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23話 勝敗の行方

 ネイラは、俺の目でも追えないほどの速さで加速し、その速度を利用してフィールド全体に煙幕を張った。

 視界が奪われ、聞こえるのはネイラが動く微かな音だけ。俺はどこから攻撃が来るか分からないまま、必死に思考を巡らせる。


(あの速さ……いつまでも続けられるわけじゃない。どこかで隙が生まれるはずだ。それを待つしかない。)


 時々放たれる風刃や風弾を避けつつ、俺はその瞬間を待った。すると、煙幕の中にうっすらと人影が見えた。


「あそこだ……!」


 俺は迷わずその影めがけて水弾(ウォーター・ショット)を数発放つ。しかし、それはネイラではなく、彼女の魔法で作られた幻影だった。


(幻影の魔法……どこかで見たような……?)


 一瞬の迷い。それが致命的だった。背後から迫る気配に気づけず、後頭部に鋭い打撃を受ける。


「ぐはっ!」


 俺の意識が遠のいた。深い闇に沈み込み、考えだけが虚空を彷徨う世界で、俺は敗北を悟った。


(負け……か?)


 転生してから初めての”本当”の敗北感。悔しさと情けなさが胸に込み上げる。


(膨大な魔力や前世の記憶……そんな恵まれた状態を持ってしても、俺はこんなにも弱かったのか……。)


 思い返せば、自分には覚悟が足りなかった。逃げ道ばかり探していた。


 まだ身体は子供だからだとか、相手は好きな魔法を使えるんだからだとか……そんな甘い言い訳が俺を弱気にさせていた。


 気づくのが遅すぎた。俺には守るべき仲間がいて、背負うべき夢があるというのに、そんな自覚すら中途半端だった。


(もう、俺は逃げない。不利だからって言い訳しない。どんな理不尽があっても、どんな壁があっても、全部乗り越えてやる……!)


 胸の奥に灯った決意が闇を払う。その瞬間、意識が引き戻された。


 目を開けると、見えたのは審判の顔でも医務室の天井でもなく、まだ立ち込める煙幕だった。


(試合はまだ……終わっていない!?)


 俺はすぐに状況を把握し、深く息を吸い込む。

 そして……。


「気づいたぞ……あの動きの弱点!」


 俺の中で迷いは完全に消え去っていた。今こそ、反撃の時!


 煙幕が晴れ、周囲の景色がようやく見えるようになる。

 視界がクリアになった瞬間、フィールド全体に観戦席のざわめきが戻った。


 フィールド中央にはネイラが立っている。やり切ったような表情で息を切らしていたが、観客たちの声に気づいて振り返る。その視線が俺を捉えた瞬間、彼女の目が見開かれる。


「……まだ立てたんですねぇ。」


 驚きの表情も束の間、ネイラはすぐに狂気的な笑みを取り戻す。ただ、先ほどまでの殺気はもう感じられなかった。


「はい……ネイラさんのおかげですよ。」


 俺がそう答えると、ネイラは首を傾げた。


「私、何かしたかしらぁ?」


 俺は血のついた手を軽く振りながら笑みを浮かべた。


「えぇ!俺にとんでもないプレゼントをくれましたよ!」


「それはそれは……よかったですねぇ。それで、まだやる気ですかぁ?」


「はい!このまま終わるのは勿体ない。ようやく、貴女の弱点が掴めたところなんですから!」


 ネイラはその言葉に目を細め、不気味な笑みを浮かべながら言った。


「それは……楽しみですねぇ。」


 次の瞬間、ネイラは再び加速し、その姿を消した。視界から彼女が消えたことで緊張感が再び走る。しかし、俺は既に次の一手を決めていた。


 顔に垂れる血を手で拭い取り、掌に溜めたその血に魔力を流す。水操作ウォーター・コントロールの応用――血を操る。


(血は水より重い。だからこそ、この血で作った盾は水よりも強靭になる!)


