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102話 終結

「いっけえええええ!!!」


 俺たち全員の魔力を結集させた最後の一撃は、圧倒的な勢いでレグナの魔法を飲み込みはじめた。その光の奔流は、瓦礫を押しのけながらゆっくりと前進し、まるで勝利の行進を象徴するかのようだった。


「ぐっ…!なんだ、この魔力は…!!」


 レグナは顔を歪め、冷や汗を浮かべながらも魔法にさらなる魔力を注ぎ込もうとする。しかし――。


「うっ…!」


 突如、レグナは苦しげに胸を押さえ、その動きを止めた。


「はぁ…はぁ…!」


 荒い息遣いと、焦点の定まらない目。よろめきながら膝をつきそうになるその姿を見た俺は確信した。


「魔力切れだ!!」


 その言葉に、レグナは驚愕の表情を浮かべる。


「魔…力切れ、だと?この私が?」


 その姿を見て、ルカが静かに呟いた。


「あんなドデカい魔法を何発も撃ち続けりゃ、そりゃ魔力の消費も早いだろうよ。」


 ルカの淡々とした言葉に、レグナは怒りで顔を真っ赤に染めた。


「ガキがあぁ!!!!」


 憤怒の叫びを上げると、レグナは両手を前に突き出し、残された魔力を振り絞るように魔法を前へ前へと押し寄せた。その力は、魔力切れとは思えないほど凄まじいものだった。


「やばい…!押し返される!」


 ルカが叫び、足を踏ん張るが、その魔力の奔流に耐えきれず後退していく。アンやミラも必死に耐えようとするが、徐々に押され、絶望の色を浮かべ始めた。


「ふははは!!魔力切れがなんだ!!この最後の魔法で貴様らを消し炭にしてやる!!」


 レグナは完全に気を取り直し、勝利を確信したかのように高らかに笑う。その声を聞きながらも、俺たちは全神経を魔法に注ぎ込むことしかできなかった。


 ――そして、その時が来た。


「はぁ…!これで終わりだ!!」


 レグナが最後の力を振り絞り、魔法の圧力を最大限に高める。それに抗う俺たちの魔法は、ついに押し返され、轟音と共に呑み込まれていった。


 全身を引き裂くような痛み。


 純粋な魔力の塊が身体を蝕み、続いてレグナの魔法が追い打ちをかける。その膨大な魔力は、俺たちの吸魔の魔石を施した装備を以ても吸収しきれず、容赦なく砕き散らした。


「ぐあああ!!」


 叫び声が響き、意識が朦朧としていく。鎧は粉々に砕け、服は裂かれ、エルドリックから贈られた杖も無残な姿となった。目を凝らすと、仲間たちもまた装備を失い、瓦礫の中で倒れているのが見えた。


 ――そして、静寂が訪れた。


 辺りを包むのは、霧散していく魔力の残滓と、荒い息遣いだけだった。


「ふ…ははっは!私に!私に勝てるわけがないだろう!」


 レグナの声が響く。勝利の余韻に浸るかのような笑い声だった。


「……くっ」


 その場に起き上がる者がいた。


「ル…カさ、ん?」


 俺は、動かない身体でかすれた声を絞り出し、ルカの名前を呼んだ。


「まだ…終わりじゃねえぞ。」


 ルカは口元から血を流しながらも、鋭い目でレグナを見据えている。


「まだ息があるか…!ならば、貴様をこの大剣で――」


 レグナはそう言いながら腰に手を伸ばす。しかし――。


「ない!?神器が…ない!?」


 レグナは驚愕し、周囲を見渡し始めた。その動揺した様子を見たルカが、乾いた笑い声をあげる。


「お前…何か気づくことはないか?」


 レグナの目がルカに戻り、次いで戦場全体を見渡した。そして――ハッとした表情になる。


「金髪の…!!」


 その刹那――。


「レグナぁあああああ!!!」


 レグナの背後からアルクが飛び上がる。その手には神器が握られ、神々しい輝きを放っていた。アルクの一撃が振り下ろされる瞬間、レグナは恐怖に染まった叫び声を上げる。


「うわぁあああぁああ!!」


 レグナはアルクの放つ大剣の軌道を目で追い、即座に身を捩らせた。その顔には焦燥と苦痛が入り混じり、汗が額から滝のように流れていた。しかし、魔力切れによる疲弊が彼の動きを鈍らせ、筋肉は思うように反応しない。足元がもつれ、バランスを失った彼の体は重力に引かれるままに地面へと倒れ込む。


