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異世界戦記 ~ここで俺は最強に至る~  作者: かげ2500
第3章 逃亡者編

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108話 弔いと旅立ち

 その後、アルクたちと別れた俺は、国を発つ準備をするため街を歩いていた。だが、現実は厳しい。街の半分以上が破壊され、営業している店など皆無だ。俺たちが泊まっていた宿も跡形もなく破壊されており、財産も全て失われたのは明らかだった。


 それでも何か手掛かりがあるかもしれないと考え、俺は宿があった場所へと足を向けた。


 宿があった場所は、まだ瓦礫が片付けられておらず、建物の形が分からないほどぐちゃぐちゃになっていた。

 目の前に広がるその光景を見て、俺は無言で瓦礫をどかし始めた。ひとつひとつ手を動かしながら、何か残されていないかと探す。


 そして――。


「あ……。」


 俺は見覚えのある荷袋を発見した。それを急いで手に取り、無造作に中身を開けて確認する。


 中には水や食料、金の入った財布、地図、数々のポーション。そして、その中にひとつ、特別なものが入っていた。


 それは、ノアが生前、髪をとかす際に使っていた櫛だった。


 櫛は瓦礫の重みで歪んでしまっていたが、それでも綺麗に手入れされているのが分かる。表面には、ノアの名前が彫られていた。その彫りは少し不器用で、どこか愛嬌があるものだった。


 俺はその櫛を手に取り、名前の刻まれた部分をそっと指でなぞる。


「……ノア……。」


 名前を呟いた瞬間、胸の奥から湧き上がる感情を、どうすることもできなかった。


 気づけば、いつの間にか涙が頬を伝っていた。


「え……?」


 最初は自分でも驚いたが、抑えようとしても無理だった。胸の中に溜まっていたものが、一気に溢れ出してきた。


 俺は櫛を握りしめ、その場に膝をついて泣いた。


 大声で、ただただ泣き続けた。


 瓦礫に囲まれた廃墟の中で、俺の泣き声だけが響いていた。それは自分でも気づかぬ間に溜め込んでいた悲しみ、後悔、怒り、そして喪失感が全て混じった声だった。


 俺はノアを、フェンリを守ることができなかった。それどころか、自分の判断が結果的に二人を危険に晒してしまったのかもしれない。そんな思いが頭を駆け巡り、心を締め付ける。


「……ごめん……ノア、フェンリ……。」


 それ以外の言葉が見つからなかった。


 やがて、涙が枯れるまで俺はその場で泣き続けた。泣き終わった後も、しばらくその場を動けずにいた。櫛を握る手だけが、かすかに震えていた――。



 ―——。



 しばらく泣き続けた後、俺はノアの荷袋を背負い直し、再び荷物の捜索に戻った。だが、それ以外の物は何ひとつ見つからなかった。


 結局、瓦礫の中から唯一見つかったノアの荷袋だけを持って、俺はこの国を出る準備を進めることにした。


 瓦礫だらけの街を抜け、復興に励む人々の間を通り抜けながら、俺は街を出る門へと続く道を歩き始める。そして、もう少しで街の外れに出るというところで――。


「カイル殿!」


 背後から、俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。


 振り返ると、若い兵士が息を切らしながら走ってくるのが見えた。

 兵士は俺の目の前に到着すると、膝に手をつき、肩で息をしながら何とか言葉を紡ぎ出した。


「はぁ…はぁ…カイル殿…もう国を発たれるおつもりですか!?」


 俺は少し驚きながらも、正直に答えた。


「まぁ…はい、そうですけど。」


 兵士はそれを聞いて胸を撫でおろし、小さく「間に合ってよかったぁ」と呟いた。


「えっと…何か?」


 俺が困惑して尋ねると、兵士は姿勢を正し、声を張って告げた。


「国王陛下からの命です。今すぐ王宮へとお越しください。」


「え…王宮?なんでですか?」


 突然の話に、俺は眉をひそめて兵士を睨んだ。


「それは…私には分かりません。ただ、どうしてもお会いしたいとのことで、できれば急ぎ足で来ていただきたいとのことです。」


 俺はその言葉を聞いて、いくつかの可能性を考えた。もしかすると両親の件かもしれない。それとも、別の――。


 どちらにせよ、ここで拒否する理由もない。少し疑念を抱きつつも、俺は頷いて返事をした。


「わかりました。」


 兵士は安心したように小さく頷き、「では、こちらへ」と道を先導する。


 俺はノアの荷袋を背負ったまま、無言で兵士の後を歩き始めた。背後では、復興作業を続ける街の喧騒が遠ざかっていく。



 王宮前に到着したとき、その光景に息を呑んだ。かつて荘厳だった建物は、戦乱の爪痕を深く刻まれていた。砕けた壁、崩れた塔、灰と埃が舞う中で、かろうじて謁見の間だけがその形を留めている。俺は不思議と胸の奥に冷たい風が吹き抜けるような感覚を覚えた。


 目の前には大きな扉。その前で、二人の兵士が静かに佇んでいた。俺の前を歩いていた若い兵士がその二人に声をかける。


「カイル殿をお連れしました。」


 扉を守る兵士たちは頷き、重たそうな扉を押し開けた。その音は静まり返った空気に響き渡り、まるで時を告げる鐘の音のようだった。


 扉の向こうには、かつての威厳を失いつつも気高さを漂わせる王宮の謁見の間が広がっていた。その中心には、威厳を保ちながらもどこか疲れた表情をした国王。そしてその隣には、王女アリシア。さらに少し離れた場所に、戦友のアルクたちが立っていた。


