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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第4章 冒険者編 

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125話 現状

 メルムトの街からエグザミート国境までは丸1日程度の距離だが、その道のりは想像以上に過酷だった。


 道中、大型の野生動物や魔獣の襲撃に遭い、そのたびに足止めを食らっていたからだ。


「ルミエラさん!」


「任せな!」


 俺が魔法で援護する横で、ルミエラは素早く接近して魔獣を倒す。これがもう何度目の戦闘だろうか。


 広がる平坦な大地を歩いているはずなのに、この辺りは魔獣の巣でもあるのか、国境までの後半に差し掛かるにつれ、魔獣の出現率が明らかに高くなっていた。


「ふぅ……やっぱりこの辺りは魔獣が多いな。」


 ふいにルミエラが呟いたその言葉が、俺の耳に引っかかった。


「『やっぱり』って……ルミエラさん、エグザミートに行ったことがあるんですか?」


 俺の問いに、ルミエラは頬に付いた魔獣の血を手で拭いながら答えた。


「あぁ、昔何度かね。知ってるかい?あそこの国には風呂ってやつがあってさ――熱いお湯に浸かるだけなんだけど、これがまた気持ちいいんだよ。」


「風呂……ですか?」


 俺は少し目を見開いた。


(風呂だって……!?)


 前世では子供の頃によく風呂に入っていた記憶があるが、この世界では水浴びが精一杯で、風呂なんてものは一度もお目にかかったことがなかった。


「それは、俺も楽しみです!」


 思わず笑顔になってそう言うと、ルミエラがニヤニヤしながら近づいてきた。


「一緒に入るかい?」


「入るか!」


 俺が即答すると、ルミエラは「冗談だってば」と笑い飛ばす。


 そんな軽口を叩いていると、遠くの方でまた魔獣を発見した。


「あ、魔獣ですね。倒しましょう。」


 そう言いながら杖を構える俺を制し、ルミエラが手を挙げて「待て」と声をかける。


「どうしたんですか?」


「……あれは……。」


 ルミエラは目を細め、魔獣の先を見据える。そして――


「人が襲われている。恰好からして商人だ!」


 その言葉に俺は息を飲み、杖を構え直して言った。


「急いで助けましょう!」


 俺たちは全力で走り、魔獣の背後に回り込む。そこにいたのは、この辺りでは珍しい魔獣――サンダーベアーだ。


 その名の通り雷を操る巨大な熊で、全身に雷を纏わせて近接攻撃を寄せ付けない厄介な相手だ。


「……面倒な相手ですね。」


「でも、魔法使いのあんたにはうってつけじゃないか。」


「……えぇ、確かに。」


 俺は魔力を練り上げ、サンダーベアーに向けて正確に魔法を放った――


「ライトニング・スピア!」


 雷の槍がサンダーベアーの雷をかき消し、その巨体を一瞬で貫く。


「……よし。」


 襲われていた商人のもとに駆け寄ると、彼はほとんど無傷だったものの、馬車は見るも無残な状態だった。


 馬は感電死し、商品は炎に包まれて燃え尽きている。


 それでも、商人は命が助かったことに感謝の言葉を口にしていた。


「うぉおおほおおお!助けていただきありがとうございます!本当に死を覚悟しました!」


 そう言いながら頭を深く下げる男の姿を見た瞬間――俺は彼の顔に見覚えがあることに気づいた。


「……カランコロンさん!?」


 俺の言葉に、男は驚いて顔を上げた。そして――


「えっ!?カイル君!?本当にカイル君なのか?なんでここに!?」


「それはこっちのセリフですよ!」


 お互いに驚きながらも再会を喜んでいると、横からルミエラが割り込んできた。


「なんだい?知り合いなのか?」


「はい、この方は――」


 俺がルミエラにカランコロンのことを説明し、その後カランコロンがここにいる理由を話し始めた。


