100話 時間稼ぎ
「私は…!百年前、三人の友と協力して国を興した!」
レグナの声が響き渡る。荒々しい口調ではあったが、どこか熱を帯びた語りは、単なる怒りだけではなく、かつての希望に満ちた思い出を蘇らせているようだった。
「それは、当時各地で続いていた争いに終止符を打つためだった。力ある者が手を取り合い、理想の国を作る。それが私たち四人の誓いだった!」
彼はゆっくりと前に進みながら、俺たちに目を向ける。その瞳には、かつて信じたものが裏切られた絶望の深さが刻み込まれていた。
「効果は絶大だった…!この国周辺に巣食っていた荒くれ者どもたちも、首都ヴァルシオンを中心に一つの国としてまとまることで、争いは次第に収束していった。秩序が生まれ、平和が訪れた。私は歓喜したよ!」
その言葉に一瞬の真実味が宿る。彼が語る平和への情熱は本物だったのだろう。俺たちも息を飲みながら、彼の語る壮大な過去に耳を傾けていた。
「これで私の望んだ平和な国が築ける――そう思っていた!だが…その考えは一瞬で粉々に砕かれた!」
レグナは拳を握り締め、地面に叩きつけるように一歩を踏み出す。その衝撃で地面がわずかに震え、魔力が周囲に拡散するのが感じ取れた。
「裏切られたのだ!友に!国を独占しようとしていた三人は、自ら拒んだはずの争いを始めたんだ!そして…その渦に私も巻き込まれた!」
彼の声は次第に震え、胸の奥底から湧き上がる感情が溢れ出しているのがわかった。
「私はただ、平和だけを望んでいただけだ!だが、それすらも叶わなかった。当時、力のなかった私は、王宮の地下に監禁されたのだ。数年、そこに幽閉され、生かされ続けた。その間、私の心に芽生えたのは…かつて友人だった者たちへの憎しみだけだった!」
レグナは苦悶の表情を浮かべ、視線を俺たちの頭上に向けた。まるで、天井越しに百年前の情景を見ているかのようだった。
「孤独の中で、私は独学で魔法を学び、力をつけた。しかし…それでも私は未熟だった。だが、偶然見つけた『禁忌の魔導書』が私の全てを変えた!」
その名を口にした瞬間、彼の周囲に黒い魔力が浮かび上がる。その威圧感に、思わず杖を握る手に力が入った。
「『魂の寿命』を代償にして得た力。それは、この国を“やりなおす”力を秘めていた!その力で、私はまず私を見張っていた監視たちを殺し、その首を王宮へ持っていった!」
俺たちの誰もが言葉を失う。ただ、彼が何を語ろうとしているのか、次の言葉を待つしかなかった。
「そこには、かつて友だったアルバート・ヴァンゲートがいた。奴は…国王になっていた!私の姿を見た奴が最初に放った言葉を忘れはしない…」
レグナは一瞬、苦しむように目を瞑り、拳を震わせる。そしてその言葉を吐き捨てるように叫んだ。
「『お前はまだ生きてたのか』と!!!」
周囲が静まり返る。俺たちは息を呑み、ただ彼を見つめることしかできなかった。
「奴は私を消すべき存在としてしか見ていなかった!かつて共に国を築こうと誓い合った友ではなく、ただの障害物だったのだ!その瞬間、私は決意した。こんな国を、こんな友を、すべて消し去らねばならないと!!」
レグナは拳を握り締め、その場に跪くように身を震わせる。俺たちは誰も声を発せず、その話に耳を傾けていた。戦いの緊張感がまだ消えぬ中、彼の言葉だけが周囲を支配している。
「私は魔法で、王宮を火の海に変えた!アルバートは命乞いをしたが、それすらも嘲笑するしかなかった。だが…私の計画はここで狂い始めた!」
レグナは顔を上げ、俺たちを睨む。その目には、怒りの中にどこか計り知れない虚無が見える。
「私はこの国を一度滅ぼし、そして新たな国を作るつもりだった。しかし…奴は『神器』を持っていた!アルバートが自分の命と引き換えに発動した『神器』の力により、私は瀕死に陥り、奴の息子により存在そのものを地下の闇に封じ込められた!しかし、その時どういう訳か『神器』は私と一体化し、生と死の狭間で私を生き永らえらせた!それがどれほどの苦しみだったか分かるか?」
俺たちは誰も答えられない。レグナの語る過去には、哀れみと怒り、そして異常な執念が込められていた。
「五十年だ…それから五十年もの間、私は生と死の狭間を彷徨っていた!意思もなく身体も動かせず!ただ孤独に生き続けることしかできなかった!しかし!私が殺した監視の一人、国を守る騎士団の一人が持っていた『神器』が偶然、私を生き返らせた!!」
レグナがその言葉を口にした瞬間、俺は息を飲んだ。あのときガイコツと出会った記憶がよみがえる。逃げた罪人と言っていたのは、レグナのことだったのか?
