2-5: 繋がり
今回のミッションは、簡単だ。まずは、臓器売買の窓口とされている主婦の桜井カノをマークして、売買ルートの大元を割り出す。ただ、それだけだ。
……ウシザキは、そう言っていたのを思い出す。
「いやいやいやいやっ!」
皿洗いをしながら1人ツッコミをする私を、家族が不思議そうに覗き込んできた。
「大丈夫?最近ママってば忙しそう…。」
一人娘がつまらなそさうに目を伏せる。しかしあっという間に機嫌が良くなり、猫なで声で話し出した。
「最近流行ってる、匂い袋が欲しいんだけど〜。」
匂い袋?この令和の時代に?
「神秘的な匂いがするんだって。人によってはその匂いで落ち着いたり、眠れたり?よく知らないけど。」
子供達の間で流行るくらいだから、そんなに危険ではないのかもしれない。しかし、野生の勘と言うべきか分からないが、二つ返事でOKとは言えなかった。
「匂い袋の原料って分かるの?」
娘は首を横に振る。その問いにふと悟ったような顔で娘が口を開いた。
「ダメ、なんだよね。ママってば、質問に質問で答える時はそうだしー。」
「うーん、中の物が分かればいいけどね。」
賢い子に育ってくれている。娘の成長を嬉しく思うその奥で妙な胸騒ぎがした。
「ね、その臭い袋はどこで買えるの?」
娘はキョトンとした顔で答える。
「近い場所だよ。ほら、坂の上のメゾンパークで。」
それを聞いた私はきっと顔面蒼白になっていたは違いない。
娘が心配して顔を覗き込んできたくらい、呆然としていたようだ。
メゾンパーク。それは、あの桜井カノが住んでいる住宅街なのだ。しかし、桜井カノがこの匂い袋の件に絡んでるかは不明である。そんな私の頭の中に確信が生まれた。
ーーあの時、彼女の部屋に入った時の違和感、あれは確かにお香のような匂い!繋がった。
「今夜は早めにバー巡り行くけど、大丈夫?」
家族への不安はないが、匂い件で早く解決にしなければ、という別の不安が沸き起こった。そんな私を見て、娘はにこっと笑う。
「いいよ、私ももう高校だよ。気にしすぎ!」
反抗期が過ぎたせいか、とても穏やかなこの子の笑顔は本当に癒される。本当に、必殺仕事人の気分だ。
「鍵ちゃんとかけてね。友達と夜出かけるならしっかり目的地を…。」
「わかってるって!早く行きなよー。」
娘の後押しにより、まだBARが開いてるかわからない時間だが、私は裏の住人御用達のBARへと急ぐ。
まずは、この匂い袋の話を共有して、桜井カノへの対策を練ることが必要だ。桜井カノを警戒しすぎなのも分かっている。だが、それよりも背中を伝う汗が止まらないのだ。
「おや?早いね、ルカ。」
BARの店主が軽い口調で言う。
このBARは、裏の住人が情報交換などをするのに利用しており、店主もそこを理解して私を微笑んで迎えた。
「ウシザキはいつ来る?急ぎの話があるんだけど。」
額に汗をかく私を見て、店主は静かに答える。
「いつ来るかは分からないよ。でも伝言は預かるから。」
たしかに、ここに来る予定など不明であり、私を含めほぼ全員そうなのだ。裏の住人あるある、である。
なるべく直に分かってること。伝えて、一緒にきて欲しかったが、いつ来るかわからない奴を待つほど余裕なかった。
「マスター、行ってきます。」
「いってらっしゃい。くれぐれも気をつけるんだよ。」
白髪混じりのロマンスグレイな紳士、それがこの店のバーテンダーだ。オーナーでもある彼は、みんなからマスターと呼ばれている。バーテンダーのスキルも超一流で、世界大会も出たことがあるとかなんとか。そんなマスターが少し眉を顰めて不安そうな顔をしたこなど私が知るはずなく、急いでメゾンパークへと赴くのだった。
つづく