2-4: 振り出しへ
友人のマイがBAR BRAVEを去った数分後、タイミングよくウシザキが店に入ってきた。
「本日は私の貸切なんですけどー。」
ウシザキは、不機嫌な眼差しを向けられて逆にキレている。
「ふざけんなよ、お前が呼んだんだろうが!」
もっともな反応である。確かに私が呼んだわけだから、そんな言いがかりはいい迷惑だろう。。が、いまはそれどころではないのだ。
「今日…あ、昨日か。あの人連れて行ったの誰?」
唐突な私の問いに、ウシザキはすぐに察する。バーテンダーにモスコミュールを頼んで、ゆっくり席に着いた。
「あれは、宗教を後ろに持つ女だ。あれが臓器売買の入口だったよ。かなり厄介なら女だったな。」
「その女の人、どこに?」
私の矢継ぎ早な質問だったが、ウシザキは淡々と答える。
「主婦ってのは事実だが、未亡人だ。子供も居ない。そして、あれの存在は、氷山の一角と俺は見ている。」
「そうじゃなくて、、」
聞きたいことは色々あるけど、まずは彼女の行方が知りたい。何故なら、私の友人が探している人でもあるからだ。
「もう家に返した。もうそろそろ家の前に置いていく頃だ。」
「どういうこと…?」
現在分かってるのは、臓器売買の新ルートと窓口が、とある住宅街にいる主婦だということで、私が接触した桜井カノの可能性があり、それはすぐに確定したとのこと。
桜井カノは、私の友人の元親友である。
窓口が判明したところで依頼は完了したと思っていたら、さらにその新ルートの壊滅までが、本来の依頼だという。
なので、桜井カノは、一旦解放してそこから大元を炙り出すことになった。ここが、最新情報である。
一通りの説明を終えて、ウシザキはまっすぐこちらを見て、一枚の紙を私に渡して喋り出す。
「そこでだ、お前はここからもこの仕事やってもらうことになった。ボスからの直々の依頼だぞ。」
渡された紙には、真紅の紋章のような印字。
「仕事が終わった後、これを持ってボスのところにいくぞ。そうすりゃ、一人前だよ。」
すこし早口に喋るウシザキは、なんだか嬉しそうだ。もうサポートしなくていいからなのか、私の成長を単純に喜んでくれてるのか、、どちらにしてもこれは是非とも成功させねばならないと、私は感じた。
「つまり、引き続き、桜井カノに張り付けってことね。」
私のまとめを聞いて、ウシザキは指を鳴らして頷く。
私は、彼女にまだ裏の住人とバレてないらしい。
主婦としての私の力でこの仕事をこなして、報酬がっつり頂くぞ!と小さく握り拳を振った。
しかし、私を含め様々な人間が、桜井カノを中心に惨劇と謀略に巻き込まれていくこととなるのだ。
ウシザキは、小さく呟いた。
「おまえ、死ぬかもな。」
聞き取れず、それを聞き返そうと私が振り向くと、ウシザキはいつも通りの笑顔で私の背中をどんっと叩く。
「がんばれよ、ってことだ。宗教がらみは厄介だからな。」
ウシザキの言うとおり、桜井カノの後ろには宗教がいる。
まずはそこから調べよう。あと、マイにも話を聞いとこうかな。やるとこが多いが楽しい。そんなふうにわくわくしている私に、ウシザキは一抹の不安を覚えていた。
ウシザキの予想通り、私が一人前の?裏の住人になるためのこの試験は、予想以上に困難で後悔と迷走をすることとなるのである。
つづく