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18話 進級試験……絶望?

 それから4日後、ついにフェンリが復帰した。

 病室を出たフェンリは、体調が万全になったことを知らせるかのように元気な笑顔を見せた。


「みんな、心配かけました。」


 その言葉に、俺たちは心から安堵した。


 フェンリの帰還はダンドーや他の獣族の仲間たちからも祝福された。獣族の友人たちは、彼の元気な姿を見てホッとしたようだった。

 しかし、その喜びもつかの間、担任教師の放った一言がその場の空気を一変させた。


「さて、みんな。フェンリ君の復帰も喜ばしいですが、大事な連絡があります。」


 クラス全員が耳を傾ける中、担任は続けた。


「今週末から学年末テストが始まります。勉強の準備はいいですか?」


「……あぁぁぁっ!?」


(テスト、忘れてた……。)


 俺は心の中で絶望の声を上げた。


 中間テストのときは、普通に勉強してなんとか乗り切ったが、今回は事情が違う。

 ダンドーのことやエイミーのことなど、出来事が多すぎて、まともに勉強する時間が取れなかった。それはノア、そして復帰したばかりのフェンリも同じだった。


「どうしよう、これ……。」


 俺が頭を抱えると、ノアも苦笑いを浮かべた。


「まあ、座学は壊滅的でも、今回からは実技試験があるんでしょ?そっちでなんとか挽回できれば……。」


 実技試験というわずかな希望にすがるものの、胸中には不安が渦巻いていた。


(このテストをどう切り抜けるのか――。)


 その日から早速勉強を始めた。


 放課後、学園の図書室は生徒たちで溢れかえっており、とても勉強ができる環境ではないため、仕方なく今日は学園から一番近い俺が泊まっている宿で、フェンリとノアと勉強会を開くこととなった。


「へぇ~カイルが泊まってる宿ってここだったんだ!ここの定食おいしいよねぇ~」


 ノアがお腹を擦りながら呟く。

 フェンリはまだ少し痛む身体をゆっくりと曲げ、俺が用意した椅子に座る。


「今は食べる暇はないですよ、ノア!テストまで時間がありません、今回は根を詰めていきますからね!」


 フェンリは毎回テストがあるたびにノアや俺たちに勉強を教えてくれる。彼の知識量は凄く、未発見の元素魔法や魔法の威力がより高くなるためのイメージのコツなどを独学で学んでいる秀才だ。


「それじゃあ始めましょうか。」


 そして、今からそんな秀才――フェンリのスパルタ勉強会が始まる。



 ―――。



 夕日が落ち、月が登ろうとしていた頃、ようやく今日の勉強会が終了した。


「ふぃ~、や、やっと終わったぁ~」


 目をくるくる回しながら机に突っ伏しているノアを「帰りますよ」とフェンリが催促している。


「まだ居てもいいですよ?ノアも頑張ってましたし、少しくらい休ませてあげてください。」


 フェンリは少し眉を下げ困ったような表情をしたが、ついには彼も腰を下ろした。


 しばらく休んでいると、ノアの寝息が聞こえてきた。俺は、これを機にフェンリに聞きたかったことを聞いてみることにした。


「フェンリ…」


 静かに本を読んでいたフェンリが俺に向き直る。


「なんですか?」


 本を机に置き、痛そうな身体をピンと伸ばし姿勢よく座るフェンリを見ながら、俺は静かに口を開く。


「フェンリのあの時の唯一魔法なんですが、」


「はい」


 俺を見据えるフェンリの目は真剣そのものだった。


「”呪いの魔法”かもしれない言ってましたよね…それって本当に呪いの可能性はありませんか?」


「?……どういうことです?」


 俺は知っていることをフェンリに話す。


「俺をこの学園に入学させてくれた恩人、エルドリックさんという人が言ってたことなんですが――」


 俺は昔エルドリックから聞いたことを思い出しながら話す。


「――フェンリの唯一魔法は隠された”本当の力”を引き出す代わりに寿命を削られるんでしたよね?その特徴がエルドリックさんが昔言っていた”ある呪い”と同じなんです。」


「……」


 フェンリは静かに俺の話を聞く。俺は話を続けた。


「その呪いは子孫にも受け継がれるものらしいんです。呪いの名前は命刻(めいこく)の呪いと言い、この呪いを他人に付与できるのは、過去から現在までただ一人――『魔王』だけらしいんです。」


