24話 退屈な試合
目が覚めたとき、最初に目に映ったのは白い天井だった。ぼんやりと視界を戻しながら、右を向くと、スヤスヤと眠るノアの姿が目に入る。
起こそうと少し体を動かした瞬間、ピキッという鋭い痛みが全身を襲った。
「いっ!!!」
思わず声を上げてしまった俺の声に、ノアが目を覚ました。
「ん……カイル?カイル!!起きた?」
寝起きとは思えない大声で叫ぶノアに、俺は少し驚きながら笑みを浮かべた。
「おぉ、びっくりした。おはようございます、ノア。」
しかし、俺のすました態度にノアは頬をプクーっと膨らませて、少し怒ったような顔で言ってきた。
「もう!心配したんだからね!あんな怖い戦い方!死んだらどうするの!」
「ははは……すみません。」
「もう、笑い事じゃないって!……本当に心配したんだよ?フェンリも、皆も!」
「ははは。」
ノアの叱責は続いたが、次第にその声が心配そうなトーンに変わっていく。その様子を見て、俺は少しだけ申し訳なくなった。
ふと、実技試験のことを思い出して、俺は慌てて質問した。
「あ!そういえば実技試験どうなりました!?俺、どのくらい眠ってたんですか!?」
俺の勢いにノアはキョトンとしつつ、すぐに答えてくれた。
「心配しないで!カイルが寝てたのは1時間くらいだけど……ライガとジャンガの試合が全然終わらなくて、まだ殴り合ってるのよ?!」
「い、1時間も!?」
驚くと同時に、二人の試合がそれほど拮抗しているのだと知り、胸が高鳴る。きっと面白い戦いだろう、見たい。その思いが顔に出たのか、ノアが小さく笑って提案してきた。
「……気になるなら見に行く?」
「はい!」
俺は目を輝かせながら、即答した。
まだ痛む体を少し気にしながらも、ノアの手助けを受けてベッドから降りる。包帯で巻かれた脇腹をそっと押さえつつ歩き出す俺に、ノアはあきれたようにため息をついた。
「無理しないでよ?まだ全快じゃないんだから。」
「分かってます。でも……そんな面白そうな試合、見逃すのは嫌です。」
「面白そう……ね。」
ノアは目を伏せ、バツが悪そうに言い、俺を支えつつ第3修練場へと向かった。フィールドから聞こえてくる地鳴りのような轟音が、俺の期待をさらに高めていく。
のだが――。
修練場へ着くと、そこには試合の熱気とは程遠い光景が広がっていた。
観客席にはダラけた姿勢で試合を観戦している者、隣と雑談を始めている者、さらには観戦席から立ち去ろうとする者までいた。
その異様な雰囲気に首をかしげながら、俺は試合の様子を確認しようと観戦席の最前列へ向かった。
そこで目にした光景に、俺は思わずため息をついた。
紫色の稲妻を纏い、拳を交わし続ける双子。
虎のような小さな耳を持つライガとジャンガの二人は、全身に金色の籠手を装備している。その籠手には紫色の魔石がはめ込まれていて、互いの拳がぶつかるたびに稲妻が散り、派手な閃光が放たれる。
――ただ、それだけだった。
10分経っても、20分経っても、二人は拳を交わし続けているだけ。
変化も工夫もなく、まるで子虎がじゃれ合っているかのように、笑いながらただ殴り合っているだけだった。
「そういうことですか……。」
さっきのノアの言葉がようやく理解できた。
「うん……二人とも、試合が始まってからずっとこんな感じなの。最初はみんな盛り上がってたんだけど、ずっと同じことの繰り返しで、もう飽きちゃって……。」
「それに気づかず、あの二人はまだやり続けている……ってことですか?」
「うん……。」
俺は呆れ果てて頭を抱えた。
どれだけエネルギーを持て余しているんだか、あの双子は……。
時間はどんどん過ぎていき、俺が目を覚ましてからさらに2時間が経過した頃。ようやく変化が訪れた。
ライガの双子の弟、ジャンガがその場に膝をついて崩れ落ちたのだ。
「うおおおおおお!!勝ったぞー!!!!!!」
ライガの大きな雄たけびが場内に響き渡る。彼の体もすでにボロボロで、立つのもやっとといった様子だった。それでも勝利の喜びに満ちた笑顔は変わらない。
しかし、観客席を見ると、すでに誰もいない。
空には月が昇り、修練場に残っているのは俺たち数名だけだった。
「……ライガ・グランファングの勝利……。」
審判が機械的に勝敗を告げる。だが、その声はほとんど寝言のように聞こえた。審判自身も眠気を堪えるのに必死だったのだろう。
そのまま続きの試合は明日に持ち越しとなった。
修練場を後にする俺たちは、どっと疲れた顔で互いを見合わせるのだった。
試合の展開に関しては予想外だったが、ライガの底力と粘り強さを改めて見せつけられた気がする。
それにしても、明日の試合はどうなるのか……少しだけ不安だ。




