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9話 カーヴァイン魔法学園

 カーヴァインに到着し、エルドリックと別れた俺は、早速魔法学園へと足を運んでいた。


 街の大通りには、小さな店がずらりと並び、カフェや雑貨屋などがゆったりとした雰囲気を醸し出している。

 通りを行き交う人々も急ぐことなく、それぞれが自分のペースで歩いている。遠くから聞こえる教会の鐘の音が、街全体に柔らかな響きをもたらしているようだ。


「……あれか」


 しばらく街を歩いていると、不意にその姿が目に飛び込んできた。街の中心にそびえ立つ、威風堂々たるカーヴァイン魔法学園の建物だ。


 遠くからでもすぐにそれとわかる。ゴシック様式の重厚な石造りの塔が複数そびえ立ち、その上部には鋭く尖った屋根が青空に映えている。

 夕日に照らされると、塔の先端が光を受けて神秘的に輝き、まるで長い歴史と知識が凝縮されているかのような荘厳な雰囲気を醸し出していた。


 学園の正門は、高くそびえ立つアーチ状で、巨大な鋼鉄の扉には美しい装飾が施されていた。門をくぐると、広大な中庭が広がり、噴水や古代の石像が並んでいる。

 噴水からは淡い光を帯びた水が静かに流れ、石像たちは長い年月を経た風格を漂わせている。庭の片隅では、学生たちが魔導書を手に静かに話し込んでいる姿が見え、彼らの淡い笑顔や緊張した面持ちが学園の神秘性を一層引き立てていた。


 空には、わずかに魔力の流れが漂っているのが分かる。魔法学園を囲むかすかな魔力が、この学園を守っているのだと感覚的に理解できた。


「……っと、そろそろ学園長に挨拶しないとか」


 ふと、近くにいた同年代くらいの女子生徒に声をかけようとしたが、思わず目を見張った。


(……ん?なんか耳デカくないか?というか、頭に付いている……え?ケモミミ!?)


「うおお、本当に獣人っているのか!」


 異世界ということは理解していたが、実際に見ると驚きがこみ上げてくる。


「あの~ちょっといいですか?」


 俺が声をかけると、彼女は驚いたように目を丸くした。


「え?」


 近くで見ると、しなやかな身体と柔らかそうな毛並みが良く見えた。口元から鋭い犬歯が少しだけ覗いており、愛らしさと野性味が絶妙に混じり合っている。


「えっと、校長……この学園の一番偉い人に会いたいのですが……」


「あ、え?えっと……」


 彼女の反応がおかしい。ジロジロと周囲を見回し、視線が定まらない。


「……?」


 俺も視線を追ってみると、周りの生徒たちがこちらを見てザワついていた。獣人と人間の生徒が、それぞれ別々のグループになっているのが目に入る。さらに、人間の生徒たちが彼女を冷ややかに見つめているのも分かった。


(……そういうことか)


