2-6 予定外
まずは整理していこう。車の中で人我に返って冷静に考えだした。何故なら、今から向かう先にいるのは、人の心を掴むのが非常に上手い、桜井カノである。
桜井カノとは、臓器売買の新ルートの窓口とされる人物で、私の所属?している組織が潰しのあしがかりとして、私の仕事である調査対象だ。なぜ私が調査員に任命されたかと言うと、桜井カノは、私と共通するのが"主婦"なのだ。
私もつい2、3ヶ月前は、普通の主婦だったので、上手く潜り込めると組織側は思ったのだろう。
「主婦ったって、あれはなんか違う…。」
頭の中で整理しながら独り言でぼやいているうちに、目的地に着いてしまった。
着いた場所は、閑静な住宅街。この土地に古くから聳えるアパート群だ。同じ造りの10棟以上が坂の上に並び、様々な家庭が入居している。昔から住んでいる老夫婦、その孫家族、または近隣の小中学の生徒の家族などだ。しかし、多種多様な構成ではあるが、まるで大きな社宅のように一丸となったイベントも多いなど、近年稀に見る近所付き合いも強い場所なのだ。
自分の娘の友達もこの近所に住んでるらしいので、見知った顔と出くわすことは避けたいところだ。そんなことをぼんやり考えていたその刹那。
「あれ?リーこ?」
聞き覚えのある声か私を呼ぶ。勢いよく声の方へ振り向くと、私の数少ない友人がキョトンとした顔でこちらを見ていたのだ。
声の主の名は、マイ。人当たりが良く、とてもスタイルも良い美人。私が持っていない物を全部持ってるような素敵な女性だ。
「ここに知り合いでもいるの?」
はっと我に帰す声の主が、私をさらに覗き込んで聞いてくる。
「し、仕事でちょっと…。そんなマイはなんでここに?」
質問を質問で返す私を訝しがりるも、マイは素直に答えてくれた。
「ほら、前に話したことある昔の友達がね、ここに…。」
マイが話終わる前に、私の手のひらと背中が謎の痛みに襲われて、顔を歪め前のめりになる。
「大丈夫?!熱中症かな!」
マイが心配して駆け寄ってきた。私はマイに余計な心配をさせまいと、必死に作り笑いをする。しかし、マイにはそんなことお見通しと言わんばかりにぐいっと私の肩を担いで、ずんずん歩き出した。
「ほんとに顔色悪いよ。近くにわしの友人がいるからそこで休ませてもらおう!」
嫌な予感がする…。そんなことをぼんやり考えながら、フラフラな私はマイに担がれてメゾンパークの一室に向かうのだった。
つづく