 フェンリは静かに目を閉じ、考えるような動作をしたあとゆっくりと目を開けて呟いた。


「もし、僕たちに受け継がれてきた魔法がその呪いなら……解呪できるのは呪いをかけた本人――つまり魔王ということですね。」


 フェンリはフッと笑いながら立ち上がると、窓の外を眺めるように顔を上げる。


 窓の外には広がる夜空と、学園の静かな庭園が見えた。フェンリは静かに息を吸い込み、言葉を続けた。


「でも、もしその呪いが僕たちの一族に受け継がれているものなら、それを背負うのは僕だけじゃない。僕の家族や同族も、きっと…」


 その声には、普段のフェンリの冷静さにはない揺らぎがあった。


「呪いを解くために魔王を倒す…簡単なことじゃないですね。でも、それが僕に与えられた役割なら、逃げるわけにはいかない。」


 俺はその言葉に胸が熱くなるのを感じた。フェンリはいつも冷静で頼れる仲間だが、その裏で彼もまた、自分の運命に苦しんでいるのだろう。


「フェンリ、俺たちは一人じゃありません。ノアもライガもみんな、フェンリのことを大事に思ってます。だから、何かあったら頼ってください。」


 俺の言葉にフェンリは驚いたような顔をしてから、少し照れくさそうに笑った。


「カイル…ありがとう。でも、君たちを巻き込むわけにはいきません。」


「巻き込むんじゃない、俺たちは仲間です!一緒に戦いましょう。それに今の話を教えたのは俺ですよ?俺はもとからフェンリと一緒に行くつもりでしたから!」


 俺の言葉がどこまでフェンリに届いたかはわからないが、彼は小さくうなずいた。


 そんな会話の最中、机に突っ伏していたノアが寝ぼけた声で呟いた。


「んん…魔王を倒す…?なにそれ、かっこいい話してるの?」


 俺たちは苦笑いしながらノアを起こす。彼女は目をこすりながら、いつもの元気な笑顔を見せた。


「ならさ、みんなで魔王を倒しちゃえばいいじゃん!テストなんかどうにかなるって!」


「ノア…それは、無責任すぎですよ…。」


 俺が呆れると、ノアは笑いながらフェンリの肩を叩いた。


「でもさ、フェンリもカイルも強いし、みんなもいるし、大丈夫でしょ!なんとかなるって!」


 その無邪気な言葉が、少しだけ場を和らげた。


 そしてその後、宿の下にある食事屋でそれぞれ夕食を済ませ、その日は解散になった。


 その夜、宿の静かな部屋で俺は考え込んでいた。


 フェンリの呪い――"命刻の呪い"。

 もしそれが本当に魔王に起因するものであれば、解呪のためには魔王を倒す必要がある。


 しかし、今の俺たちではその魔王に立ち向かうどころか、その気配すら掴むことはできない。フェンリもそれを理解しているからこそ、俺たちは呪いの話を極力話題に出さないようにと決めた。


 だが、俺の胸には燻るような感情があった。


(フェンリの呪いを解きたい。魔王を倒さなくても、それ以外の方法があるなら、それを見つけたい。)


 目の前の友人を救いたいという気持ちは、俺をただの傍観者で終わらせることを許さなかった。


 フェンリの笑顔は、彼自身が背負う重い運命を隠すための仮面かもしれない。

 それでも、彼は仲間である俺たちに心配をかけまいと、前を向いて進もうとしている。その姿が、俺には何よりも痛々しく、そして眩しく映った。


(魔王を倒すことが唯一の手段だとしても、いつかその覚悟を決める時が来るかもしれない。でも、その時までにできることをやらなきゃいけない。)


 俺は拳を力強く握りしめた。



 ―――。



 翌朝、フェンリとノアと再び顔を合わせた時、俺は改めて決意を固めた。大げさな宣言ではなく、心の中で静かに誓う。


(フェンリの呪いを解く方法を見つける。それが魔王を倒すことなのか、それとも別の道なのか――どんな道でも、俺たちみんなで切り開いていこう。)


 青空に輝く朝陽が、俺たちに新たな一日を告げていた。


(そしていつか、俺たち自身の力で、この呪いに立ち向かう日が来るだろう。その時まで、俺たちは進み続ける。)


 そう心に誓いながら、俺は立ち上がり、仲間たちと共に今日という日を迎える準備を始めた。

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