「ぐっ……まだだ、まだ終わらん……!」


 彼は声を震わせながらも必死に手足を突っ張り、立ち上がろうとする。だが、力の入らない腕は瓦礫を掴むどころか滑り落ち、爪が擦れる甲高い音だけが響く。彼の呼吸は荒く、肩が大きく上下するたびに、胸元から漏れる断続的なうめき声がその疲弊を物語っていた。


 倒れ込んだ体勢のまま、レグナは首だけをぎこちなく動かしアルクを睨む。その瞳には憎悪と焦りが交錯し、口元は怒りに歪んでいる。


「ぐ、貴様……!」


 彼は呪詛のような言葉を漏らしながらも、完全に無防備な背中を晒してしまった。


「があああぅあ!!!!」


 突如として獣じみた雄叫びを上げると、レグナは最後の抵抗を見せるかのように手足を乱暴に動かし始めた。四肢を瓦礫に叩きつけ、体全体を無理やり反り上げるようなその動きは、まるで暴れる獣そのものだった。しかし、それはあまりにも無秩序であり、力を失った動物が死の淵で足掻く姿に等しかった。


「これで完全に終わらせる!!」


 アルクの声がその混乱を断ち切った。勢いよく振り下ろされた大剣が空気を裂き、凄まじい音とともにレグナの背中に深々と突き刺さった。


「うぎゃああああああああああああ!!!」


 耳を裂くような悲鳴が戦場に響き渡る。その瞬間、レグナの体は衝撃で跳ね上がり、背中からは鮮血が噴き出した。赤黒い血は黄金に輝く神器の光と混じり合い、戦場全体に不気味なコントラストを描き出す。


 彼の四肢は地面を叩きつけ、瓦礫を跳ね飛ばし、あたりに砂煙を巻き上げる。しかし、その動きは次第に力を失い、もがく手足は最後にはただの痙攣へと変わっていった。


 やがて、レグナの身体から立ち上る魔力の光が霧のように揺らめきながら空中に溶け込んでいく。その光が完全に消え去ると同時に、彼の身体は瓦礫の上に無防備に横たわり、微動だにしなくなった。神器に刻まれていた紋様も輝きを失い、ただの無骨な鉄の塊のような姿へと戻った。


 荒い息を吐きながらアルクは剣を引き抜き、後ずさる。体力も魔力も限界を迎えた体は重く、彼の手には微かな震えが伝わっていた。しかし、その瞳だけは鋭く、戦いを終わらせた者としての威厳を保っていた。


 戦場は静寂に包まれた。先ほどまで轟いていた破壊音も咆哮も嘘のように消え去り、瓦礫の間に横たわる仲間たちの微かな息遣いだけが聞こえる。それぞれが傷つき、動けない状態だったが、全員がまだ生きている。その事実がアルクの心に一瞬だけ安堵を与えた。


「……終わった、のか……?」


 アルクは静かに呟いた。その声には疲労と達成感、そしてどこか疑念が混ざっていた。神器を地面につきながら膝を折り、俯く。その姿はまるで勝利の代償を背負った『英雄』そのものだった。


 ふと、崩れた瓦礫の隙間から風が吹き抜けた。血の匂いを含んだ冷たい風が、アルクの頬を撫でる。その風がどこか不吉に感じられたのは、彼の勘によるものだったのか、それともこの場に漂う空気そのものがそうさせたのか。


「……ぐ…かは…」


 アルクの耳に届いたのは、微かに掠れた声。思わず顔を上げると、倒れていたはずのレグナの身体がわずかに震え、口元が不気味に歪んでいるのが見えた。その歪んだ笑みには死を超越した狂気が宿っていた。


「く……かは……ははは……」


 レグナは血に濡れた顔をゆっくりと持ち上げ、光を失いかけた瞳でアルクを見据える。その眼差しには、敗北を認めない執念と憎悪が宿っていた。


「わ……わたしを……殺したことを……心に……刻んでおけ……」


 その声は途切れ途切れだったが、最後まで明確な意思を持っていた。レグナの体が痙攣を繰り返し、やがて完全に静止した。薄笑いを浮かべたまま、彼は動かなくなる。


 レグナ・ヴァルトは、絶命した――。


 アルクはしばらくの間、息を止めたようにレグナを見つめていた。全身の力が抜け、地面に手をつく。その瞳に浮かんだのは、戦いの終わりを確信した安堵だった。


「……これで、本当に……終わりだ……」


 彼の呟きは誰にも届くことはなかった。ただ、冷たい風だけが戦場を吹き抜け、血の匂いを遠くへ運んでいった――。

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