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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第4章 冒険者編 

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112話 魔女と呼ばれる女

 依頼をこなし、ついでに肉食植物を討伐した俺は、急ぎ足でギルドへ向かった。しかし、到着したときにはすでにギルドの扉は固く閉ざされ、建物内には明かり一つ見当たらなかった。


 ギルド前のベンチでは、おっさん冒険者たちが酒瓶を片手に晩酌を楽しんでいる。俺を見るなり、彼らは大声で笑い出した。


「がっはっはっは! ギルドはもう閉まっちまったぞ! おい、坊主、お前今夜どうすんだよ!」

「野宿しかねぇな、ははは!」


 俺は心の中で舌打ちしながら、言い返すこともせずその場を離れた。確かに文句のつけようがない。


 その夜、俺は近くの木陰で野宿をする羽目になった。風は冷たく、火を起こそうとしても強風であっという間に消されてしまう。濡れた草や土のせいで地面の冷たさがじわじわと身体に染み込み、次第に指先の感覚がなくなっていった――。



 ―——。



「……死ぬかと思った。」


 俺は寝不足と寒さで体力を削られたまま、夜明けとともにギルドへと向かった。扉が開く時間に合わせて入ると、昨日と同じ受付の女性がカウンターに立っている。


 俺の姿を見るなり、彼女の顔が引きつった。


「ま、まずお湯をお持ちいたします!」


 彼女は急いで奥へと消えていき、すぐに湯気の立つカップを手に戻ってきた。俺は感謝しながらそのお湯で凍った指先を温める。湯気が身体にまとわりつき、少しずつ血の巡りが戻っていく感覚がした。


「ありがとうございます。おかげで凍死せずに済みました。」


「それはよかったです。昨夜は火も起こせないほど風が強かったでしょう?」


「ええ。風で火が消えたときは、正直死を覚悟しましたね……。」


 俺が苦笑いを浮かべながら答えると、彼女も軽く笑った。しかし、その表情には心配がにじんでいる。温まった俺は気を取り直して報酬の受け取りのためにカウンターへ向かった。


「依頼達成の確認をお願いします。」


 懐から包みを取り出し、丁寧に開いて中の神泉花を5本取り出してカウンターに置く。それと同時に、もう一つのアイテム――肉食植物から採取した魔石も一緒に置いた。


「これは……?」


 受付嬢が不思議そうに魔石を手に取り、首をかしげる。


「ああ、それは神泉花が生えていたところにいた魔物の魔石です。」


 そう説明すると、彼女の目が一瞬大きく見開かれた。


「えっ!? あの丘の魔物を討伐したんですか!?」


 彼女の驚きの声はギルド全体に響き渡った。その場にいた冒険者たちが一斉にこちらを振り返り、ざわざわとした空気が広がる。


「え……倒したらまずかったですか?」


 俺が恐る恐る尋ねると、彼女は言葉に詰まりながら答えた。


「い、いえ……倒したこと自体は問題ではありませんが……あの魔物は非常に危険で、普通はベテラン冒険者でも手こずる相手なので……」


 その言葉を聞いた瞬間、背後から野太い声が響き渡った。


「おいおい、待てよ。その魔物をお前みたいなガキが倒しただぁ~?」


 振り返ると、屈強な体つきをした男が立っていた。彼の肩幅は俺の倍以上もありそうで、鋼のような腕が交差している。装備は豪華な金属製で、見るからに高ランクの冒険者だというのが分かる。


「なんですか?」


 俺が少し威圧的に言葉を返すと、男の目が鋭く光った。


「あぁ? おいおい、ガキがいい気になるんじゃねぇぞ! 証拠を出してみやがれ!」


「証拠?」


「お前がその魔物を本当に倒したって証拠だよ! まさか、この魔石ひとつで俺たちを信じさせるつもりじゃねぇだろうな?」


 彼の言葉に、周囲の冒険者たちも興味津々といった様子でこちらを見ている。俺は肩をすくめながら答えた。


「証拠ならこの魔石だけで十分では?疑うなら、あなたがあの丘に行って確認してくればいいじゃないですか。死体くらいならまだ残ってるはずです。」


「この生意気なガキが……!」


 男が拳を握りしめ、怒りをあらわにする。しかし、その場にいた他の冒険者たちが止めに入った。


「まあまあ、落ち着けよ。ガキが本当にやったかどうかはともかく、こんな話、久々に聞けて面白ぇじゃねぇか。」


 周囲の冒険者たちが笑い始める中、俺は呆れながら受付も女性に視線を戻した。


「……とりあえず、依頼分の報酬はいただけますか?」


 受付の女性は苦笑いを浮かべながら、手続きを進め始めた。周囲のざわつきは続いていたが、俺は気にしないように、手続きが終わるのを待っていた。



(早くここから出よう。)


