閑話 大人の階段上る?
どれくらい時間が経ったのだろうか――。ぼんやりとした意識の中で、見覚えのある天井が視界に入った。ここは確か……俺の泊まる宿の部屋だ。
(……影狼を倒して……そのあと……あれ?俺、どうしたんだっけ?)
頭の中で記憶を辿っていたその瞬間――全てを思い出した。
「……あ!!」
俺は声を上げ、一気に身体を起こす。すると、部屋の扉の方から冷たい風が吹き込み、肌寒さを感じた。
(なんだかやけに寒いな……)
そう思った次の瞬間、自分が裸であることに気づいた。
「……なんで裸……?」
驚きつつ、慌てて掛布団を上半身まで引き上げようとしたが、何かに引っかかって止まる。
(……なんだ……?)
嫌な予感が胸をよぎりながら右側を見ると――そこには、全裸のルミエラがぐっすり眠っていた。
「……うっわ……」
思わず言葉が漏れる。幸いなことにルミエラは深い眠りについているようだったが、その無防備な姿に目を逸らさざるを得ない。
(なんでこんなことになってるんだ!?どう考えてもおかしいだろ……!)
俺は動揺しながらも、ルミエラを起こさないようにゆっくりとベッドを抜け出した。
床に散らばったルミエラの服や小物をかき分けながら、自分の服を探す。裸の状態でここにいるのは、とにかく精神的に無理だ。
しかし、服を手に取った瞬間、背後から声が聞こえた。
「ん……」
俺は心臓が跳ねるような感覚を覚え、ビクッと振り返る。だが、ルミエラが寝返りを打っただけだった。
(危ない……!でも、早くここから出なきゃ!)
俺は急いで着替えを済ませ、部屋の隙間だらけの扉へと向かう。扉を開けるときに少しだけ考えたが、思い切って全開のまま放置することにした。
(せいぜい風邪でも引けばいいんだ……!)
そう自分に言い聞かせ、俺は二階から一階へ降りる階段を駆け下りた。
一階の食堂兼カウンターには、数人の宿泊客や冒険者たちがいた。皆、朝食をとったり会話をしたりしていて、いつも通りの風景だ……と思ったのも束の間。
俺が「おはようございます」と挨拶をすると、返ってきた声には明らかにぎこちなさが混じっていた。普段は明るく返してくれるはずなのに、どうにも反応が微妙だ。
(……なんだ?何か変だぞ?)
不審に思っていると、カウンターに立っていた店主が苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。
「お前……昨日はすごかったな……。」
「え?」
俺はまったく心当たりがなく、困惑したまま店主を見つめる。
「覚えてねえのか?」
店主は首を傾げながら言葉を続ける。
「……いや、覚えてないです。よければ昨日のことを教えてくれませんか?」
俺がそう答えると、店主は「お前、本当に覚えてねえのか……」と呆れたようにため息をついた。そして――信じたくない話が語られ始めた。
店主曰く、影狼の討伐を終えたと言う俺とルミエラは、宿に戻ってくるや否や、ルミエラが店内で大声を上げたらしい。
「今日は祝いだ!!ヤりまくるぞ!!」
しかも、それに対して俺も全力で応えていたそうだ。
「うおおおおお!!!今日はやるぞおおお!!!」
(は!?記憶にないんだけど!?)
その後、二階の部屋からはものすごい音が響き渡り、揺れるような振動が伝わってきたらしい。店主を含む一階の宿泊客たちは気まずい思いをしながら耐えていたとのことだ。
「おかげで、他の客もみんな飯も喉を通らず、早々に部屋に引っ込んじまったよ……。」
店主は苦笑いを浮かべながら、俺をじっと見た。
(……いやいやいや、何それ!?本当に記憶にないんだけど!?)
心の中で叫びたい気持ちを必死に抑えつつ、俺はなんとか平静を装おうとした。しかし、他の宿泊客たちの視線が痛い。全員が微妙な表情で俺を見ている。
「……いや、えっと、その……昨日は疲れてて……」
俺が曖昧に言い訳をすると、店主はふっと鼻で笑った。
「まぁいいさ。これ以上変なことしないなら、俺も気にしない。だが……今度から酒はほどほどにしとけよ?」
「……酒?」
「お前らが帰ってきたとき、二人ともべろんべろんに酔っててよ、にそりゃ記憶も飛ぶわな。」
俺の記憶はバカになるポーションを飲んでから完全にブツッと途切れている。ルミエラの仕業であることは明白だが――
(くそ……あいつ、ヤるところまでやりやがった……!)
俺は拳を握りしめながら、ルミエラへの復讐を決意した。
「とりあえず、朝飯食ってけよ。」
店主が出してくれたパンとスープを前に、俺は複雑な気持ちを抱えながら座り込んだ。
(……影狼の討伐は成功したけど……俺の冒険者としての信用、大丈夫なのか?)
周囲の視線が痛い。冒険者として生きるためには信用が第一だが、こんなことが続けば、俺の評判は地に落ちるかもしれない。
あの魔女…絶対に許さない。
小さく呟き、俺は硬く決意をする――。