 国王は俺を見るなり立ち上がり、わずかに口元を緩めた。

 

「おぉ…来てくださったか。」


 その声には、嬉しさと共に、どこか安堵の響きが混じっていた。しかし、俺の視線は国王ではなく、彼の手前に置かれた二つの長方形の黒い箱に釘付けになった。


 兵士たちの視線を感じながら、俺は無言でその箱に近づいた。中身が何か、薄々と予感していた。

 だが、実際に目の当たりにするのはどこか恐ろしかった。箱の前に立つと、国王とアルクたちが静かにそれを囲むように集まった。


 国王が低い声で言った。


「君が旅立つ前に…彼らのことを、弔ってほしいと思ってな。」


 国王が軽く目配せをすると、側にいた兵士が一つ目の箱の蓋をそっと開いた。


 ――そこには、ノアが静かに眠っていた。


 彼女は綺麗に整えられた服を身にまとい、まるでいつも通り微笑みかけてきそうな顔で横たわっていた。


 俺の胸に鋭い痛みが走った。それでも次に、隣の箱の蓋もゆっくりと開かれるのをただ見つめていた。


 ――そこには、フェンリの姿があった。


 彼もまた、戦士としての誇りを感じさせる姿で横たわり、その顔はどこか穏やかだった。俺は無意識に膝をつき、二人の姿を間近で見つめた。


 国王が静かに話し続ける。


「彼らも、この国のために最期まで戦い抜いてくれた。君たち若者がこの国を救ったことを、私は誇りに思っている。」


 俺は国王の言葉を聞きながら、そっと棺の縁に手を置き、静かに頭を下げた。ノアの櫛が入った荷袋が背中で重く感じられる。俺は微かに震える声で呟いた。


「…ごめん、二人とも。」


 国王がそっと手に白い花を持ち、それを俺に差し出した。


「彼らへの感謝と祈りを、この花に込めてくれ。」


 俺はその花を受け取り、ノアとフェンリの棺にそれぞれ一輪ずつ供えた。ノアの棺には、彼女が好きだった野花を。フェンリの棺には、彼がいつも持っていた手帳の表紙に描かれていた花と同じ種類のものを。


「…ありがとう。二人とも。」


 その言葉を最後に、俺は少し後ろに下がった。アリシア王女が一歩前に進み出て、優しい声で語りかける。


「ノアさん、フェンリさん。あなたたちの勇気と優しさを、この国の誰もが忘れることはありません。どうか安らかにお眠りください。」


 アルクたちも次々に花を供え、謁見の間は静寂に包まれた。響くのは、どこからか漏れる風の音と、微かな嗚咽だけだった。


 しばらくして、国王が俺に向かって語りかけた。


「カイル殿、君にはこれからも旅があるだろう。その旅路の中で、この国と彼らのことを忘れないでほしい。そして、どこへ行っても、希望を届けてほしい。」


 俺は国王の言葉に静かに頷き、小さく返事をした。


「はい…二人の分も、俺は生き続けます。」


 謁見の間を後にするとき、俺は背後の棺を振り返り、最後に二人の姿を目に焼き付けた。


 ―—ノア、フェンリ…さようなら。


 俺は静かに王宮を後にした。




 ※※※




 カイルが王宮を去り、その背中が見えなくなるまでの間、謁見の間は静寂に包まれていた。

 彼を見送り終え、王宮内に街の人々の喧騒が響き始めたころ、アルクたちは自然と集まり話し始めた。


「…これからどうするよ?」


 ルカがぼそりと問いかける。その声にはまだ何か考え込むような色があったが、アルクは迷うことなく答えた。


「街の復興を手伝うよ!僕たちが生まれ育った街だ。自分たちの手で立て直さなきゃ。」


 アルクの強い意志を感じさせる言葉に、アンとミラは静かに頷いた。


「そうだな。こういうときに動くのが、オレたちだよな。」

 

 ルカは深いため息をつきながらも、どこか清々しい表情を浮かべて同意した。


 そんな彼らを見て、国王は小さく微笑む。若いながらも自らの責任を感じ、行動しようとする彼らの姿に、希望の光を見た。心の中で、そっと思う。


(彼らのように勇気があり、気質のある若者たちが、これからのこの国をよりよくしてくれるだろう。)


 そう信じる思いを胸に、国王はふと天を仰ぐ。戦いの爪痕が空にも刻まれているかのような、暗く重たい雲が漂う空だった。しかし、その向こうに見える微かな光を、国王は確かに感じていた。


 そして何気なく隣に目をやると、そこには王女アリシアがいた。彼女はじっと一点を見つめたまま、まるで時が止まったように硬直している。


「アリシア?」


 国王はその様子に眉をひそめ、彼女の名前を呼んだ。しかし、アリシアは反応しない。ただ、その視線の先を見続けている。


 不思議に思った国王は彼女に近づき、改めて問いかけた。


「どうしたのだ、アリシア?」


 すると、アリシアはゆっくりと、まるで震えるような声で呟いた。


「…棺が…動いています。」


 その言葉に、国王は思わず眉をひそめる。


「何を言っている?そんなことが――」


 しかし、彼女の視線を追うように、国王もゆっくりとその先を見やった。二つの棺が、静かに横たわっている――はずだった。


 そのときだった。





 ――ガコッ。


 鈍い音が、王宮内を満たした。

第3章 逃亡者編 -終-

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