 カランコロンの話によると、彼は半年前にエグザミートに入国し、商売をしていたらしい。だが、現国王の急逝と、それに伴う内乱が原因で事態は一変したという。

 エグザミート国の現国王、ミシュラ・エグザミートの急死で、その後を継ごうとした二人の王子――兄のサランドラと弟のドーラが王権を巡って争いを始めた。


「結局、内戦に敗れた兄のサランドラ王子は逃亡。弟のドーラ王子が王座を奪い、今では彼が事実上の国王だよ。」

「けど、そのドーラ王による政治が酷いものなんだよ。」


 悪政によって国は荒れ、商人たちも自由に商売ができなくなり、カランコロンたちはエグザミートを脱出することにしたという。


「だからね、カイル君……今はエグザミートに行かない方がいいよ。ドーラ王のせいで、国全体が荒れてるんだ。」


 カランコロンはそう忠告してきたが――


 俺はその言葉を聞いても、心は揺るがなかった。


(それでも、俺は強くなるために……。)


「……ありがとうございます、カランコロンさん。でも俺はどうしてもエグザミートに行かないといけないんです。」


 そう答える俺の目を見て、カランコロンは少し困ったような顔をしていた。


「まぁ……君が行くって言うなら止めはしないよ。」


 カランコロンは、少し寂しそうな顔をしながらも真剣な目で俺を見据えた。


「でも、忠告だけはしておく。絶対に――城塞都市カーミラには行ってはいけないよ。」


 その言葉には、冗談や軽口の類が一切感じられなかった。カランコロンがこれほどまでに真剣な顔をするのは珍しい。それだけ、カーミラという場所に何かがあるのだろう。


 俺はその眼差しを正面から受け止め、静かに頷いた。


「分かりました。カーミラには絶対に行きません。」


 その言葉に、カランコロンは少し安堵したように息をついた。だが、その目にはまだ心配の色が残っている。


「本当に、気をつけるんだよ……。」


 そう言うと、カランコロンは懐から小さな笛のようなものを取り出した


「それは……?」


 俺が尋ねると、彼は淡々と説明を始める。


「これは『呼び笛』の魔具だよ。この笛を吹くと、『呼び笛』と対になるように作られた『負い笛』の魔具に音が届いて、私の位置を知らせる仕組みなんだ。」


「……すごいですね、それ。」


 感心していると、カランコロンはその笛を思いっきり吹き鳴らした。


 笛の音は澄んだ高音で、遥か遠くまで響いていく。その音色には不思議な力が込められているようで、俺の耳にも特別な響きを残した。


 数秒後、遠くの方から同じような音色が返ってきた。


「ほら、聞こえるだろ?あっちの方向に『負い笛』を持った商人仲間がいるんだよ。」


 カランコロンは笛をポケットにしまうと、立ち上がり、尻についた土を払った。


「じゃあ、私はそっちへ向かうよ。カイル君も気をつけてね。」


 俺も立ち上がり、軽く頭を下げて言った。


「分かりました。お気をつけて。」


「ありがとう。それじゃあ、またどこかで会おう!」


 そう言い残し、カランコロンは手を振りながら歩き出した。

 カランコロンとの別れは、いつもながらあっさりしていた。


 以前もそうだったが、彼ら商人には独特の別れ方があるのだろう。必要以上に感傷に浸らない。それが商人としての流儀なのかもしれない。


 俺はカランコロンの背中が小さくなるまで見送り、それから振り返った。俺の視線の先には、エグザミート国境への道が続いている。


「……行くのかい?」


 横を歩くルミエラが、前を見たまま静かに問いかけてきた。その声には、どこか俺の覚悟を試すような響きがあった。


「はい。」


 俺は一歩前に進みながら、しっかりとした声で答えた。


「俺は強くならなきゃいけないんです。こんなことで怖気づいていたら、いつまでたっても強くなんてなれませんよ。」


 ルミエラは少し目を細め、口の端をわずかに持ち上げて笑った。


「そうかい。じゃあ、行こう!」


「はい!」


 俺たちは再び歩き始めた。

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