11話 実践
俺は数か月の学園生活の中で、ノア以外の獣族とも仲良くなっていった。
まず、灰色狼族のフェンリ。
彼は俺の4つ上で、なんと特殊元素魔法である『魔力探知』が得意なのだ。ぜひ俺が12歳になったら教えて貰おう。
次は、猫族のフィーニャ。
彼女は俺と同い年だ。これといって特徴と言えるものは無かったが、よく頭を撫でさせてくれるので親しくしてもらっている。最近の俺の癒しだ。
そして、虎族のライガとジャンガの双子兄弟だ。
二人ともまだ13歳だが逞しい筋肉をお持ちで、さらに特殊元素である雷元素の魔法がすごく得意なのだそうだ。そんな二人とはよく筋肉で語り合っている。
っと、なぜここで友人たちの紹介をしたのかと言うと――現在俺たちは魔獣が蔓延る森に入ろうとしているからだ。
―――2時間前。
学園で数か月過ごし、俺はすっかりここの雰囲気に慣れ、うたた寝をしていた。
「皆さんがこの学園に来てから半年が経ちました!そこで!今日から実践的な授業に移りたいと思っています!」
この言葉を聞くまでは。
魔法学園で行われる実践的な授業といえばアレしかない。
しかしこのクラスの三分の一が12歳以下で魔法を使うことが許されないってのに一体どうするのだろう。
「先生、実践的な授業と言うと魔法を使用するということですよね?12歳以下の人はどうするのでしょうか?」
ここで、クラスの生徒から教師に質問が飛ぶ。
その質問に、教師が待ってましたと言わんばかりに説明し始めた。
「12歳以下の生徒には学園から魔具を貸し出し、その魔具の力をどれほど引き出せるか……つまり魔力操作の観点でこれから評価を付けるつもりです。」
「なるほど、ありがとうございました。」
魔法はダメだけど魔具は使って良いのか。
――そういえば魔時計使ってたわ俺。
「授業内容は、この街の南門を出たすぐ近くにある中型魔獣が巣食う森『古の森』にしか生息していない魔獣鹿の角を、6人1組のグループに分かれ持ち帰ってくるというものです。」
「それではグループ分けをそれぞれ行ってください。」
教師の合図で、生徒たちがグループを分け始めた。
当然俺もその輪に入ろうとしたが「獣族と仲良くするやつはグループに入れたくない。」と言われ、落ち込みながらも、しぶしぶ離れる。
ノアたちの尻尾に慰めてもらおうと、獣族が集まる輪へ入ると、待ってましたと言わんばかりのキラキラした目で歓迎された。
ここはあったかいね。
「私たちはカイルが来てくれて嬉しいよ!」
ノアの尻尾に包まれ至福の時を味わう。
「カイルはもうグループ決まったか?」
「まだなら俺たちのところ入れよ!」
「ぜひそうしてください!僕たちも助かります!」
「フィーも嬉しー。」
ライガとジャンガの兄弟が俺を優しく誘ってくれて、フェンリとフィーニャも受け入れてくれた。人族にハブられている俺にとって断る理由もないので快く受け入れた。
俺たちのグループはノア、フェンリ、フィーニャ、ライガ、ジャンガ、そして俺で構成された――『モフモフムキムグループ』だ。
俺たちに勝てるグループはいないだろう。
グループが決まったら、12歳以下の生徒は教師から初級四大元素魔法のどれかが扱える腕輪型の魔具をランダムで支給された。
俺は水元素の魔具でフィーニャは土元素、ノアは火元素の魔具を支給された。
グループ決めと魔具の支給が終わったら各々学園を出て南の森へと向かった。
「この森、け、結構怖いね…。」
「な、なにビビってんるですかノア…ほら早く前進んでくださいよ…。」
「ちょ、ちょっとフェンリが一番年上でしょ?年下を先に行かせる気?」
(何やってんだ…あの二人は。)
ノアとフェンリが言い合っているのを尻目に、俺と双子はずんずん森へと入っていった。フィーニャも俺たちの後を着いてきている。
「つーかアルダンディアってどこにいるんだ?兄ちゃん知ってるか?」
「いーや知らねえ、誰か知ってるか?」
「この森の中ならどこにでも生息しているらしいけど、アルダンディアって自分の縄張りの近くの木を角で擦ってマーキングする習性があるから、それを探す方が早いかも!」
いつの間にか合流したノアが答えてくれた。
流石A組でトップクラスに頭が良いノアだ、授業でちょびっとしか説明されなかったアルダンディアの習性を暗記している。
俺たちは三手に別れ、手分けしてマーキング跡を探すことにした。何かあれば魔法で音を出して自分たちの位置を伝えるようにした。
そして、俺はフェンリと行動することになった――
――しかし、数十分マーキング跡を探したが全然見つからなかった。
「全然見つかりませんね、マーキング跡。」
「……この辺りはまだ森に入ってすぐの場所ですから、アルダンディアは狩りつくされているのかもですね。もっと奥に行かないといけないかな……。」
ここで、俺は思い出したようにフェンリに質問した。
「そういえば、フェンリの魔力探知ってアルダンディアに使えないんですか?」
「あ。」
この反応は、完全に忘れていた反応だ。
フェンリは頭が良く、知識は多い方なのだが、よく物事を忘れることある。
