覚醒
晴れやかな気分だわ。
とっても気分がいい。
ずっと頭の中にあった曇り空が、一気に晴れて青いお空が広がったみたいに気持ちいい。
「さぁ、魔物達! 私が成敗してあげるっ!」
私は頭の中にある『大百科事典』を勢いよく開いた。
中から溢れ出るのは魔法の知識。賢者が所持していた数々の魔法たち。
溢れ出る中からチョイスしたのは、物体を自由に動かす無属性魔法。
これなら使える。
今の私でもギリギリ使える範囲の魔法だわ!
「ふぬぬ!」
頭の中に描かれた魔法陣を現実のものとし、紫色の魔法陣を魔力量全開で構築していく。
だけど、ギリギリと言った通り、私の体が警告を鳴らし始める。
私の小さくてかわいいお鼻から鼻血が出てきてしまった。
「ガーネット様ッ!」
鼻血を流す私を見たせいか、ルーシェは悲痛な叫びをあげて制止しようとする。
「大丈夫よ、ルーシェ」
心配かけてごめんなさい。
でもね、安心してね。
「私が貴女を守ってあげる」
意識が飛びそうになるが唇を噛んで無理矢理防ぐと、私が発動した物体操作魔法は周囲に転がる複数のブラックウルフの死体に作用した。
ブラックウルフの心臓にある魔石が肉を突き破って宙に飛び出し、飛び出した魔石が私の元に集う。
天に向かって腕を伸ばす私の元には二十もの魔石が宙を浮かび、伸ばした腕の先で大きな円を作る。
これだけあれば大丈夫!
私は魔石から魔力を抽出しつつ、再び頭の大百科事典を開いた。
検索して見つけたのは、悪しき存在を滅ぼす大魔法。
かつて、戦争で引き裂かれそうになったエルフの姉妹が開発した最強の魔法。
「ああ、白く輝く戦乙女よ。どうか私の願いを聞いて下さい」
鼻血を垂らしながらも、私は私とルーシェの間に割って入ろうとするトロールに向けて詠唱を開始する。
「ああ、白く輝く戦乙女よ。どうか光輝くその槍で、悪しき存在にに鉄槌を――」
詠唱が終盤に差し掛かると、宙で円を描いていた魔石が一斉に砕け散る。
砕けた魔石の粒が魔力となり、構築する魔法陣に吸い込まれていった。
これこそ、魔石を触媒として使った証拠。
正しく魔法使いとして機能した証拠。
『私は魔法使いである』
誰かがそう言った気がした。
その声を聞いて、私は「くしし」と笑ってしまった。
さぁ、見せてあげる。
「堕ちろッ! ヴァルキュリア・ランスッ!」
最後の一節を唱えると同時に右腕を振り下ろす。
すると、トロールの頭上に白く輝く巨大な魔法陣が生成された。
魔法陣より放たれるは、白く光り輝く巨大な槍。
ゆりんゆりんな愛は光の槍となってこの世に顕現し、全ての不埒者に鉄槌を下す。
顕現した白き断罪の槍は私とルーシェの人生を邪魔せんとするトロールの頭上に落ちる。
「――――ッ!!」
卑しいトロールは断末魔を上げる事すら許されない。
体は真っ二つに引き裂かれ、白き百合の炎に魂すらも燃やされてこの世から消え去った。
「ガ、ガーネット様……」
背後からルーシェの声が聞こえた。
私は鼻血をぐいっと拭ってから振り返る。
「ルーシェ、平気?」
唖然とするルーシェに微笑みながら問うと、彼女の顔が赤くなっていくのが分かった。
彼女は「あ、う」と声にならない声を発していたけど、私は笑顔を絶やさないまま言葉を続けた。
「ルーシェ、私が貴女を守ってあげる。だから、ずっとそばにいてね。いなくなっちゃ、嫌よ」
「ガーネット様……」
――その日、ユリスキー家の所有する果実園に百合の風が吹いた。
もしも、ガーネットと同じ趣向を持つ同志達がこの場を見ていたら、口を揃えて言うだろう。
まるで二大賢者の合同本に描かれたラストページのようだ、と。
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・おねロリは続くよロリじゃなくなるまで
