97話 英雄?の復活
「ダメだ!!!」
ルカの声が戦場の空気を切り裂いた。
「そんなの、ダメだ!自分が犠牲になるなんて……軽々しく言うなよ!」
ルカはアルクの胸倉を掴み、怒りをあらわにする。その目には涙が浮かんでいた。
「そうよ!」
アンが激しく頷きながら続ける。
「なんでアルクが犠牲にならないといけないの!?他に方法があるはずよ!」
「私も同じです!」
ミラも強い口調で訴える。
「アルク君がいなくなったら……私たちはどうすればいいんですか!?」
三人の思いが交錯する中、アルクは毅然とした態度を崩さず、静かに彼らを見つめていた。
「……ありがとう。でも……これだけは譲れない。」
そう言い放ったアルクの言葉には、確固たる覚悟が宿っていた。その冷たささえ感じる声に、ルカの怒りがさらに燃え上がる。
「何が譲れないだよ!」
ルカは胸倉を掴む手に力を込める。
「オレたちは一緒にここまで来たんだぞ!シンバさんに助けられて生き延びたのは、アルクだけじゃない!オレだってそうだ!ミラだってアンだって、みんなそうなんだよ!」
ルカの叫びにアンとミラも無言で頷く。その目には涙が溢れそうになっていた。
しかし、アルクは微かに笑みを浮かべ、静かに言葉を紡いだ。
「……ロレンツォさんに出会ってから、僕はずっと考えてたんだ。シンバさんに助けられたこの命を……どこで使うべきかを。」
その言葉にルカは顔をしかめ、掴んでいた手を震わせた。
「だからって……命を捨てる理由にはならないだろ!?」
「違うよ。」
アルクはそっとルカの手を掴み、力を抜かせるように下ろした。そして、仲間全員を見渡す。
「僕がこの命を捨てるんじゃない。僕が選んだ道を進むだけなんだ。」
アンが悲痛な声を上げる。
「……そんなの、納得できないわよ!」
「私だって……嫌です!」
ミラが涙声で続ける。
しかし、アルクの目に揺るぎはなかった。
「もし僕がこうしなければ、みんなが危険にさらされる。シンバさんの命を繋げてくれたのは、そんなためじゃないって分かってる。でも……この選択が僕にできる唯一の恩返しなんだ。」
ロレンツォが静かに口を開いた。
「アルク君……その覚悟、本当に後悔しない?」
アルクは一瞬目を伏せたが、次の瞬間、力強く頷いた。
「後悔なんて、する時間はないですよ。」
その言葉に、場は再び静寂に包まれる。誰も何も言えない。
しかし、その重苦しい空気を破ったのは意外にもルカだった。
「……ちょっと待て。」
ルカは考え込むように目を伏せ、続けた。
「封印の生贄が必要なのは分かった。でも、生贄になるのは絶対にアルクじゃない。」
「は……?」
驚くアルクをよそに、ルカはロレンツォに視線を向ける。
「ロレンツォさん。生贄ってのは、何も一人に限らないだろ?さっきあなたは『生命力を核に、封印を施す』そう言いましたよね?だから、オレたち全員で少しずつ生命力を生贄にすることで、封印を完成させる……ってことができるんじゃないか?」
その提案に、ロレンツォは一瞬目を見開いた。
「……それは……可能性としてはゼロではないかも。」
「……なら、一か八かそれでやるしかない!」
ルカの声に、アンとミラも頷く。
「私たちみんなで支える!だからアルクを一人にはさせないわ!」
「そうです!全員で力を合わせれば……なんとかなるかもしれません!」
アルクは仲間たちの言葉に驚きながらも、少しずつ笑顔を浮かべた。
「……みんな、本当にありがとう。」
――アルクたちが絆を再確認した矢先、白煙の中から突如黒い影が飛び出してきた。
「来るよ……!奴が!」
ガイコツの声が緊迫した空気を一層張り詰めさせる。
黒い影は音もなく地面に着地し、その周囲に白煙を引き連れていた。全身が煙に覆われ、その正体は不確かだったが、俺たちは即座に悟った。
(白銀の骸骨だ。)
ガイコツが低く呟いた。
「……お前は一体、何を準備してたんだ……」
白煙の中で、影は不気味な沈黙を保ちながらこちらを睨むように立ち尽くしている。そして、白煙が徐々に晴れていく中、その姿が露わになった瞬間――。
「……あれは!」
「なんなんだ、あれ……!」
俺とアルクは、ほぼ同時に驚きの声を上げた。
姿を現したのは、もはや『白銀の骸骨』とは呼べない存在だった。
全身を覆っていた骨は青白い肌に覆われ、むき出しだった骨格は筋肉に包まれていた。血色はなく冷たそうだが、明らかに生命力を宿す肉体を持つ存在――まるで骸骨が再び肉体を取り戻したかのような姿だ。
その変貌ぶりに、アンが声を震わせながら呟く。
「……骸骨じゃ、ない……?」
「いや、違う……」
ガイコツが震える声で続けた。
「奴は……完全に生き返ったんだ……!」
その言葉に、全員が言葉を失った。そして次の瞬間、完全に姿を現したその顔を見た瞬間、俺たちの驚きは恐怖に変わった。
「――え……?」
「あ、あの顔……!」
「あれって、まさか……!」
目の前に立つ奴の顔。それは、この国に住む者なら誰もが知る顔だった。
俺もその顔に見覚えがあった。この国の四方の門――東西南北にそびえる城門に彫られている彫刻。それは、この国を興した四人の英雄の顔だ。そのうちの一人と寸分違わぬ顔が、今目の前に存在しているのだ。
「なんで……建国者様がここに……!」
アルクが声を震わせながら呟く。
その存在は静かに口を開いた。
「……長い間、私の意識は眠っていたようだが……ついに目覚めの時が来たようだな。」
低く威厳ある声が響き渡り、その場の全員を圧倒する。
アンが恐る恐る問いかけた。
「あなたは……一体何者なの……?」
その問いに、復活した骸骨――否、英雄の姿をした何者かは、冷たく笑みを浮かべた。
「かつて、この国を興した者の一人……レグナ・ヴァルト。それが私の名だ。」
その言葉に、全員が凍りついた。
「レグナ・ヴァルト……!?」
アンがその名を口にすると同時に、ミラが低く呟いた。
「……嘘よ。レグナ・ヴァルトは、100年も前に死んだはず。それも……自ら命を絶った英雄として、国中の人々に語り継がれている存在よ!」
しかし、レグナは余裕たっぷりに笑いながら言い放つ。
「死んだ……?確かにそうだとも。だが、私が命を絶った理由を、お前たちは本当に知っているのか?」
「……な、なんだと?」
ルカが驚きの声を漏らす。
「真実を語る者はいない。私が命を絶つ選択をした裏に何があったのか……それすらも、この国は隠してきたのだ。」
レグナ・ヴァルトと名乗るその存在は、憎悪を孕んだ目で俺たちを見据えた。
「そして、私は……その屈辱を晴らすために神器の力で蘇った。お前たちの目の前で、この国を滅ぼすために。」
全員が息を呑む中、ガイコツが震える声で叫ぶ。
「……そんなことはさせない!」
その瞬間、レグナ・ヴァルトの手に黒いエネルギーが集まり始めた。
「さあ、愚か者たちよ。今度は私が裁きを下す番だ……!」
黒いエネルギーが地面を震わせ、戦場が再び動きだす――。