 傷口から次々と血を絞り出し、それを魔力で凝縮。正面以外の全方向を覆うように、合計4枚の血水盾(ブラッター・シールド)を形成した。盾が完成した瞬間、ネイラの攻撃が始まる。


 視界には見えないが、耳には彼女が動く音とともに、盾を叩く激しい風弾の音が響く。

 キンッ!キンッ!と鋭い音が連続して鳴り響くものの、盾はびくともしない。


「へぇ……随分と固い盾を作りましたねぇ。」


 どこからかネイラの声が聞こえたが、その姿は依然として見えない。俺は攻撃に備えながらも冷静に分析を続ける。


(血は空気に触れると凝固する。この盾も、時間が経てば操作不能になる。そうなる前に……決める!)


 ネイラはさらに速度を上げ、風弾を撃ち込み続ける。だが、盾は壊れないどころか、音が次第に鈍くなっていく。血が凝固し始めた証拠だ。


(あと少しだ……!ネイラが“アレ”を仕掛けてくるタイミングを狙う!)


 ネイラは次第に攻撃を激化させてきたが、俺はそれを冷静に耐え抜いた。残された時間は少ない。次の一撃が最後の攻防になる――そう確信しながら、俺は反撃の準備を整える。


 しばらく続いた攻防の中、俺の血水盾がついに限界を迎えた。血が完全に凝固し、操作が効かなくなり始めると、次々に盾が崩れていく。


(まずい……!これ以上血を使えば、貧血で倒れる!もうこの手は使えない!)


 俺が動揺を隠しきれない中、ネイラがそれを見逃すはずもなく、最後の一撃を放つべく動き出した。


「もうおしまいにしましょう、カイルさん!これで最後ですよぉ……!」


 ズオッと空気を切り裂く音と共に、猛スピードで真正面から突っ込んできたネイラが杖を俺に向ける。彼女の声が響き渡った。


旋風弾ホワール・ウィンド・ショット!」


 俺は即座にそれを予測して飛び退き、間一髪でかわした。

 旋風弾は俺を捉えられず地面に激突し、ドリルのように回転しながら地面を掘り進んでいく。風圧で髪が大きく揺れる中、俺は冷静に次の一手を仕掛ける瞬間を待っていた。


「ここだぁ!」


 ネイラの魔法の反動で速度が完全に死んだその一瞬を見逃さなかった。俺は掌に残していた少量の血液を魔力で凝固させた塊に変え、魔具を通じてそれをネイラの頭に向かって放つ。


 ゴッという鈍い音が響き、ネイラの体が力なく地面に倒れた。フィールド全体が静寂に包まれる。


「はぁ……はぁ……はぁ。」


 自身の息遣いだけが聞こえる中、審判の声が響き渡った。


「試合終了!勝者、カイル・ブラックウッド!!」


 その瞬間、観客席全体から大歓声が沸き起こった。

 倒れ込んだネイラは仰向けになり、息を整えながら俺に問いかける。


「なんでぇ……分かったんですかぁ……。」


 俺はその問いに素直に答えた。


「ネイラさんの動き、あれは疾風スウィフト・ウィンド で速度を上乗せしていましたよね?ただ、他の魔法を使う時だけ、疾風を解除していた。それで、最後に現れる場所を予測できたんです。」


 ネイラは苦笑するように少し笑みを浮かべた。


「なるほどぉ……さすがですねぇ。でも、私を思い出してはくれませんでしたかぁ……。」


 その言葉に俺は苦笑しながら首を振る。


「いや、途中でちゃんと思い出しましたよ。ダンドーを助けに行くときは、手伝ってくれてありがとうございました!」


「えぇ……!?どこで思い出したんですかぁ……?」


「ネイラさんが幻影の魔法で俺を騙した時です。ダンドー救出のときもあの魔法で助けられましたからね、忘れる方が難しいですよ!」


 俺の言葉を聞いたネイラは、満足そうに柔らかい笑みを浮かべると、そのまま気絶した。すぐに医務室の教師たちが駆け寄り、ネイラを運び出していった。


 長かった1回戦目を終え、俺はフィールドから退場しようとする。だが、突然、体に違和感を覚えた。


「あ……れ?なんだ、この気分の悪さは?」


 ふと脇腹を見ると、ネイラが放った旋風弾が掠ったのか、鋭い傷跡が深々と刻まれており、そこから血がドバっと流れているのを確認した。


「ぶ……!」


 その場で膝をつき、目の前が急激に暗くなる。次の瞬間、俺は意識を失って地面に倒れ込んだ。

 歓声が響き渡るフィールドの中、再び静寂が訪れるのだった。

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