合のことについて話していると、また一つこちらに向かってくる足音が聞こえた。

 部屋のドアが開くとそこには試験官の男性教師が立っていた。


「先生?どうしたんですか?」


 教師は俺たちを交互に見て、少し考えるような素振りをした後に口を開いた。


「カイル、ライガ。君たちの勝敗は明日、特別試合にて決することが決まった。試合内容は明日伝える、準備を怠るな。」


「はい!」


「おう!」


 薄々考えていたことが、やはりもう一度試合をすることになってしまった。

 魔力もずいぶん消費して、傷だらけの身体で明日ライガに勝つことができるだろうか?いやできないだろうな、獣族の回復力は異常だ。一晩経てば大体の傷は癒えるだろう。


 でも内容によっては俺にも勝機はある。明日に賭けるしかない。


「ライガ、明日の試合、どんな内容が来てもまた全力でいきましょう!」


「おうよ!俺もそう思ってたぜカイル!」


 そう言ってライガは立ち上がり、肩をポキポキと鳴らした。


「立てるか?」


「えぇ、動けます。ギリギリですが。」


 痛む体に鞭打ちながら立ち上がると、ライガがニヤリと笑った。


「さすがだな!それでこそ俺と引き分けた男だ!」


「そう言われると、やっぱり悔しいですね。」


 軽口を叩き合いながら、俺たちは修練場へと向かう。痛む足を引きずりながら歩く俺とは対照的に、ライガの足取りはどこか軽やかだ。明日の再戦が楽しみなのだろう。


 修練場の入り口に差し掛かると、ノアや他の仲間たちが待っていてくれた。


「カイル!ライガ!来た来た!」


 ノアが手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。その後ろにはフェンリの姿も見える。


「二人とも、怪我は大丈夫ですか?」


 フェンリが少し心配そうに声をかけてくる。


「まぁな!俺たちのバトルは伝説級だっただろう?」


 ライガが胸を張って答えると、ノアが苦笑しながら突っ込んだ。


「伝説級っていうより、ただのケンカに見えたけどね!」


「なんだと!?お前、あれを見てケンカだと思ったのか!?」


 ライガが抗議の声を上げると、ノアが肩をすくめて笑った。


「だって本当にそう見えたんだもん!ま、面白かったからいいけどね!」


 そのやり取りを聞きながら、俺はふと視線をフェンリに向ける。


「……フェンリは大丈夫なんですか?」


「はい、なんとか。ダンドーくんの攻撃がまだ痛みますが……。まぁ、とにかく今は休むことが大事です。」


 ノアが明るく場を取り持ちながら、俺たちを誘導するように修練場の片隅に向かった。


 ノアたちと合流したことで、俺たちの緊張が少し解ける。その場に集まった俺たちは、それぞれの試合の結果や感想を語り合い、笑い声が響いていた。


「そういえば明日、俺とカイルまた試合やるんだぜ!」


 ライガが思い出したように皆に自慢し始めた。


「えぇ!?ライガたちの試合は引き分けで終わりじゃないの?!」


 驚いた様子でノアが俺を見る。


「さっき、ノアと別れたあと先生に教えてもらったんです。」


「カイル大丈夫なの!?その傷でまたライガとやるつもり!?」


「大丈夫……と言いたいところですが、正直なところ自信はありませんね。」


 俺はノアの問いかけに苦笑しながら答える。

 体のあちこちがまだ痛むし、魔力も回復しきっていない。だが、やらなければならないのは分かっている。


「おいおい、ノア。そんな心配いらねぇよ。カイルはタフだからな!な、そうだろ?」


 ジャンガが俺の背中をバシンと叩きながら笑う。その一撃が地味に痛い。


「っ!……ジャンガ、少し加減してください!」


 俺が眉をひそめると、フェンリが口を開いた。


「ジャンガ、カイルの回復には時間が必要です。むやみに負担をかけるのはやめてください。」


 フェンリの冷静な指摘に、ジャンガが軽く肩をすくめる。


「おっと、悪ぃ悪ぃ。でもな、フェンリ。明日は本気でぶつかり合うんだ。こんなことでへこたれてたら話にならねぇだろ?」


「それとこれとは話が違います。」


 真剣な顔で反論するフェンリに、俺たちは少しだけ笑みを浮かべた。やはり彼の冷静さは頼りになる。


「それにしても、ライガとカイルの再戦ってどんな内容になるんだろう?」


 ノアが首をかしげながら問いかけてきた。その質問に、俺も少し考え込む。


「試験官が明日説明すると言ってましたが、具体的な内容は教えてもらえませんでした。」


「まさかまた力ずくでやり合えってんじゃねぇだろうな!」


 ライガが笑いながら言うが、それが全く冗談に聞こえないのが怖いところだ。俺たちが黙り込んでいると、ノアが明るく声を上げた。


「ま、どんな試合でもカイルなら大丈夫だよ!フェンリと私でしっかり応援するから!」


「ノアの応援はありがたいですが、明日は集中したいのであまり騒がないでくださいね。」


「え~?そんなこと言わずに!」


 ノアが頬を膨らませるのを見て、ライガがまた大笑いする。


「お前らほんと面白ぇよな!よし、明日も盛り上がりそうだ!」


 その笑顔に、俺は少しだけ不安が和らぐのを感じた。どんな試合内容になろうとも、明日はまた全力を尽くすしかない。

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