「あっ……」


 俺は彼女の手を握り、人目のない場所へと移動しながら、彼女に小さく呟いた。


「俺は別にそういうのは気にしませんよ」


 彼女は困惑した表情のまま、コクッと頷いた。


 俺たちは学園の裏庭にあるベンチに腰掛け、話をすることにした。


 彼女――ノア・グレンリーフによると、この世界では獣族が忌み嫌われ、長年にわたり迫害を受けてきたらしい。

 しかし、ノワラ国の国王が獣人を受け入れると世界に公言したことで、各地の獣人たちがこの国へ移住し始めたのだという。


 だが、公言されたのが最近だったため、まだ人々にはその意思が浸透しておらず、獣人は今なお差別を受けている。ノアも学園内でいじめを受けているらしい。


「……そうなんですか。酷いやつらですね」


「でも、仕方ないの……」


 ノアは悲しそうに俯き、しくしくと小粒の涙を流していた。

 俺は、そんな彼女に手を伸ばし、言葉をかける。


「なら、俺と一緒に行動しませんか?俺も今日からこの学園に入るので、同年代の友達が欲しいんです」


「えっ……?でも、私と一緒にいたら、普通の人の友達ができなくなっちゃうよ?」


 ノアは驚愕と困惑が交じったような表情で俺を見据える。


「その時は君の友達を紹介してください。他にも獣族の生徒はいるんでしょう?」


 俺の言葉に、ノアは少しだけ微笑んで頷いた。


「……うん」


「よし、じゃあ決まりだね!」


 そうして、俺はノアに案内され、”学長”のもとへ向かうことになった。


 学長室に行くまでの間、ノアに向けられる冷たい視線や罵声に腹が立った。

 俺は目立たないように罵ってきた生徒のローブの端に小さな火球を投げつける。

 悪は罰せよ!だ。


 そして、学長室の前にたどり着いた――。


「はぁ……はぁ……階段、多すぎ……」


 学長室までの道のりは、それはもう酷かった。

 数千段はあろうかというほどの階段に、さらに各所に仕掛けられた罠。

 ノアが居なかったらとっくに俺の命は尽きていただろう。


「学長様、よく暗殺されかけるから、高い場所に部屋を作ったんだって」


(どんな学長だよ……。)


「……気を取り直して、行きましょうか」


 俺は扉をノックした。


「何者だ」


 ドスの効いた声が返ってくる。


「エルドリックさんの紹介で、入学の手続きに参りました。カイル・ブラックウッドです」


「……入室を許可する」


 扉がゆっくりと開いた瞬間、鋭い閃光が走った。


 頬をかすめた短剣の切っ先。すぐに血が流れた。


「え?」


「……ふむ。本当にブラックウッド本人だったか。すまんな、暗殺者かと思った」


(――コイツ!!)


 俺が文句を言おうと顔を上げると、そこには出会ったこともない美少女が座っていた。


「遠くからご苦労だった。では、早速書類を見せろ」


 その美しい顔から放たれるドスの効いた声に、俺はようやく状況を理解した。


(マジかよ……。)


「ん?どうした?そんなにまじまじと見て。私の顔に何か付いているのか?」


 目の前にいるのは、この学園の学長――だが、その容姿は俺の想像を大きく超えていた。


「い、いえ…その何というか、声と顔のギャップが驚きで……。」


 正直、威厳のある低い声を想像していたのに、実際には予想以上にドスの効いた渋い声。見た目は整った顔立ちの美少女のようなのに、そのギャップが強烈すぎる。


「がっはっは!よく言われる。」


(その顔でその笑い声はズルい…。)


「して、なぜ獣人の生徒がここに?」


 学長の視線がノアへ向かう。ノアは少し居心地悪そうに耳を動かしながら、俺の方をちらりと見た。


「あぁ、彼女は俺をここまで案内してくださったのです。」


「そうか、そこの生徒、ご苦労。もう下がりなさい。授業が始まってしまう。」


「はい、失礼しました。」


 俺はノアに手を振り、彼女を見送る。彼女がいなかったら迷って時間を無駄にしてたかもしれない。


(後でちゃんとお礼をしないとな。)


「……書類を見せろ。」


「はい。」


 俺は持参していた入学に関する書類を学長へ渡す。彼はそれを受け取りながら、指で書類をなぞるように確認している。


「ふむ…字の癖も、使用しているインクの原料も同じ。書類に封をしている魔力の波長もエルドリックのもの……そして、書類も本物か。」


 この少ない時間で分かったが、この人、相当他人を信じない性格らしい。

 学長の目の前に来るまでの間に何度も所持品検査をされ、今も俺は魔力を抑える手錠のようなものをつけられている。


(どんだけ厳重なんだよ。)


「ではブラックウッド。次は君の学力を試してみよう。ちょうど今日は1年生が定期小テストを受ける日だ、頑張れ。」


「はい、わかりました!」


 そうして俺は1年生の教室に案内された。中に入ると、既に席についている生徒たちがこちらを興味深そうに見ている。俺は簡単に挨拶を済ませ、指定された席に腰掛けた。


 やがてテストが始まったのだが――


(簡単すぎる…。ここの問題なんて、初めてエルドリックと出会った頃には既に知っていた内容だ。この〈四大元素を全て答えよ〉って問題なんて周知の事実だろ?大丈夫なのか……この学園。)


