103話 勝利の余韻
アルクが空を見上げたとき、すでに夕日が傾き始めていた。空は赤紫に染まり、遠くでかすかな風が廃墟と化した街を駆け抜ける音が聞こえる。建国祭が始まってから約半日――彼らは戦いに次ぐ戦いを繰り返し、ついにその長き戦いに終止符を打った。
立っているのは、金髪の少年ただ一人。その姿はまるで戦場の孤影のようだった。
アルクは神器を握る手の震えを抑えながら、静かに呟く。
「……ロレンツォさん、仇を取りましたよ……」
その言葉は風に流されるようにして消え、戦場に再び静寂が訪れた。だが、安堵に浸る間もなく、アルクは意識を失って倒れている仲間たちへ駆け寄った。
「……ルカ、大丈夫か?」
彼はまず最も近くに倒れていたルカに手を当て、治癒魔法を使う。ほとんど残っていない魔力を振り絞り、温かな光がルカの体を包み込む。しばらくして、ルカがうめき声を上げながら目を開けた。
「うっ……アルク? あいつは……?」
「倒したよ。最後にルカが注意を引いてくれたおかげだ……ありがとう」
「へっ……そりゃどうも……」
ルカは弱々しく笑いながらも、どこか誇らしげに呟く。
その短いやり取りの間に、他の仲間たちも次々と意識を取り戻し始めた。アンとミラが体を起こしたのを確認すると、アルクは嬉しさのあまり二人を抱きしめた。
「みんな無事でよかった……」
彼の頬を一筋の涙が伝う。それは安堵と感謝が入り混じった、心からの涙だった。
「ちょ、ちょっと! アルク、離しなさいよ!」
「アンさんは、照れなくてもいいんですよ?」
「はあ? 照れてるわけないじゃない! 何言ってんの!?」
アンが憤慨する様子を見て、ミラが控えめに笑う。そのいつもの掛け合いが戻ってきたことに、アルクはさらに安心した。
しかし、ふと離れた場所に一人佇む少年の姿に気づく。アルクは立ち上がり、その少年――カイルのもとへ向かう。
※※※
「カイル君…君の最後の魔法、すごかったよ。あれがなければ勝てなかったかもしれない。ありがとう。」
アルクの声は優しくも力強く、胸に響くものがあった。しかし俺はその言葉を素直に受け入れることができず、背を向けたまま目を合わせようとはしなかった。
「俺があいつの封印を解かなければ…戦い自体起こらなかったんですよ。それに、ガイコツ…いや、ロレンツォさんも…俺のせいで死んだようなもの…なのに、俺を責めないんですか?」
自分の声が震えているのがわかる。恐る恐る問いかけると、アルクはしばし無言のまま立ち尽くした。その態度に困惑しているのだろうか、それとも言葉を選んでいるのか、わからない。静寂が流れた後、ようやくアルクが口を開いた。
「責める気なんてないよ。ロレンツォさんのことだって、あれは…あの人自身が決めたことだ。それを僕たちがどうこう言うのは違うと思うんだ。」
アルクは一歩、俺に近づいてきた。その足取りはゆっくりで、重みが感じられた。
「それに…僕は君に感謝しているんだ。」
「え?」
思わず振り返った俺の目に、真剣な眼差しを向けるアルクの顔が映った。
「ロレンツォさんと僕を会わせてくれたのは、君だ。君がいなければ、僕は一生ロレンツォさんに会えなかったかもしれない。そう思うんだ。だから、どんな形であれ、ロレンツォさんに会わせてくれた君には感謝している。」
アルクは小さく微笑み、目を細めた。その優しい表情に心が少し軽くなる気がした。
「でも…アルクさんが許してくれても、ここに住む人たちや他の仲間は…」
視線を足元に落とし、絞り出すように呟くと、アルクは仲間たちの方へ振り返り、静かな声で言った。
「みんな…カイル君を許してほしい。」
その言葉に、最初に反応したのはアンだった。腕を組みながら、あっけらかんと言い放つ。
「許すも何も、私はなんとも思ってないけどね!」
「私もです!」
ミラが小さな身体を跳ねさせながら元気よく同意する。
「いやぁ…オレは全部そいつのせい…痛って!」
言いかけたルカの脛を、アンが思いっきり蹴り飛ばした。
「あんたねぇ!空気を読むってことができないわけ!?」
「うるせぇな!オレはなんでも正直に言っちゃうタイプなんだよ!」
二人の掛け合いを見て、アルクは肩を揺らして笑う。その姿に、俺はようやく安堵の息を吐いた。
「まぁ…一人は除いて、僕たちは君のせいだなんて思っていないよ。」
アルクは再び俺に向き直り、肩に手を置いてきた。
「さっきも言ったけど、レグナに勝てたのは君のおかげだ。一緒に勝利を喜ぼうじゃないか。」
その言葉とともにアルクは肩を軽く叩き、微笑みを浮かべた。その笑顔が不思議と胸の奥を温かくする。
「はい…ありがとうございます。」
そう答えた俺の声には、ほんの少しだけだが希望の色が混じっていた。そして、仲間たちの笑い声や騒がしいやり取りに包まれながら、俺たちは戦いの終わりを静かに噛みしめた。




