0歳
次に目覚めた時は知らない天井があった。
誰かが山小屋で倒れている私を見つけてくれて、王都の医療院でにも運んでくれたのかと推測するが……。
しかし、顔を左右に向けると目の前には木で出来た格子がはめられているではないか。
一瞬だけ「牢屋か?」と思ったものの、格子は天井まで伸びていない。
背中からは柔らかな感触が伝わって、自分はベッドか何かの上で仰向けに寝かされているのだと気付く。
「あうあー」
どういうことだー。そう言おうとするも、ハッキリとした言葉を発せられない。
「あぶぶ、あぶぶ」
まさか倒れた時の後遺症か何かで言葉を発する事が出来なくなってしまったのか。
どうにか立ち上がろうと手足を動かすが、体が思うように動かなかった。
一体どういう事か。一体何が起きているんだ。
混乱していると、脇から大きな影が差す。
「あら。ガーネット様。どうしたんですか?」
ぬっと現れたのは巨人である。それもとびきり美人な巨人だ。
キラキラと光る銀の長い髪に宝石のような青い瞳。整った容姿を見て思わず「あぶぶ(綺麗だ)」と口にしてしまった。
細い両手で掬いあげられ、胸元に抱き上げられると美人の巨人はニコリと笑った。
「お可愛いですね」
「あぶ」
君の方が可愛いよ。そう言いたいが言葉にならない。
美人な巨人に抱かれていると次第に眠気に襲われた。抗いきれず、目を瞑るしか出来なかった。
次に目覚めた時は強烈な空腹に襲われた。腹が減ったと口にすると別の美人な巨人が現れて乳を与えてくれた。
この時点で察したのだ。
「あびゃー(私は赤ちゃんだ)」
自分のテリトリーは赤ちゃん用のベッドで、世話をしてくれている美人な巨人は恐らくメイドだ。
乳をくれた美人な巨人は母親で、たまに顔を見に来ては気持ち悪いほどデレデレな表情を突き付けて来る巨人男が父親なのだろうと察する。
「あぶうぅ(一体、どういう事なんだ)」
老人だった体が赤ちゃんになって、見知らぬ親元で世話されているとは。
考えられる答えとしては、あのまま山小屋で死亡。その後、また世に生を受けた。
所謂、転生というやつである。
「あぶぅっぶぅっ(生前の記憶を持っているのが普通なのだろうか? いや、そうだったら自分の前世はさーと世界中の人が話していないとおかしい)」
そんな話は聞いた事がない。
とはいえ、この状況は少し理解し難い。
無理矢理にでも転生したと思わなければ納得できない状況だ。
「あぶっぶぅぅ……(世界には摩訶不思議な事が溢れているな。ともあれ、今の状態ではどうにもなるまい……)」
ここまで考えた時点で、何度目かの眠気に襲われる。
抗う事が出来ずに再び眠りに落ちた。
こうして、食っちゃ寝食っちゃ寝の歳月を過ごし……遂に体ある程度自由に動かせるまで成長する。
元老人、元賢者。
私は遂に確認する時が来たのだ。
この日まで考え続け、まさかと思っていた事を確認せねばならない。
ちっちゃい手で自分の下半身を触った。主に股間を触って、確かめる。
私は無言でオムツの中に手をぶち込んだ。
股間に手を当てた瞬間、私の脳裏に電流が走った。
「ちんち、ない」
転生後、初めて発した言葉であった。