結局のところ、果実園で起きた魔物の襲来は謎のままである。
遠く離れた縄張りから移動してきた魔物の群れが、たまたま果実園に辿り着いたのか。
はたまた謎多き魔物の習性故の行動なのか。
荒れてしまった果実園はしばらく封鎖され、裏の山も侯爵家の騎士団が改めて調査を行う事になった。
屋敷もこのままでは危険であるとの意見も出され、新たな場所に移動させる計画も浮かんでいるとお母様達が話し合っていた。
それはさておき。
侯爵家の者達が一番気にしているのは、やはり私のことみたい。
「上位魔法を撃ったと聞いたが、どうやって撃ったんだい?」
領外へ出ていたお父様は知らせを受けると大急ぎで屋敷へ帰還。
帰還後は全員の無事を確認して詳細を聞き、私に質問をしたというわけである。
「なんか、できた」
考えた末の答えでもある。
何故か魔法に関する知識が頭の中にあると言っても信じてくれないだろうし。
かといって答えにもなっていないから、私は怒られちゃうかな? と思っていたんだけど。
「可愛いからよしッ! ガーネットたんはちゅごいね~!」
お父様は全然怒らなかった。
むしろ、全員助かったし、騎士達も死亡者無しだし、別に良いじゃんといった感じらしい。
「あら~。お母様はちょっと心配だけど~……。みんなが助かったのはガーネットのおかげよね」
お母様はお父様に頬擦りされる私を奪い去るように抱え、自分の膝の上に乗せると背中からぎゅっと抱きしてくれた。
「当然だわ。これからも私が皆を守るもの。大好きなお母様もルーシェも、みんな」
だって、私は家族を愛しているもの。
愛する家族を守り、美少女も守る。
それが私、ガーネット・レズセ・ユリスキーなのよ!
「ガ、ガーネット様……」
自分でも自覚しているキメ顔を作ってみせると、私をじっと見つめていたルーシェが吐息を漏らすように私の名を呟いた。
「あっ、そうだわ!」
私を膝の上に置くお母様がポンと手を打つ。
「凄い魔法を使えるなら、ガーネットは魔法学園に入学した方が良いのかもしれないわね」
普通の貴族令嬢であれば、王立学園に入学して貴族としてのマナーや政治を学ぶ。
この時に魔法を暴走させないよう魔法の訓練を受けるが、魔法専門である魔法学園に比べて簡単な事しか学ばない。
しかし、魔法を専門とする魔法学園に入学すればより高度な勉強が受けられる。
貴族の中でも魔法の才能を持つ者は魔法学園に入学して、卒業後の進路は宮廷魔法士や学園所属の魔法学者など……魔法に関連する職に就く事ができるみたい。
「どうかしら?」
学園という響きは大変よろしい。
学園という舞台は特別だ。限られた時間の中、限られた空間の中で甘酸っぱい時を過ごす。
学園と百合。
それはまるで紅茶とミルクのように、融合して至高の物として成る要素だろう。
「行きます」
私は即決した。
魔法を学びに行くんじゃない。魔法学園に入学して来た美少女達と出会う為に。
「ルーシェも一緒に行ってくれる?」
「勿論です。身の回りのお世話は私がしますからね」
前のめりになって宣言するルーシェを見ると、私の中にある野望がメラメラと燃え上がる。
それにね、ついでに主席で卒業すればお母様達も喜んでくれるでしょうし。
ああ、そうだ!
学園で主席になれば、たくさんの美少女が私に寄ってくるかも!?
「お母様、私は主席で卒業しますからね! 楽しみに待っていて下さい!」
「まぁ! ガーネットなら本気で主席卒業しちゃいそうね~」
この先、私はどんな出会いを――どんな美少女と出会えるのだろう?
「くしし。楽しみ!」
本作を読んで下さりありがとうございました。
最後に懺悔しますが、作者は百合にわかです。
本当に申し訳ないと思っている!




