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21話 カイルの作戦

 フィールドには緊張感が漂い、観戦席の生徒たちも息を呑んでいた。俺は火に囲まれたままだったが、焦りを見せずにじっとガイを見据えていた。


「これで終わりだ!」


 ガイの声が響き渡り、特大の火元素魔法が杖の先端に収束していく。その巨大なエネルギーに、観戦している生徒たちも「すごい!!」とざわついていた。


 だが――これは俺が待ち望んでいた状況だった。


「今だ……!」


 俺は自分が仕掛けた罠に意識を集中させた。


 ガイは攻撃に集中しすぎたため、自分の周囲に広がった俺の仕掛けに全く気付いていなかった。

 フィールド全体に蒔かれた水弾やシールドの破片は、俺がわざと戦闘の中で作り出したものだ。そしてそれらが自然と地面に流れ込み、ガイの足元に一つの大きな水溜まりを形成していたのだ。


「行け……!」


 魔具に魔力を注ぎ込む。

 ガイが気付いた時にはもう遅かった。水溜まりから巨大な龍のような形をした水流がガイに向かって急襲した。


「なっ、なんだこれは……!ド、ドラゴン!?」


 水龍が轟音を立てながら突進し、ガイを吹き飛ばした。


「うごおおお!!」


 ガイの悲鳴がフィールドに響き渡る。観戦席の生徒たちも驚きと興奮の声を上げた。


「やった……!」


 ノアは拳を握りしめながら呟く。フェンリも静かに頷いた。

 ガイの体は勢いのまま壁に叩きつけられた。衝撃で杖は手から飛び、転がって遠くに落ちる。


「くそっ……!」


 嗚咽混じりに立ち上がろうとするガイだったが、杖がないため、発動した魔法は狙いが定まっていなかった。

 肩を震わせながらガイが顔を上げた時、俺はガイに歩み寄った。


「もう終わりです。降参してください。」


「く……降参だ。」


 ガイは膝から崩れ落ち、小さくそう呟いた。その瞬間、観戦席から歓声が上がった。


「カイルが勝った!すごいよ!」


 ノアが歓喜の声を上げ、周囲もその健闘を称賛する雰囲気に包まれる。

 俺はガイの言葉を聞くと、踵を返し静かにその場を立ち去ろうとした。


 その背中は一見、戦いに勝利した者の余裕を感じさせるものだった。


 だが――。


「この距離なら……杖がなくても当たる……!」


 ガイの目に宿る怒りと執念。手のひらに魔力を集め始めていた。杖がなければ高度な操作は難しいが、近距離なら発動は可能だと判断したのだ。


「カイル、気をつけて!」


 観戦席からノアの叫び声が響く。それを聞いてすぐ振り向くが、すでにガイの詠唱は完了していた。


「喰らえ!俺の中級魔法、炎爆(フレイム・バースト)!」


 ガイが解放した魔法は、俺の目前で発動しようとした――が、突然その火の勢いが消え去った。


「え……?」


 ガイは自分の手のひらを見つめる。そこには炎の欠片も残っていない。


「なぜだ……なぜ発動しない!?」


 ガイの困惑の中、一つの影がゆっくりと彼に近づいた。声が響く。


「お前の行動は魔法使いにあるまじき行為だ。」


 そこに立っていたのは、試験開始の合図をした体格の良い男性教師だった。その目は鋭く、威圧感に満ちていた。


「試験はすでに終了した。敗北を認めた者が魔法を放つなど、許される行為ではない。」


 ガイは怯えた表情で後ずさりしたが、教師は続けて言葉を重ねた。


「これ以上、この場に立つ資格はない。去れ。」


 その言葉を聞いたガイは唇を噛み、悔しさを滲ませながらその場を後にした。

 俺は静かに息を吐き、試験場を後にする準備を始めていた。


 観戦席のノアやフェンリ、そして周囲の生徒たちが彼に視線を送る中、その背中はどこか重みを感じさせた――それは勝利した者としての責任感か、それとも別の何かだったのか。