 俺はほぼノータイムで解答を埋め、時間を持て余しながら周囲を見渡した。

 必死にペンを走らせている生徒もいれば、苦戦している者もいる。どうやら、この学園の基準は意外とばらつきがあるようだ。


 しばらくして、テストが終わり、教師による採点も終了した。


「今回の最高点数を取ったのは、なんと100点満点で、体験入学生のカイル・ブラックウッド君です!!」


 教師が俺の名前と点数を発表すると、教室内が一気にざわつき始めた。


「マジかよ!あの体験入学のやつすげー!」

「100点満点取った奴とか今までいたか?」

「後で勉強教えてもらお!もらお!」


 と、俺と同じ年齢層の生徒たちは純粋に驚き、賞賛の声を上げている。しかし、12歳以降、つまり魔法が使える年になってから入学した生徒たちは、俺を睨みつけ、陰口を言い始めた。


(泣きたい…。)


 程なくして授業終了のチャイムが鳴った。生徒たちが俺の周りに群がり、質問の嵐が飛んでくる。


「なぁなぁ!どこから来たんだ!!」

「なんでそんなに頭が良いの!?」

「ここらでは見ない顔だな!!」

「勉強教えて!!」

「そこまでの学力を身に付けるには並大抵の努力じゃ――」

「友達になってよ!」


 聖徳太子でも捌ききれないほどの怒涛の質問をされ、俺の脳はパンク寸前だった。


「オラオラ、どけェ!アクマ憑き候補者どもが!俺が通れねえだろ!」


 どうやら年上の同級生が助けてくれたようだ。怖い顔だが、人は見かけによらな――


「おい体験入学生ぇ、面ぁ貸せや?ちょっと話そうぜ?」


 ――いや、どうやら違ったようだ。



 ―――。



 今、俺は3歳以上も年が離れた『同級生』たちに詰められている。


「何黙っちゃてんのー!?お前はどこから来たのかって聞いてんだ、よっ!」


「ぐっ!!」


 腹にグーパンを入れられた。魔法で防御しているので大したダメージはないが、痛いものは痛い。


(よし、ちょっと驚かせよう)


 ここに来る途中で購入していた杖を懐から取り出そうとしたそのとき――


「そこで何をしている!」


 ドスの効いた声が響き渡った。

 この声は――学長だ。


 すかさず杖を仕舞う。


「げ!美少女おじさんだ!」

「何?!美少女おじさんだと!?逃げろ!!」


 学長が来た瞬間、同級生たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


(美少女おじさんって…ふっ、付けた奴はセンスが良い。)


「あ、ありがとうござっいます。学長……っ」


 俺は感謝するとともに、少しだけ声を漏らしてしまった。


「何か面白いことでも?」


 学長の目が光る。


「いえ!なんでもありません!学長はどうしてここへ?」


 そう言うと、学長はゴホンと咳払いをして続ける。


「テストが終わっても私の部屋に来なかったのは君じゃないか。しかし…聞いたよテストの結果を。満点獲ったんだって?この成績じゃ逆に入学を推薦したいくらいだ。」


「なんたってうちは学力至上主義の学園だからね。」


 学長はにやりと笑って俺を見据える。


「つまり…合格ってこと、ですか?」


 俺がそう言うと、学長はきょとんとした表情になった。


「今そう言ったじゃないか?まぁ…それじゃあ明日また学長室に来てくれ。制服と教科書を用意しておくから。」


 学長はそう言いながら懐から杖を出した。


「分かりました。ではまた明日伺います。」


 俺はペコっと頭を下げる。


「あぁ、それと…私が学長室から降りてきてことは他言無用で頼む。」


「え?」


 そう言った直後、学長の身体が徐々に透け始め、魔力の粒子となって消えていった。


「えぇ!?学長!?」


 すると、どこからともなく、あのドスの効いた声が響いた。


「これは私が”造り”出した唯一魔法だ。面白いだろう?この学園では、自分自身のオリジナルの魔法をいくらでも開発、研究できる。」

「まぁ…そこまで魔法を極められるかは、君次第だがね。」


 学長の言葉に、俺はこの学園にますます興味を持った。

10話は夕方に投稿します!

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「……入出を許可する」 入室ではないかと。
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