201話 追跡
店主の話を一通り聞いた後、俺はすぐに酒場を後にした。
彼のような男を本当に仲間にできるのかどうかは分からない。だが、少なくともその実力をこの目で確かめる必要がある。
店主の話では、ガルスが依頼を受け始めるのはだいたいこの時間帯らしい。ならば、彼が向かう先は決まっている。俺は足早に冒険者ギルドへと向かった。
街の中心部にあるギルドは、昼時ということもあって多くの冒険者たちで賑わっていた。
入り口から中を覗くと、ちょうどガルスが受付で依頼を受けているところだった。頬の赤みはまだ残っているが、酔いはすっかり覚めたようだ。
豪快な笑い声を上げ、受付嬢と軽く言葉を交わした後、紙を受け取ると踵を返してギルドを出て行く。
俺はガルスに気づかれないよう、距離を取りながら後を追った。
ガルスは街を出ると、一直線に目的地へと向かう。
途中、道端で野菜を売る老婆に適当に小銭を渡し、大きなリンゴをひとつ買うと、それを丸かじりしながら歩いていた。俺は息を潜めながら、その背中を見つめる。
(本当に依頼を受けたのか……?まるで散歩でもしてるみたいだ。)
そう思っているうちに、街を出てしばらく歩いた先に、目的の場所が見えてきた。
大きな岩壁の一部が大きく口を開けたような、暗く不気味な洞窟。その入り口には、古びた木の立て札が打ち込まれており、そこには赤い文字でこう書かれていた。
《危険区域――魔物・魔獣出没注意》
(なるほど、ここが今回の依頼の現場か。)
ガルスはまるで立て札など目に入っていないかのように、何の迷いもなく洞窟へと入っていく。
それどころか、武具の点検をする様子もない。装備といえば、背中に背負った巨大な大剣一本だけ。ランタンも持たず、地図すら持っていないようだった。
(装備もロクに持たずに依頼を受けるつもりか……?)
常識的に考えれば、自殺行為だ。洞窟の奥にはどんな相手が潜んでいるか分からない。普通の冒険者なら、事前に準備を整え、仲間と共に慎重に進むのが当たり前だろう。
しかし、ガルスはそんなことを気にする様子もなく、悠々と暗闇の奥へと姿を消していく。
俺は一度、洞窟の入り口で立ち止まった。ここから先に踏み込めば、ガルスの戦いを目の当たりにすることになる。
だが、それがどれほどのものかは分からない。彼は本当にヒルデア最強の冒険者なのか、それともただの無鉄砲な男なのか。
(……確かめるしかない。)
意を決して、俺はガルスが消えていった洞窟へと足を踏み入れた。
洞窟内は思ったよりも明るかった。
足を踏み入れた瞬間、闇に沈んでいるはずの空間がほのかに照らされていることに気づく。
天井や壁の随所に、淡く黄色い光を放つ鉱石が点在していた。まるで無数の星々が散りばめられたような光景。
危険な場所であるはずなのに、その暖かな光がどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。
(なるほど、これなら松明やランタンがなくても視界は十分に確保できるな)
そう考えながら、俺は慎重に奥へと進んでいく。
しばらく歩いたところで、俺はふと足を止めた。洞窟の床には、真新しい血だまりが点々と広がっていた。壁や天井には獣の爪痕のようなものが刻まれ、所々に巨大な魔獣の死骸が転がっている。
(……こいつは、さっきまで生きていたな。)
その腐臭がまだ漂ってこないことから、ついさっき仕留められたばかりだと分かる。
倒された魔獣の大半は、一撃で頭部を叩き割られていた。胴体が真っ二つになったものもいるが、その切断面は異常なほど鋭い。まるで、凄まじい力を持った武器で一瞬にして斬り伏せられたかのようだった。
(間違いない。ガルスの仕業だ。)
そう確信した矢先、俺は前方に見覚えのある背中を見つけた。ガルスだ。
相変わらず悠然と歩くその姿に、まるで戦闘をこなした形跡が見当たらない。傷一つ負わず、息も乱れていない。
先ほどの魔獣の死骸を考えれば、相当な激戦だったはずだが、まるで散歩の途中に害虫を潰したかのような雰囲気を醸し出している。
(……やはり、只者じゃない。)
そう思いながら、俺はガルスとの距離を保ちつつ、慎重に後を追った。
だが――
「オイ……さっきから俺様の跡をつけてきてる奴、出てこい」
突然、ガルスが立ち止まり、洞窟内に響くほどの低い声を発した。
心臓が跳ね上がる。
(バレてる……!?)
俺は反射的に物陰に身を隠したまま息を潜めた。だが、ガルスは振り返ることもなく、さらに言葉を続ける。
「出てこねェなら――」
鈍い音とともに、ガルスの手が背中の大剣にかかった。
(マズい!)
殺意が滲んだ空気に焦り、俺は慌てて岩陰から飛び出した。
「待ってください!」
叫びながら姿を現すと、ガルスはゆっくりと振り返った。そして、俺の顔を確認するや否や、驚いたように目を丸くする。
「お前ェは……さっきの魔法使いのガキか?」
「はい」
「街からずっとつけてきてたろ。何の用だァ?」
「……気づいてたんですね。」
俺の言葉に、ガルスはニヤリと笑った。鋭い眼光がまるで獲物を見定める猛獣のように、俺の全身を射抜く。
(さて、ここからが本番だ――)
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