124話 そしてエグザミート国へ
あれから、早くも半年の時が経った。俺とルミエラは、この半年間も地道に冒険者稼業を続けて金を稼いでいた。
まさか再び金貨を100枚貯めるのに、こんなに時間がかかるとは思わなかったが。
「半年もかかるなんて……計算が甘かったのか。」
金貨を数えながら、俺は大きくため息をつく。隣で酒を飲むルミエラは、あっけらかんとした顔で言った。
「しょうがないよ。だって、あんたがこの街に来たときはちょうど依頼がバンバン入る時期だったんだから。それが過ぎたら、あとは冒険者たちの生き残りゲームってもんさ。」
ルミエラの言う通り、あの最初の好調な時期が終わってから、ギルドでの依頼は激減した。それに伴い、少ない依頼を巡って冒険者同士が熾烈な争奪戦を繰り広げるようになった。
(冒険者稼業も過酷なもんだよな……。)
そんなことを考えつつ、これまでの半年を振り返る。
この半年間、俺たちの周りだけでなく、世界全体でもさまざまな出来事が起きた。
その中でも最も大きな話題となったのが、『勇者』一行の全滅だ。
『蒼銀の翼』――世界的に有名な冒険者パーティーであり、『勇者』と呼ばれる男、レインを中心とした4人組の冒険者だった彼らが、六星魔王の一人『畜生道のヴァルガルン』の討伐に挑み、全滅したという噂だ。
六星魔王に挑むなんて、命知らずもいいところだ。
この話題は、瞬く間に世界中に広がり、俺たちが滞在しているメルムトの街にもすぐに届いた。街中では、彼らを敬う者たちで溢れかえり、酒場や広場でその勇敢な戦いを語る者たちが後を絶たなかった。
魔王に挑み、そして散っていった者を敬う……この世界ではそれが常識らしい。
俺はその流れに違和感を覚えながらも、どこか遠い存在のように感じていた。
他にも気になる話がいくつかあった。
例えば、『魔獣使い』ビスマーが、ある国に潜伏しているという噂だ。
「ビスマー……あの男か。」
この名前を聞くたびに、俺の胸にはかすかな痛みと疑問が広がる。
学園時代からずっとその名を聞いてきたが、実際に姿を見たことはない。それでも奴の手先によって集められた獣族の子供たちを、俺たちが救出したあの日のことは鮮明に覚えている。
「……あの子たち、元気にしてるかな。」
あのとき救出した獣族の子供たちは、ノワラの兵士たちに引き渡され、その後どこかへ護送された。ノワラの国王は大嫌いだが、獣族に対しては比較的寛容な態度を取るところだけは評価できる。
(どうかあの子たちが幸せでいることを願うしかない……。)
そうそう、もう一つ。
どうやら俺に懸賞金がかけられたらしい。
金貨50枚――それなりに高額な賞金だ。それだけ俺を捕まえたい理由があるということだろう。
だが、懸賞金をかけている割には、不思議なことがいくつもあった。
懸賞金の掲示には、俺の名前『カイル』以外の情報が何一つ載っていないのだ。
家名、顔、年齢――どれも記載されていない。
「……名前だけで探させる気かよ。」
『カイル』なんて名前、この世界中にいくらでもいる。俺を本気で捕まえたいのか、それともただのお飾りなのか――その意図が掴めない。
(まぁ、簡単に捕まるつもりはないけど。)
しかし、ノワラが俺を探し出そうとしているのは明らかだ。何か大きな目的があるのだろうか?
半年かけて金貨100枚を再び貯めることができた俺たちだが、そこに至るまでには数多くの苦労があった。
冒険者稼業の厳しさを身をもって感じながらも、俺は少しずつ成長している。
「ルミエラさん、次は本当にエグザミートに行けるんでしょうね?」
俺が確認すると、ルミエラはニヤリと笑って言った。
「もちろん!もう借金はないよ!それにあんたも、準備はできてるのかい?」
「当たり前です。」
俺は自分の荷物をまとめながら、ふと思った疑問を口にする。
「そういえば……ルミエラさんもエグザミートに行く感じでしたけど、何か目的があるんですか?」
俺の問いに、長いブーツを履きながら彼女は答える。
「いんや?特に目的はないよ。」
「え?」
思わず声を漏らす俺に、ルミエラは笑いながら胸を張った。
「あたしたちは仲間だぜ?仲間が行きたいってところになら、どこにでもついてくのが冒険者パーティーってもんだ。」
その言葉に、俺は少し意表を突かれたが、どこか温かいものを感じた。
「……そういうもんですかね。」
ルミエラらしいと言えばそうだが、それでも、ただ自分について来るために行くあてもない旅路を選ぶその自由さが、俺には少しだけ羨ましくもあった。
そして――俺たちは、深夜の静けさの中、メルムトの街を発った。
半年も滞在した街だ。心残りがないと言えば嘘になる。
仲良くなった奴もいたし、一緒に依頼をこなした冒険者たちとの思い出もある。飯を奢ってくれた奴、逆に俺が金を貸した奴もいた。
「あぁ……返してもらえばよかった……。」
思わず口に出し、苦笑いする。だが、今さら戻る気にはなれない。
「何ブツブツ言ってんだい?」
「いえ、何でもありません。」
「ふぅん?」
少し前を歩くルミエラが振り返り、怪訝そうな顔をするが、俺は適当に流した。
街の門を抜けて振り返ると、薄明かりの中でメルムトの街が小さく見えた。その光景に少しだけ感傷的な気分になる。
(ここには色々な思い出が詰まってるな……。)
最初は何も知らずに足を踏み入れた街だった。だが、冒険者としての経験を積み重ね、多くの人と出会い、俺にとって一つの“拠点”と言える場所になった。
街の明かりが小さくなるにつれ、そこに残る思い出がどんどん遠ざかっていくように感じる。
(俺の旅が終わったら……またこの街に戻ってくるのも悪くないかもしれない。)
そう心に決めると、俺は静かに街に背を向け、エグザミートへの第一歩を踏み出した。