 ギルドの喧騒の中、俺は報酬を受け取ると、そそくさと立ち去ろうとした。これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。しかし、背後から声がかけられる。


「少しいいかい。」


 声の調子からして女性らしいが、俺はため息をつきながら振り返る。


「なんですか? まだなにか文句でも――」


 言い終わる前に、それは起きた。

 突如として俺に向かって火の球が飛んできたのだ。


「うっわ!」


 反射的に水元素魔法を発動し、水の膜を張ることで火球を消し去る。俺が目を向けると、杖をこちらに向けている女が薄ら笑いを浮かべていた。


「……なにするんですか!」


 怒りを抑えきれずに声を荒げる俺。だが、女はまるで聞く耳を持たない。杖を下ろしながら、静かに俺を値踏みするような目つきで見ている。


 周囲でその一部始終を見ていた冒険者たちがざわつき始めた。


「おい! あのガキ、『魔女』の攻撃を防ぎやがったぞ!」

「ただ者じゃねえな……」

「はぁ…魔女様…素敵。」


 一部に妙な反応を示している女冒険者もいたが、今はどうでもいい。俺が集中すべき相手は、目の前で不気味な笑みを浮かべているこの女だ。


「ほう……良い反応速度だ、それに魔力の操作も優れている。」


 彼女はそう言いながらゆっくりと歩み寄ってくる。


「どうだい? 坊や、あたしとパーティーを組まないかい?」


 予想外の提案に、俺は困惑しながら即座に言い返した。


「誰が自分を殺そうとした相手とパーティーを組みたがるんですか?」


 しかし彼女は俺の言葉を気にも留めず、豪快に笑い出す。


「はっはっは! 坊やほどの腕なら気づいてるだろう? さっきの攻撃に魔力なんてほとんど籠めてなかったことに。」


「……」


 たしかに。俺が咄嗟に展開した水の膜は、練り込む暇もなく作った欠陥品の魔法だった。それでも火球を防げたということは、女の魔法にはほとんど魔力が込められていなかったということになる。つまり、彼女に俺を殺す意思はなかったのだろう。


 だが、殺意がなかったからといって、同じ冒険者を攻撃するのはこの世界――いや、ギルドでは明確に禁じられている行為だ。そんなことをすれば当然――


「ちょっと! なにやってるんですか!?」


 ギルドの奥から複数の職員が駆けつけてきた。険しい表情の職員たちは、彼女を取り囲むようにして詰め寄る。


「規則違反ですよ! ギルド内での冒険者同士の争いは御法度だと何度も説明しているはずですよね!?」


 職員たちに責められる中、彼女はまるで反省の色もなく、肩をすくめて笑っていた。


「はいはい、謹慎だろ? わかってるって。」


 それだけ言うと、彼女は軽く手を振りながらギルドを後にした。その後ろ姿を見送りつつ、俺は深いため息をついた。



 2時間後――



「やっと解放された……。」


 あの後、俺は女と何があったのか事情聴取を受けることになった。


 ギルドの一室で行われた事情聴取は、予想以上に時間を取られたが、あの女とのいざこざに関する質問はほとんどなく、代わりにあの丘にいた魔獣をどうやって倒したのか…その詳細ばかりを延々と聞かれた。


「どんな魔法を使ったのか?」

「戦い方は誰に教わったのか?」

「そもそも君のような若者にどうしてあの魔物が倒せたのか?」


 矢継ぎ早に繰り出される質問に答え続けるだけで、すっかり疲弊してしまった。


 とはいえ、魔石分の収入も得られたし、依頼の報酬も無事に受け取れた。長引いた時間は悔しいが、ここは良しとしておこう。


 ギルドを出た俺は、街の喧騒の中で一人つぶやいた。


「それにしても……魔女か。」


 あの女の軽口と大胆な行動に呆れつつも、どこか気になる存在として記憶に残る。次にあの女と会うときがあれば、そのときは少し話を聞いてみるのも悪くないかもしれない――。

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