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19話 新たな決意と進級試験

 放課後の学園の第1図書館。

 俺は、ノア、フィーニャ、フェンリと一緒に学年末テストに向けた勉強会を開いていた。


 例によって、ジャンガとライガは補習のため不在。二人は勉強よりも戦闘訓練に向いているタイプだが、なんとか一緒に進級したいと思う。とはいえ、俺も他人を気にしている場合じゃない。


 実技試験は内容が明かされていないため対策のしようがなく、今できることは提示された筆記試験の勉強だけだ。

 俺は、選択科目である『獣族歴史学科』の勉強に取り組んでいる。フェンリやノア、獣族の友人たちに彼らの歴史について直接教えてもらいながら学ぶのは、何よりも貴重な経験だ。


 だが、その内容は、知れば知るほど胸が痛くなるようなものばかりだった。



 ―――。



 数千年前、獣族たち含む、人族以外の種族が世界で確認されはじめた頃から、彼らは差別と迫害を受け続けてきた。住む場所を奪われ、石を投げられ、挙句の果てには絶滅寸前まで追いやられた。


「それでも、今は昔ほど酷い状況じゃないんですよ。」


 フェンリが少しだけ救いを感じさせるような口調で話してくれた。それは、人族でありながら獣族を守り続けた、ある英雄の存在があったからだ。


「エリオス・ノワラ――獣族を守った『光の英雄』です。」


 エリオス・ノワラ。

 彼は、この国を築いたノワラ家の祖先であり、獣族を守るために世界中を駆け回った人物だという。その信念は、彼が”ケモナー”と呼ばれるほど獣族を愛していたからだと聞いたとき、俺は思わず笑ってしまいそうになった。


(……でも、わかるな、その気持ち。)


 心の中でそう思わずにはいられない。


 エリオスは、獣族を差別する周辺諸国や組織を次々と潰していき、獣族からは”光の英雄”として讃えられた。

 しかし、その生き方はあまりに異端で、ついには世界から敵視され、命を狙われて殺されたという。彼の死をきっかけに、ノワラ家は獣族を庇う行いを控えるようになった。それでも、最近新しい国王が即位したことで、再び獣族保護の動きが進んでいる。


 美しくも、儚く哀しい話だ。

 胸が少し重くなるような気持ちで、俺は勉強を続けた――


 ――勉強が一息ついた頃、ふと窓の外を見ると、夕日が図書館を黄金色に染めていた。

 美しい光景に目を奪われながら、俺は考え込んでいた。


 俺に、エリオスのように獣族を守ることができるだろうか?

 俺は獣族が大好きだ。彼らを傷つけたいとも思わないし、むしろエリオスのように命を懸けて守りたいとすら思う。でも、それだけじゃない。俺にはどうしても守らなければならないものがある。


 それは「最強」になること。俺にとっても、白井にとっても、譲れない夢だ。


「獣族を守る、親友の夢を叶える……。どっちもやり遂げたい。でも、今の俺には……。」


 俺の胸の中に、無力感が広がる。考え込んでいると、周りの友人たちの姿が目に入った。


 必死にノートとにらめっこしているノア。余裕の表情でテキストを進めるフェンリ。そして、机に突っ伏して寝てしまったフィーニャ。


 ――いつからだろう、こんなにも弱気になったのは?


 頭を振り払い、心の中で呟く。


 考えるだけじゃ何も変わらない。行動を起こして、必死に努力して、その努力が実ったときに、現状は変わるんだ。

 彼らが笑顔でいられる世界を作るために、俺は最強になる。どんな困難があろうとも、この思いを曲げはしない。


 夕日が沈む中、俺は密かに心に誓った。



 数日後――。



 筆記試験の日がやってきた。

 朝のホームルームで担任が一言、「このテスト、失敗したら進級できませんからね?」と釘を刺したとき、教室全体が緊張に包まれた。

 俺も例外じゃない。準備はしたつもりだけど、やっぱりどこか不安は残る。それでも、夜遅くまで続けた勉強会のおかげで、少しだけ自信が持てる気がした。


 試験会場に入ると、机には何も置かれていない。「始め!!」という担任の合図と同時に、机の上に突然テスト用紙が現れた。

 まるで魔法だ。いや、実際魔法なんだけど。


「こんな演出、いるのか?」


 ――と心の中でツッコミを入れながらも、俺はすぐに気持ちを切り替え、目の前の問題に集中した。


 最初のページは基礎的な問題ばかりで、拍子抜けするくらい簡単だった。けど、油断は禁物。次のページをめくると、いきなり応用問題がずらりと並んでいた。


(――あれ、これどっかで見たことあるぞ?)


 ふと頭に浮かんだのは、深夜までフェンリたちと格闘した問題集の一節だった。


「ここ、進〇ゼミでやったとこだ!」


 ――と軽い冗談を思い浮かべながらも、解答を進める手は止めない。


 数問解いたところで、ふと前の席に座るフェンリが目に入った。彼はすでにペンを置き、問題用紙に視線を落としながら、涼しい顔をしていた。


 さすが優等生だな…と感心する一方、焦りも感じる。

 でも、彼みたいにスラスラと解ける頭脳は俺にはない。だから、俺は俺のやり方で全力を尽くすしかない。


 次にノアを見ると、彼女は集中しながらも、ほんの少し口元に笑みを浮かべている。ノアも「ここ〇研ゼミでやったとこだ!」状態なんだろうか? ……まあ、実際は真面目に取り組んでいるだけだろうけど。


 ちらっと横目で見ると、ライガとジャンガが見えた。なんと、二人とも『ペン転がし』をしている。あきれてため息が出そうになったが、今はそれどころじゃない。「お前ら本当に進級する気あるのかよ……。」と心の中で呟きながら、視線を最後の友人へと向けた。


 フィーニャだ。彼女は机に突っ伏して、完全に寝ていた。進級は絶望的だ。


 時間が経つにつれ、教室内の雰囲気が次第に重たくなってくる。俺も後半の問題に差し掛かり、少しだけ迷う場面が増えた。だが、ここで焦ったら元も子もない。もう一度深呼吸して、頭を切り替える。


 数時間後、担任の「終了!」という声が教室に響くと同時に、テスト用紙がまた不思議な魔法で消えていった。

 ふぅ、と長い息を吐いて椅子に深く腰を下ろす。


(終わった……筆記試験はこれで全部終わりだ。)


 教室を出ると、俺たちは自然と集まり、帰り道でテストについての雑談を始めた。ノアは「意外と簡単だったね」と微笑みながら言い、フェンリは静かに頷いている。

 一方、ライガとジャンガは「全然分かんなかった!」と明るく笑い飛ばしていた。フィーニャはと言えば、まだ半分寝ぼけていて、試験については何も言わなかった。


 俺たちは充実感とちょっとした開放感で笑い合っていたが、完全に忘れていたのだ。筆記試験が終わったということは、次はあの未知の領域――実技試験が待ち構えているということを。

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