 試験の余韻が残る中、次の対戦が始まる準備が進められていた。


 試合を終えた俺は、深い息を吐きながらノアたちのいる観戦席の方へ向かった。

 勝利を手にしたものの、気力も体力もかなり消耗していた。水操作を駆使した最後の一撃はギリギリのタイミングだったが、何とか上手くいった。


「カイル!」


 観戦席に戻ると、ノアが笑顔で迎えてくれた。彼女は席を立ち、俺の方へ駆け寄る。


「すごかったよ!水流であんな攻撃を仕掛けるなんて、全然想像してなかった!」


 彼女の目は輝き、手を取りながらまるで自分のことのように喜んでいた。


「ふぅ……ありがとう。でも正直、ギリギリでしたよ。ガイが油断してなかったら、完全に負けてました。」


 俺は額の汗を拭いながら苦笑する。


「ギリギリでも勝ちは勝ちですよ。それに、あの状況で冷静に戦えるのは十分すごいです。」


 フェンリが近寄り、静かに言葉を添える。その瞳には敬意と共に、僅かな緊張が見え隠れしていた。


「そうだぜ!お前の最後の一撃、めちゃくちゃカッコよかったぞ!」


 少し離れたところからライガが大声で叫んだ。隣にいるジャンガも無言ながら頷いている。


「カイルのあの水流、俺も真似してみたくなったぜ。どうやったらあんなにデカいの出せるんだ?」


「まぁ、すげー魔力量がないと厳しいだろうけどな。」


 ライガとジャンガの軽口に俺は肩をすくめて笑う。


「ジャンガたちも、カイルを褒める前に自分の試合のこと考えといてよ!?」


「おっと。」


 軽い笑いが生徒たちの間で広がる中、俺は少し離れた位置に座るノアの隣に腰を下ろした。


「それにしても、最後のガイのあの魔法……本当に危なかったですよ。」


 俺がぼそりと呟くと、ノアの顔が少し曇った。


「ガイがあんなことをするなんて……普段はもっと礼儀正しい人だと思ってたのに。」


「俺も驚きましたよ。でも、先生が止めてくれて助かりました。」


 ノアは少し複雑そうに口を閉じた後、ふと俺に目を向けてきた。


「カイル。。。。。。なかったの?」


「正直、少しは。でも、それよりも試験に勝ちたいって気持ちが強かったかな。」


 俺の言葉に、ノアは小さく頷く。


「カイルはすごいよ。もっと自信持っていいと思う。」


 彼女の言葉に、俺は少し照れ臭そうに尻尾をモフモフした。


 観戦席の騒がしさが戻り、次の試合の準備が進む中、俺は仲間たちと共に少しの安堵を感じながら試験の続きを見守ることにした。

 まだこの実技試験は半分も終わっていない。だが、この一勝が次に繋がる第一歩になると信じ、俺は静かに息を整えた――。



 ―――。



 試験が進むにつれ、A組の圧倒的な実力が際立ち始めた。5回戦目以降、試合はほとんどが瞬く間に決着がついていく。

 B組のガイが異常に強かっただけで、実際にはA組の生徒たちはこの学園でも生粋の強さを誇る選りすぐりの存在だったのだ。


 ノアやフェンリ、ジャンガ、ライガ、さらにはフィーニャも最初の試合は難なく突破していった。

 ただ、フィーニャについては少々問題があった。彼女は2回戦目でダンドーと当たる予定だったが、試合直前に眠り込んでしまい、不戦敗となったのだ。観戦席で大いに盛り上がる中、俺たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。


 試験開始からおよそ1時間が経過し、残った生徒はわずか12名。

 この12名で最終トーナメントが行われる。中でもA組からは俺、ノア、フェンリ、ジャンガ、ライガ、そしてダンドーが全員残っており、彼らの実力の高さを証明していた。

 他の6名も善戦しているものの、A組の圧倒的な壁を前に緊張感が漂っている。


 ノアたちと雑談しながら次の試合の組み合わせが発表されるのを待っていると、いよいよ新たな対戦カードが決定した。


「俺は1回戦目か、対戦相手は……ネイラ?」


 俺は対戦相手の名前を確認すると、少し首を傾げる。


「ネイラ……どこかで聞いたことがある気がする、誰だ?」


 すると観戦席の遠くに佇む一人の女子生徒がこちらに歩いてきた。地味な黒髪を肩口で切り揃え、無表情で静かに歩いてくるその姿は、あまり目立たない雰囲気だった。


「久しぶりですぅ、カイルさん。」


「え、あ、お久しぶりです……!」


 急な挨拶に俺は思わずぎこちなく頭を下げた。その後、他のカードも次々と発表される。



【2回戦目:ライガ VSジャンガ】

 熱い兄弟バトルが期待され、観戦席がざわめく。二人は普段から互いをライバル視しており、いつも張り合っているだけに、白熱した試合になるだろう。


【3回戦目:ダンドー VSフェンリ】

 ダンドーのパワフルな戦い方に対し、フェンリの冷静な判断力とスピードが試される一戦だ。互いにA組の中でも注目される実力者同士の対決に、誰もが期待を寄せている。


【4回戦目:ノア VSラタン】

 ノアと同じく狼族で、しかも同じ村出身というラタンとの地元対決のカードだ。やや太めの体型ながら、彼の独特な戦術は予想がつかない。村の誇りを賭けた試合になるだろう。


【5回戦目:キヤリテVSズーチ】

 どちらもC組の人族の生徒。いつもたわいない喧嘩をしており、周囲からお似合い夫婦なんて言われている。どちらも冒険者をやっていて実力は確かだ。どっちが勝つか楽しみだ。

 ちなみにキヤリテが男子、ズーチが女子だ。


【6回戦目:ガムシルVSゴング―】

 ガムシルは今回の最終トーナメント唯一のB組の生徒だ。B組ではガイと肩を並べるほどの力の持ち主であり、二人はライバル同士なのだという。ゴング―もD組では優秀な生徒だという。彼は不思議な魔法を得意としているので、奇抜な戦いが期待される。


「どれも面白そうなカードだな。」


 ライガが腕を組んでニヤリと笑う。


「特にカイルとジャンガの試合は全力でいくぜ。手加減はなしだ。」


「もう俺に勝つ前提かよ!」


 ジャンガも負けじと笑い返す。


「まぁ、その前に俺がネイラって人に勝たないと話にならないですけどね。」


 俺が苦笑いしながら言うと、ノアが小声で呟く。


「ちゃんと集中してね、油断するとやられるかもよ。」


 俺は頷きながら拳を握りしめ、試合に向けて気を引き締めた。そして、いよいよ1回戦目が始まろうとしていた。

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