「ちゃんとしてくださいよ。もー!」
「す、すみません、うっかり…忘れていました。」
恥ずかしそうに頭を掻いたあと、フェンリは咳払いをして魔力を練り始めた。
「んんっ、では少し時間が掛かりますが…魔力探知!」
フェンリが魔法を唱えると、周囲を漂う魔力の流れが変わった。
一つの魔力流れが一本の線になり森の奥へと伸びていく。周囲を見ると、同じような魔力の線が同じように森の奥へと伸びていく。
フェンリの魔力探知へのイメージががなんとなく分かった気がした。
しばらくすると、周囲を漂う魔力の線が一つに絞られた。この線が伸びる先にアルダンディアがいるのだろう。
「カイル!アルダンディアの魔力を探知できました!こっちです!」
線が伸びる方へとフェンリに案内される。1分程走ったところでようやくアルダンディアのマーキング跡を発見した。
「フェンリ、ここにマーキング跡があります。おそらくアルダンディアの縄張りです。ここからは歩いていきましょう。」
アルダンディアの縄張りに入った俺たちは慎重に周りを警戒しながら魔力の線が伸びる方へと歩く。
「……?カイル。も――」
ガサガサッ
フェンリが何か言い掛けたが草を掻き分ける音に遮られた。
「アルダンディアですか……?」
「はい……魔力探知はあそこの草陰を指しています。」
俺に見えている魔力の線も、目の前の草の奥を指している。アルダンディアに間違いない。
「どうやって捕まえます?」
俺が聞くと、フェンリが冷静に答えてくれた。
「アルダンディアは逃げ足が中型魔獣の中でトップクラスに速いので、まず足を攻撃して動きを鈍らせましょう。そのために、あの草から姿を現すのを待つしかないですね……。」
「了解。」
そして、数秒ほど木の陰で待っていると、アルダンディアが草むらから出てきた。
その姿は俺の知る鹿の姿ではなく、赤く鉱石のような光沢をした角を持ち、全身の毛は黒く深く、まるで悪魔を連想させるような不気味な姿だった。
「あれがアルダンディア……。」
「カイル!僕が前足を狙うので君は後ろ足を!」
「分かりました!」
フェンリの指示に従い、腕の魔具に魔力を通わせる。魔具の中央にはめられている青色の石が俺の魔力を吸い取り、発動の準備は完了した。あとは詠唱するだけだ。
「準備できました!」
「それでは1、2の3で同時に撃ちましょう!行きます!1、2の……3!!」
「水弾!!」
「風刃!!」
フェンリと息を合わせて、俺は水弾を放った。フェンリの風刃と同時に放たれた魔法は、アルダンディアの前後足に向かって飛んでいく。
風刃がアルダンディアの前足をかすめ、傷をつけると同時に、俺の水弾が後ろ足に命中した。アルダンディアが一瞬たじろぎ、足元がふらつく。
「よし、今だ!これで動きが鈍った!」
「ナイスです、カイル!引き続き、足を狙い続けましょう!」
俺たちの息はぴったりだ。
だが、そのときアルダンディアが驚異的な力で踏ん張り、赤い目をギラつかせて俺たちに向き直った。どうやら一撃で弱らせるのは無理なようだ。
「まずいですね、もう少し攻撃が必要のようです……!」
すると、後ろから双子のライガとジャンガが駆けつけてきた。彼らは俺たちがアルダンディアを攻撃したときの音を聞き取り、助けにきてくれた。
「「カイル!俺たちも援護するぜ!」」
「助かる!」
二人は息を合わせて、腕を交差させながら雷元素の魔法を発動させる。小さな雷が彼らの拳に集まり、目にも留まらぬ速さでアルダンディアの体に打ち込まれる。
「「ダブル雷撃拳!!」」
雷の一撃を受けたアルダンディアはさらに動きを鈍らせたが、その力に負けじと耐えている。まるで怯むことを知らないかのようだ。
そのとき、フィーニャが駆け寄ってきた。彼女も土元素の魔具に魔力を流して始めている。
「カイル!フィーも手伝う!」
「ありがとう、フィーニャ!」
彼女が指先で土を握りしめ、土壁と叫ぶと、アルダンディアの進行を阻むように地面から壁がせり上がる。それがアルダンディアの足元に隙間を作り、俺たちに新たな攻撃のチャンスを生み出してくれた。
「いいぞ、これで確実に動きを封じられます!」
みんなの力を結集し、最後の一撃を狙う瞬間、ノアが鋭い声を上げた。
「カイル、決めるよ!これで終わらせよう!」
ノアが魔具に魔力を通わせ、火元素魔法の準備をする。俺も魔力を集中させ、水弾を撃つ用意をする。
「今だ、同時に!」
「行くよ、カイル!」
「水弾!!」
「火球!!」
俺たちの魔法がアルダンディアに命中し、ついにその足元が崩れ落ちる。倒れ込むアルダンディアはゆっくりと息絶え、動きを止めた。
「やった、成功だ!」
全員が息を合わせ、見事にアルダンディアの角を手に入れることができた。仲間たちはお互いに笑顔で頷き合い、緊張が解けたのか、ノアが真っ先に俺の背中を叩いてきた。
「カイル、すごいじゃない!あんたがいなかったら無理だったかもね!」
「いや、全員がいたから倒せたんですよ!」
俺たちはみんなで笑い合い、アルダンディアの角を手にした達成感に浸りながら、学園へと帰路についた。