「しかし!私の他に蘇った者がもう一人いた…!」
「ロレンツォさんか…!」
アルクが呟く。
「そうだ!ヴァルティエルは一足先に蘇り、目覚めたばかりの私の前に立っていた…!だが…!!」
レグナは握った拳を震わせ、血を流している。
「奴は!!ヴァルティエルは!!己の『神器』で私の力を分断し、それを封印した!!そして私の意識はその膨大な力に引っ張られ、『身体』は意識を失った!!ようやくアルバートの『神器』から解放されたと思った矢先!また封印されたのだぞ!?この屈辱を、孤独を苦難を!お前たちに理解ができるか!?」
レグナはいつの間にか涙を流しながら語っていた。その姿には、彼の持つ怒りと悲しみが露わになっている。
「そこから…また五十年、私は封印され続けた…だが。」
次の瞬間、レグナは不気味な笑みを浮かべた。
「今日!!この日!私はある者の手によって身体と魔力を取り戻し、封印から解かれた!!!」
笑いながら叫ぶレグナを見て、仲間たちが警戒の態勢を取る中、俺だけが冷や汗をかいていた。
(今日…封印を解いた…ま、まさか…)
俺の予想は当たった。
「私の長い封印を解いたのは、カイル!!お前だ!!!」
「なっ…!」
言葉を失った俺に向けられるアルクたちの視線が痛い。しかしそれ以上に、心臓を締め付けられるような感覚が全身を襲っていた。
「どういうことだ…カイル?」
アルクが鋭く問いかける。
「俺は…俺はただ、あの亡霊を倒そうとしただけで…!」
「そうとも!貴様は愚かにも、私の封印を解いたのだ!」
レグナの魔力が爆発的に膨れ上がり、周囲を圧倒的な重力が支配する。俺たち全員がその場に押し付けられるように感じた。
「おいおい!これどうすんだよ!!」
ルカが不安げに叫ぶ。その声に、誰もが焦りと恐怖を感じているのが伝わる。
「…逃げるわけにはいかない。」
アルクが剣を構えながらつぶやいた。その目には覚悟が宿っている。
「すみません、封印を解いたのは俺の責任です。だから、俺が奴を止めます。」
俺の言葉に皆が驚いた表情を見せる。アルクが眉をひそめた。
「無茶だ、カイル!君一人で何ができる!僕たちも一緒に戦う!」
「そうですよ!みんなでやれば勝機はあります!」
ミラが慌てて付け加える。
しかし、そのときレグナが不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。
「時間稼ぎにまんまと引っかかる阿呆どもで助かったわ!!」
その瞬間、レグナの背後に巨大な魔法が浮かび上がった。無数の黒い光が螺旋状に渦を巻きながら、街全体を包み込むように広がっていく。
「これは…!魔力の流れが異常だ!」
アルクが叫ぶ。
「まさか…会話の中でオレたちにも気づけないくらい徐々に魔力を練り続けてたのか!」
ルカが鋭く察した。
「気づくのが遅いな!貴様らは私を追い詰めていたつもりだろうが、逆に私の準備を手助けしているに過ぎんかったのだ!」
レグナの笑い声が周囲に響き渡る。俺たちはその言葉の意味を理解するのに一瞬かかったが、事態の深刻さに背筋が凍る思いだった。
「このままじゃマジで死んじまう!何とかしてあの魔法を止めねえと!」
ルカが叫ぶが、その声もどこか震えている。
「くっ…!」
俺は必死に声を張り上げた。
「皆はあいつの注意を引いてください!あいつが魔法を放つ前に…俺が死んでもあいつを倒します!」
「無茶だ!」
アルクが即座に反対する。
「一人で突っ込むなんて危険すぎる!」
「だからこそ、今やらなきゃならないんだ!」
俺はアルクの方を振り返る。
「封印を解いたのは俺の責任だ!俺が逃げるわけにはいかない!」
アルクは悔しそうに唇を噛むが、何も言い返さなかった。ルカが低い声でつぶやく。
「分かった。注意を引くぐらいはやってやる。だが、あいつが復活したのはお前のせいだ。絶対に止めろよな。」
俺は頷き、仲間たちを見渡した。
「頼みます!」
「よし!カイルを援護しつつ、レグナの注意を引くぞ!」
ルカが号令をかけ、全員が動き始める。
俺は杖を強く握り、レグナの前へと踏み出した。
「これ以上、好きにはさせないぞ!」
「ほざけ!貴様らごときが私に何ができる!」
レグナが右手を振り上げると、黒い雷のような魔法が俺に向かって襲いかかってきた。俺は咄嗟に盾の魔法を展開し、それを受け止める。だが、その圧倒的な力に足元が砕け、俺は膝をつきそうになる。
「ぐっ…なんて力だ…!」
「どうした?その程度か!私を止めるつもりなら、もっと足掻いてみせろ!」
笑うレグナの声が耳を打つ中、俺は必死に立ち上がり、杖を構え直した。
「……ここで終わらせる!」
残された時間は少ない。俺たちは、この戦いを終わらせるために全力を尽くすしかなかった。
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